明治41年8月の世界情勢

主要記事

期日 日本関係 期日 露清関係 期日 英米関連 期日 独仏その他関連
8月11日 非亜細亜協会  8月10日 マケドニア改革案通牒  8月1日 土耳古の英国大使歓迎 8月3日 土耳古憲政形勢
8月12日 米紙の虚喝 8月14日 米清同盟論  8月5日 煙館閉鎖非難  8月4日 波斯再び不穏 
8月14日 大隈伯所論攻撃  8月19日 米清同盟論 8月5日 太平洋軍港案 8月4日 伊領の新櫌亂 
8月18日 艦隊歓迎と米紙  8月23日 北京分科大学創立 8月6日 鉄道王の運賃引上げ談 8月8日 土耳古政変後報
8月21日 エバンスの日米関係論      8月11日 米国大西洋艦隊  8月13日 波斯に於ける独逸
8月27日 排日思想煽揚     8月11日 新飛行機発明 8月15日 和蘭の示威運動
8月29日 日本学生と労働者     8月19日 英国海軍公債 8月16日 土耳古内政改革 
        8月21日 米国不景気影響  8月18日 土耳古前陸相出獄 
        8月22日 米国艦隊歓迎 8月22日 公果合併可決 
        8月26日 印度織物業不景気 8月23日 トルコ皇室費削減
        8月31日 米国艦隊歓迎  8月24日 摩国官兵大敗
            8月25日 摩洛哥局面一変 
            8月29日 佛国と摩洛哥

世界情勢

8月1日

印度人革命協会 31日タイムス社発

バンクーバー特報に依れば、今回太平洋沿岸に於いてインド人協会が新たに設立され、英国のインド行政に対して反乱を教唆する過激な文書を出版しようとしている。尚同協会は、米国に於ける英国反対者より寄付金を受けているとの噂がある。

土耳古の英国大使歓迎 20日上海経由ロイター社発

トルコ駐在英国大使ローサー氏は、コンスタンチノープルに到着したが、自由派に属するトルコ人の群衆が駅に集まり、盛んに英国、自由、憲政の万歳を唱え、同時に氏を馬車まで案内した。

解説:7月10日に関連記事土耳古の親英熱 」がある。

米鉄外国貿易停止 30日桑港特派員発

各鉄道会社が東洋、豪州、その他の輸出入貨物の輸送を停止するとの報道は、インターステイト商業委員会を驚かし、大変な重大事件と見なされているが、同委員会は決議を変更する様な事は行わないと思われる。それは、同委員会の委員多数が委員会の規定を以て、鉄道会社の横暴を抑える唯一の方法であると信じている為に、貨物輸送を取り扱う事が出来なくなっても止むを得ないと見なしており、又一方貨物輸送停止説は、鉄道会社の脅迫に過ぎないと見る者も居る。又シカゴ商業協会は、今回の事件は米国貿易に大打撃を与えると考え、適切な解決方法の調査に着手した。同協会は大体に於いて内地輸送と輸出輸入との間には4割から5割運賃に相違があっても止むを得ないものと認めている。

 

8月2日

東洋移民密入国 1日タイムス社発

バンクーバー特報によれば、大統領ルーズベルト氏の命令に基づき、日清人の米本土入国に関して調査した結果、メキシコ、英領コロンビア国境の移民官等は、最初英領コロンビア等に到着したアジア人を米領土に密入国させる謀議に関係し、これを黙認している事を発見した。

土耳古皇帝落胆 同上

コンスタンチノープル来電―廷臣等の言によれば、革命運動の成功を見る事になったのは、完全にトルコ皇帝の神経が衰弱された結果であり、皇帝は、現在これについて非常に落胆されている様子である。又これらの事情に精通している人々は、今後の情勢に就いて不安の念を抱いている。特に多数の罪人が出獄した事実に鑑み、今後は現在よりも一層大きな譲歩とある宮廷の廷臣等の免職を要求する様な事が起こるであろうと予想される。

