明治37年7月15日(金曜日)

敵駆逐艦ノーウイック艦長の奮闘 敵の艦長の中で最も優れていると賞賛している

日本酒の一大改良 夏期に腐敗せず冬期に氷結しない日本酒を作り出す

露国と革命 今日ほど革命の機運の熟した事は無く、不平の声は至る所に聞こえる

敵駆逐艦ノーウイック艦長の奮闘

我が艦隊の旅順攻撃に際して、真先に出てきて我が艦隊に対抗するのは毎度ノーウイックで、同艦は一度我が駆逐艦や水雷艇の影を見るや否や速力20ノット以上で接近し攻撃し、その動き極めて敏捷である。同艦艦長が敵の艦長の中で最も優れていると我が艦艇において賞賛していると某将校が語っている。

日本酒の一大改良

醸造試験所は夏期に腐敗せず冬期に氷結しない日本酒を作り出すために試験していたがこの度好成績を得ることが出来た。この結果を陸海軍省に通知したところ両省はこの酒でなければ買い入れないことに決定したという。この新しい精製法とは清酒1石を冷やし氷結させ、その氷結した氷を取り除く手法である。その結果5斗の純良酒を得ることが出来る。この酒は氷点下20度から華氏100度でもビンまたは樽詰めの状態でその味は決して悪くならない。之を飲む時は、適当な湯を混ぜれば燗酒となり氷を混ぜれば冷酒となり非常に美味しい。

露国と革命

露国領土内において政府に不満を持つ者に、露人、フィンランド人、アルメニア人、ポーランド人やコーカサス人が居る。露国でも今日ほど革命の機運の熟した事は無く、不平の声は至る所に聞こえ、その内最も激しいのが農民である。露国の農民は一種の農奴で終生教育を受けず地位の上がる見込みは無く、ただ屈辱、抑圧の下で涙を呑んでその生を送らざるを得ない。一方で政府はこれら農民より苛税を取立て、国庫に万億の富を蓄えている。これら農民は不平を持っているものの、この運動を統合する者が居ない。ここに不思議なことに露国の中で貴族又は地主で農民のためにこの運動の統合一致を図ろうとする者がある。しかしある者は投獄されある者は追放され何ら結果を見ていない。又別に学生、職工、官吏や軍人等からなる過激な一派があり、激を飛ばし或いは爆薬でテロを行おうとする。

しかし露国は大国であり人口1億3千万人でたとえ数万人の不平家がこぞって政府に反してもこれは蒼海の一粟に過ぎない。今回の戦争中、一大革命運動が起こるというのは期待のし過ぎであろうか。

解説:1904年2月、日露戦争が勃発すると当時ロシア公使館付き武官陸軍大佐明石元二郎は、スエーデンの首都ストックホルムにおもむき、ロシア国内の反政府運動の端緒をつかみ、同時にポーランド人を利用してロシアに対する反乱を起こさせるように密命を受けた。その後ストックホルムの日本大使館を根城にパリー、ロンドン、ノルウエーのベルゲンとヨーロッパを股にかけ、ロシア革命運動のため行った縦横の活躍はスケールの大きさと大胆不敵な点において日本的スケールをはみ出すものであった。明石大佐はわが国で最も早い時期にレーニンに注目した人物でもあった。(人物往来社 世界の戦史より)