佛国労働者暴動 31日上海経由ロイター社発

昨日パリー近郊の村で発生した暴動は、事実上革命運動であった。これに先立ち労働同盟会は、資本家を屈服させる手段として24時間以内に一般的同盟罷工を実行すべき旨命令した檄文を発した。又当日兵士は非常な忍耐を以て行動した為に、労働者はさんざんに敗北した。

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土耳古憲政形勢 2日上海経由ロイター社発

トルコ皇帝は、一昨日及び昨日セラムリクに行幸し、途中常に馬車上に起立して、軍隊及び人民の喝采を受けた。これが終わった後、又首都駐在の外交団全部を謁見し、熱心に列強の援助を求め、同時に自己が憲法を尊重する決意が固いことを言明した。

第二軍隊の根拠地であるアドリアノブに於いては、トルコ皇帝反対の感情が強く、皇帝を敬う掲示は引き破られた。又公園で行われた大集会は、皇帝の万歳を唱える事に反対し、且つ首都に向け、軍隊は憲法を玩具にする事を許さないと公言する文書を発送した。

解説:青年トルコ人革命と呼ばれる時代の記事であり、明治41726日「土耳古憲政論評」から29日、30日、31日と関連記事がある。

マケドニアに駐屯する第三軍団の青年将校が皇帝の専制に対し武装蜂起し、皇帝はこれを鎮圧する為部隊を派遣した。しかし鎮圧部隊が叛乱側に寝返った為、723日、皇帝は叛乱部隊の要求どおり憲政の復活を宣言している。

大北鉄道社長談 1日紐育特派員発 

大北鉄道会社社長ヒル氏は、次の様に語った。

太平洋岸の東洋航路に於いては、米国汽船会社は年々収益が減少し、寧ろ赤字の姿である。若しいよいよこの航路を中止するならば、米国国旗は太平洋上で見ることが出来なくなるであろう。

現在の対策としては、唯航海の保護を得る事にある。

欧州航路運賃騰貴 同上

米国鉄道運賃全般の引上げの結果、米国及び欧州大陸間航路の汽船運賃は、殆ど2倍に高騰した。穀物類、綿等が大きな影響を蒙っており、その為に事業者は一致して反対運動中である。

 

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波斯再び不穏 3日上海経由ロイター社発

トルコの憲政実施は、ペルシャのテヘランの人心に非常に影響し、再び騒動を引き起こす模様である。商人達を主体とする百名以上の人員がトルコ大使館に逃れ、同時に速やかに議会を招集するよう要求しつつある。

土耳古憲政後報 1日ベルリン特約通信社発

トルコ皇帝が第一公式馬車で礼拝堂に行幸される時、群衆は狂喜してこれを迎えた。この際皇帝は無蓋車にお乗りになり、撮影を許された。なおこの時独逸の弁理公使は独逸皇帝の祝辞をトルコ皇帝に奉呈した。又トルコ青年団は、皇帝に対して敵意ある行動を取る事を中止し始めつつある。ロンドンタイムスは、トルコの状況に鑑み、エジプト及びインドにもこの例に倣う事を忠告している。

伊領の新櫌亂 2日ベルリン特約通信社発

伊領ソマリーランドが更に乱れて、伊国政府はこれに対し断固とした措置を取ると思われる。

解説:現在海賊問題が起こっているソマリアは、当時イタリアの領土であった。

 

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煙館閉鎖非難 4日上海経由ロイター社発

前香港総督サー、ヘンリー、ブレーキ氏は、長文の書簡を送り、政府が実地を十分に調査しなくて香港の煙館を閉鎖する事を猛烈に非難し、九龍広東鉄道の価値を高める貿易は、この為に早晩衰退して、歳入に大損失を及ぼすであろうと論じた。

解説:煙館とは、阿片を吸引する場所である。香港で阿片を禁止すると貿易収支が赤字となると主張しているようである。

太平洋軍港案 2日桑港特派員発

米国海軍省は、ハワイのパール湾に完全なドックを設け、最も完全な軍港とする必要があるとの報告を受けた。港湾の設備は、前期議会で議決を経ているが更に来期議会に追加費を要求し、太平洋における最大の軍港とする計画である。

解説:パール湾とは、現在のパールハーバアと思われる。

 

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土国国民党暴動 5日タイムス社発

露都来電―トルコ国民党の運動は、オーストリア領ボスニア、ヘルツエゴビナ州方面にまで蔓延し、各地に血を流しつつある。トルコの官兵はこれに対して再び根本的な掃討を行おうとしている。

日本海軍の将来 4日桑港特派員発

独逸海軍協会の報告によれば、日本は財政困難と称しながらますます軍艦の建造を企てている。そして1911年には世界第3位の海軍国となるであろうと述べている。

鉄道王の運賃引上げ談 同上

鉄道王ハリマン氏はシカゴに於いて次の様に語った。

鉄道会社が運賃を引き上げるのは止むを得ない事である。何となれば線路を延長して、一般の便利を図る為には収入を増やさなければならない。そして現在は貨物の運賃を引き上げる好機であるかと質問すると、正しい事を行うのには何時でも出来ると答えた。

 

8月7

土耳古内閣危機別報 5日上海経由ロイター社発

トルコ海相が辞職した。世論が沸騰し、過激派は内閣の総辞職を促し、その後には純然たる自由派の内閣を組織させようと息巻いている。尚海相の外に4人の大臣が辞職したとの情報がある。

独逸軽気球火災別報 6日上海経由ロイター社発

ツェッペリン伯の軽気球がスツ、ラガルト付近に於いて暴風雨に遭遇し、火災を起こし空中で焼失した。伯は安全であったが負傷者数名が発生した。

米鉄改正運賃率 5日紐育特派員発

我が輸入品に対する鉄道運賃はいよいよ111日から実施する事となり、次の様に確定した。

一、アンチモン 1カロード以内1ドル

一、竹籠及び竹細工類 1カロード 1ドル50セント

一、生糸 1カロード 4ドル

(刷毛、骨董品(玩具、貴金属、装飾品)、陶磁器、提灯(傘、ナプキン、扇、団扇)、漆器類、花筵、製茶類、については運賃省略)

以上の運賃は最早動かないものであるが、未だ内地商業取締委員の承認を受けていない。しかしこの運賃は実行することが確実である。

解説:カロードの単位は不明であるがガロンとすると、1ガロンは3,785リットルである。

   これは連日のように報道されている鉄道運賃の値上げである。

 

8月8日

土耳古政変後報 7日タイムス社発

コンスタンチノープル来電―改革委員がトルコ帝に要請した結果、キャメル氏が新内閣を組織した。氏は、前首相サイド、パシャより一層自由主義の政治家である。

宮廷の有力者は、事実上ほとんど全て逮捕された。中には何処かに逃亡した者も居る。改革委員は一つの宣言を行い、動乱の計画者を反逆者とする運動を停止する様要求した。

新任の英国大使は、当地官民の熱烈な歓迎を受けた。

独逸軽気球火災後報 6日上海経由ロイター社発

独逸軽気球の火災を見物していた4万人の群衆は、戦慄した。綱を持っていた数名の軍人は、空中に投げだされて負傷した。ツェッペリン伯は、今回の失敗に痛く失望した。独逸政府は、伯の為に2万5千ポンドの救済費を支払った。

ツェッペリン伯の名誉 6日ベルリン特約通信社発

独逸政府は、ツェッペリン伯に50万マルクを支給し、名誉を讃えると思われる。その外に独逸の各地で、伯の為に義援金が募集中である。その他独逸首相は、伯が今後の努力に十分な補助を与える旨の電報を送った。

 

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ツ伯義損金 7日上海経由ロイター社発

ツェッペリン伯の為に募集された義損金は、独逸の至る所で応募されつつあり、某富豪の如きは、新軽気球を作成する費用として5千ポンドを伯に寄贈した。

解説:義損金は義援金と同意義

 

鉄道王ハリマン氏談 8日桑港特派員発

鉄道王ハリマン氏は昨日当地に到着し、次の様に述べた。

鉄道運賃の引き上げは、止むを得ない事である。鉄道会社は、何故他の営利企業と同様に、営業を継続する為に必要な運賃を徴集する事が出来ないのか。太平洋航路は、日本人又は何れの国にも売却しない。しかし危険な状態であるのは事実であり、与は航海法の制定を政府にも立法部にも要望せざるを得ない。間もなく、疑いなく国会が何らかの手段をとるであろう。

 

8月10日

マケドニア改革案通牒 9日上海経由ロイター社発

露国政府は、マケドニア改革に関する英露両国の提案を列国に通知した。但しこれは単に通告だけであり、協議の意味を含んでいない。この通知の要旨は、トルコに於ける情勢の変化に鑑み、列国は改革を実行しようとするトルコ帝の希望に対し不信を表明する様な事は避けなければならない。露国は新政を忠実に実施しようとするトルコの尽力に同情する。

土耳古の新内閣 8日タイムス社発

コンスタンチノープル来電―新内閣は歓迎されており、商業上の信用が次第に挽回中である。前陸軍大臣メーメット、リザ(アルメニア人で前アルメニアの族長)は逮捕され、涜職罪で罰せられた。

解説:涜職罪とは、職権乱用や賄賂による罪を意味する。

 

8月11日

米国大西洋艦隊 10日タイムス社発

オークランド来電―米国大西洋艦隊が当地に到着した。スパリー提督の語ったところによると、同艦隊に対する当地の歓迎は、加州人の歓迎よりも熱烈である。同艦隊は航海の途中、日々戦闘訓練を行い、機関は正常で非常に良好な状態である。

二三の新聞は、日英同盟の期限が終了すると同時に英米同盟が成立するであろう事は極めて自然な成り行きであると仄めかしている。特に日本がその地位を高めて強国の仲間に入った事実に鑑み、米国艦隊の豪州訪問によって、白人豪州政策の維持を援けるものと考えられている。

新飛行機発明 同上

米国ルマン市来電―有名な飛行機の発明者ライト氏は、同飛行機に乗り、平均30フィートの高度で1分45秒間に2千5百フィート飛行した。

非亜細亜協会 10日桑港特派員発

ワシントン府民は、今回アジア移民排斥協会を設立した。同会の規約によれば、我が国の自由と共和政治を永久に維持する事が出来るかどうかは、純良な白人が文明を持続し得るかどうかによる。支那人及び日本人等が入国した為に既に太平洋沿岸の我が産業、商業に危害を及ぼしている。これを防止しなければ次第に都市部にも波及するであろう。排斥に反対する論拠は、東洋貿易の為、又安価な労働者を得ようとするにあるが、二つとも採るに足らない。同会は市民と謂えども米国で生まれた者でなければ会員としない。

 

8月12日

米紙の虚喝 11日タイムス社発

ワシントン来電―米国大西洋艦隊のニュージランド到着は、格別世人の注意を惹起していない。

ニューヨーク、ヘラルド紙は、黄患に晒される点に於いては、豪州も合衆国も同様であると説き、且つ日本人に関して言及し、大西洋艦隊の上に表れた米国の威力と財力とが日本人に与える無形上の効果は豪州人に対するよりも一層強大であろうと付言した。

土耳古青年団の暴行 10日上海経由ロイター社発

トルコ青年団は、オーストリ国の設計によるノヴィバザル鉄道の測量委員長ムツサフィ、パシャに暴行、侮辱を加えて、マケドニアから放逐した。人民は駅に突進し、パシャの顔に唾を吐きかけ、肩章を引きちぎった。

 

8月13日

土国改革委員の慰撫 12日タイムス社発

コンスタンチノーブル来電―行政改革委員は市民に、おとなしく法律を順守して、前大臣及びその他の囚人の家宅に対し、示威運動を中止すべきことを命じ、これらの嫌疑者は、国会の開設をした上で、公平に裁判される旨を約束した。

波斯に於ける独逸 11日上海経由ロイター社発

露都来電―ノーオエ、ウレーミヤ紙は、独逸がペルシャでの貿易を有利にする為に、タブリッツに一つの銀行を創設しようと活動中である事を述べた。又独逸は、アルゼシラス会議と同じくペルシャに於いても国際会議を招集するよう希望していると論じた。

解説:ペルシャ北半分は露国の、南半分は英国の勢力範囲である。アルゼシラス会議は、フランスの保護国であるモロッコに独逸が手を出し、その対立を解消する為にひらかれた。

 

8月14日

米清同盟論 12日紐育特派員発

▲伍廷芳の日本観

昨日のヘラルド新聞は、その社説に於いて清国と米国との同盟を主張した。その論旨は、清国が日本に権利及び利益を侵害されると米国の極東に於ける利益を侵害される事になり、その利害が一致している為に同盟により日本の勢力を挫かなければならないである。そして本日12日のへラルド紙上には、その社説に対して駐米清国公使伍廷芳(ごていほう)氏の談話を特集している。予の個人的な見解では、現在の極東は、危機を含んでおり、特に清国は危機存亡の状態にある。何故なれば清国の勢力は日に日に日本に依って侵害されつつあり、これは覆う事の出来ない事実である。現在の極東に於ける米国の事情と清国の事情とは良く似ており、我々は同盟に賛成する云々

大隈伯所論攻撃 同上

今夕及び今朝の諸新聞は、大隈伯が米国政府の海軍拡張を評し、その目的は日本に対してのみと言えると特筆、大書している。既に昨夜はオブライエン大使を送る為に来た高平公使の旅館を訪れ、この事を質問した新聞記者もあり、大使もこの答弁には困ったと聞いている。

 

8月15日

土耳古改革進行 14日タイムス社発

コンスタンチノープル来電―禁固中である前大臣2名は、以前不当に取得した金塊及び不動産約26万ポンドを返還すると誓約した結果、今回出獄を許された。

和蘭の示威運動 13日上海経由ロイター社発

オランダ帝国は、間もなくカリブ海に軍艦を派遣しようとしている。これはヴェネズエラ大統領カストロ氏がオランダに対して深く敵意を持ち、先般オランダ公使がアムスターダームの或る学校雑誌に「ヴェネズエラの独裁政治が継続する間は、年少のオランダ人は、同地に赴かないように助言する」との文章を寄稿した為に、遂にオランダ公使が国外に立ち去らざるを得ない様にした事が原因である。

英獨海軍制限論 13日ベルリン特約通信社発

英独両国は、お互いの協約により軍艦の建造を制限すべきであるとの英国蔵相の意見は、独逸に於いては既に1914年まで継続する軍艦建造計画を立てているので、当分は実行不可能である。

 

8月16日

米国艦隊新西蘭発 15日タイムス社発

オークランド来電―米国艦隊は出発したが、その際国民は非常に熱心に歓送を行った。又今回の訪問は、米豪の双方に於いて最も熱誠、慇懃な儀礼を尽くし、大成功であった。

土耳古内政改革 14日上海経由ロイター社発

トルコに於いては、第一期の改革事業が着々と進行し、官吏に対する未払いに俸給が全て支払われ、同時に官吏の員数も減少されつつある。又労働者等は、新政府に対し余りに過大な観念を持った結果、無用な同盟罷工を行ったが、青年トルコ党に鎮撫された。そしてコンスタンチノープルの犯罪者数は、9割2分の減少を示した。

米清同盟論続報 14日桑港特派員発

ヘラルド新聞の主張する米清同盟論の要旨は、日本の支那に於ける専横を防ぎ、米国の東洋貿易を維持し、米人の利益を保護するには、米清が同盟してこれに当らなければならない。そうでなければ支那は日本の支配に帰して、米国の貿易は途絶し、太平洋は日本の独り舞台となり、挽回できなくなるであろう。アジアは世界のアジアであり、日本のアジアでは無いと言うにある。これに就いて同紙は、各州名士の意見を徴したが、南部地方を主とし非常に賛成の声が高まり、一般に現在日本に対して勝ちを制しておかなければ、後日に大過を残すと言う事で一致している様である。

印度支那現状 14日ベルリン特約通信社発

佛国植民卿シリエ、ラクロア氏は、タン紙の代表者を引見し、インドシナに関する不安の噂は誇大な報道に過ぎず、我々は同地駐屯の軍隊を信頼しなければならない。特に近頃、更に増援隊を派遣したので心配に及ばないと明言した。

 

8月17日

黒人迫害別報 16日上海経由ロイター社発

米国イリノイ州スプリング、フィールドに於いて黒人が白人婦人に暴行を加えた結果、黒人に対する白人の暴動が発生し、黒人街の大部分を焼き払い、黒人1名をリンチ、同時に死者2名、負傷者75名を出した。本日も引き続き暴動が止まず、全市は暴徒に支配され始めており、その為州民兵の全員が招集された。

左もあるべし 15日桑港特派員発

ヘラルド新聞が主張する排日的な米清同盟論に対して、当市の諸新聞は、例のヘラルド式空論として冷笑するのみか、伍廷芳の米清同盟に関する談話は事実無根であると打ち消された。

解説:昨日の記事「米清同盟論続報」に関する記事である。

 

818

艦隊歓迎と米紙 17日タイムス社発社

ワシントン来電―米国艦隊訪問に関し、豪州の言論に対して責任を重んじる新聞の多数は沈黙をしているが、他の新聞では、豪州人は将来黄禍が実現する場合に、英国艦隊がこれに対応できないならば米国艦隊が必ずこれと奮闘するであろうと喜んでいると述べている。

又ニューヨーク、タイムス紙は、米国政府が清国の領土保全が危機的状況になる事を恐れて明確な対清政策を定めようとしていると報じて、同時に米清同盟の代わりに米独同盟を主張している。

土耳古前陸相出獄 17日上海経由ロイター社発

前トルコ陸軍大臣リサ、パシャは、在職中に不当に横領した20万ポンド内外を返還し、帰宅を許された。又禁固中である他の官吏等も同一の行動に出て、その為に政府財政の窮迫を救う事になるのではと期待されている。

 

819

英国海軍公債 17日上海経由ロイター社発

ロンドンテレグラフの報道によれば、英国政府は、必要に応じ海軍費用に充当できる資金として、1億ポンドの公債を募集する事に依り予算の混乱を避けたいとの提案を検討中である。内閣員の一部は、如何に費用が掛かろうとも二国標準を維持しようとする意志の表明と同じであるこの提案に賛成している。

解説:二国標準とは、当時の英国海軍は、第2位及び第3位の海軍国、独佛2カ国の海軍勢力の合計を凌駕する勢力を持つ事を目標としていた。しかし独逸は海軍大臣テルピッツの下で海軍の拡張を行っており、英国海軍の脅威となっていた。

土耳古開発政策 18日上海経由ロイター社発

トルコの公共工事大臣は、新聞記者と会見し、今回英佛両国に電報を発信し、道路の修繕及び灌漑の大計画を支援する専門家を送る様求めた。又トルコは外国資本によって援けられていると語った。

米清同盟論 同上

ニューヨーク、ヘラルド紙は、日本の勢力に対抗する手段として、米清同盟の概念を鼓吹している。但しこの運動は、根拠が極めて薄弱である。又ロンドン、タイムスのワシントン通信員は、米国政府は同盟して様々な紛争を来す事を避ける従来の政策を放棄する心は無い。但し米国に於いて密かに日本に対する懸念を抱けるものがあるのは否認する事ができず、米国艦隊の横浜訪問が何等の異変、椿事も無くして終了するならば、米国政府も大いに安心するに違いないと言明した。

解説:ここにある「同盟して様々な紛争を来す事を避ける従来の政策」が所謂米国政府が撮ってきた政策でモンロー主義と云われるものである。

佛西無線電信開始 17日ベルリン特約通信社発

パリーのエッフェル塔とスペインの西海岸フィニスター岬との間に無線電信が開始された。

 

820

和委紛議と米国 19日上海経由ロイター社発

米国は、オランダとヴェネズエラ間の紛争に付いて、オランダに対して同情を表した。又同国はオランダが軍隊を使ってヴェネズエラの陸地を占領しない限り、港湾封鎖、その他海上に於いて如何なる手段を執ろうとも、反対しないと思われる。

米国貿易減退 同上

米国の貿易は、英国と同様不景気を示している。過去7カ月間の輸入は5千万ポンド減少し、又輸出は約18百万ポンド減少した。

 

821

米国不景気影響 19日紐育特派員発

ワシントン移民調査局の報告によれば、ヨーロッパからの移民は、今年630日迄、即ち上半期に於いて10万3千6人である。昨年の同半期は78万6千6百67人であり、今年は75%の減少を示している。これは如何に一般の不景気が労働者に大打撃を与えているのか見る事が出来る。又米国経済界の回復が未だ一般の不景気を救うまでになっていない事を知ることが出来る。

エバンスの日米関係論 19日桑港特派員発

先頃まで大西洋艦隊司令官であったエバンス少将は、昨年定年退職し、次の様に語っている。

日本人は、感情的国民で、世界中で最も戦争を好まない国民であり、彼等を怒らせるのは良策ではない。清国に対する日本の態度は、米国で非常に誤解されている。日本は清国を占領しようとしているのではなく、指導しようとしているのである。米国が要求する所は門戸開放であり、日本の政策はこれと一致しない理由は無い。(一部抜粋)

米艦隊シドニー到着期 同上

米国大西洋艦隊は、明朝豪州シドニーに到着する予定で、盛大な歓迎が予想される。

 

822

米国艦隊歓迎 21日タイムス社発社

シドニー来電―50万以上の市民が絶壁、岬、海岸に集まり、或いは船舶に乗って米国艦隊を歓迎した。当日は天気が極めて晴朗であった。

米国艦隊司令長官スピルリー少将は、豪州人に与える公開書簡に於いて、余は今回の歓迎の裏側には、艦隊に接して起こる単純な熱意以上のものがある様に感じると言明した。ニューヨークの諸新聞は、盛んにこの歓迎に関する記事を掲げ、豪州人は真に我々と同一の問題に出会っている親戚であると説いている。

解説:同一の問題とは「日本の脅威」と思われる。

公果合併可決 同上

ブラッセル来電―下院は29票の多数を以て、コンゴをベルギーに合併する提案を可決した。上院も亦これと同様の行動を執ると思われ、いよいよベルギーは植民国となるであろう。

解説:コンゴは国王の私有地として象牙やゴムを採集していたが、収穫が少ないと手足を切断する等の残酷な処刑を行い、欧州諸国で非難されていた。その為にベルギー政府が国王からコンゴを買い取り、植民地を経営する事になった。

埃及の憲政運動 20日上海経由ロイター社発

エジプトに於いて青年エジプト党の運動が起こり、幾つかのアラビア新聞は、トルコ皇帝がエジプト王に憲法発布をするよう助言すべきであると主張し始めている。

解説:当時エジプトは英国の支配下にあった。

印度支那兵備論 20日ベルリン特約通信社発

佛国は、トンキンに向かって更に増援隊を派遣した。佛国新聞フィガロは、インドシナに関し、数日連載した社説に於いて常備兵力の増加を要求し、新任太守グロブコウスキー氏も同意見であると報道した。

解説:ベトナム、ラオス、カンボジャは当時フランス領インドシナであった。

 

823

米国艦隊歓迎 22日タイムス社発

シドニーからの公電によれば、米国艦隊のパレードが行われ、水兵等は熱心にこれに参加した。又豪州総督ノースコート男爵、同首相ジーキン氏、ニューサウスウエールス首相ウエード氏及びシドニー市長等は、今回特に建築された会場に於いて、米国艦隊歓迎の辞を述べ、回航艦隊司令長官スヘルリ―少将が、これに答えて盛んに英国艦隊を称賛した。

又夜には公式の晩餐会が開かれ、席上豪州全部を統一する必要性が盛んに論じられた。

トルコ皇室費削減 同上

コンスタンチノープル来電―皇室費は、昨日遂に削減を実行し、宮内官64名を免職し、帝室牧場を廃止し、馬は陸軍省に譲り渡した。又現在入獄中である過去の寵臣及び前大臣達が取得した財貨及び土地は、従前の所有者に返還されつつある。

北京分科大学創立 22日北京特派員発

京師大学堂は、従来師範科、予科等のみであったが今回分科大学を置く事になった。分科は経学、法政、文科、医科、工科、商科、理科、農科の8科よりなり、この議は既に学部より奏上し裁可を得ている。この件に就いて学部は、2カ月間日本に委員を派遣し、日本の大学制度並びに建築一切を観察させることになり、近々出発する予定である。

解説:中国の大学の創立は遅く、北京大学は此処にある様に1908年である。精華大学は、アメリカの資金で1911年に創立されている。清朝は義和団の乱の賠償金として利息を含めて98000万両を支払ったが、これは清朝の歳入8800万両の11倍にもなった。流石に

各国とも清朝に還元したがアメリカは精華大学を創設した。

なお学部とは文部省を意味する。

 

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摩国官兵大敗 23日上海経由ロイター社発

タンジール来電―その筋の無線電信によれば、モロッコ正王の親衛隊は、マラケス付近に於いて僭王の為に破られた。又或る信頼すべき側からの報道に依れば、モロッコ正王の軍は、目も当てられぬ程に敗北し、混乱の中に潰走した様である。なお正王は捕虜となったとも伝えられ、又一説には佛軍の占領地に逃れようとして拒絶されたとも言われている。

解説:モロッコは佛国の保護国で、内乱が発生しおり、佛国が支援しているモロッコ正王の敗北が確定的である。

佛米無線電信 同上

米国デフォレスト無線電信会社は、佛国政府の承諾を得て、パリーとニューヨーク間に無線電信を開始する目的で、佛国のエフェル塔を借り入れた。十分成功の見込みがあると信じられている。

解説819日パリーとスペインの海岸との間で無線電信が行われた記事がある。

 

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米佛無線電話 24日タイムス社発

ニューヨーク来電―発明家デフォレスト博士は、今後2年以内にパリーとニューヨーク間の無線電話が開通するであろうと予言した。そしてパリーではエフェル塔、ニューヨークでは高さ7百フィートのメトロポリタン生命保険会社の塔上に、今まさに機械を据え付け中である。

解説:昨日の続報で、デフォレスト博士とは「リー、ド、フォレスト博士」の事であり、三極管の発明者として有名である。三極管はトランジスターが発明されるまで、ラジオ、レーダに必須の要素となった。なおラジオと云う言葉も博士が作っている。

摩洛哥局面一変 同上

タンジール来電―モロッコ王アブダルアジツが敗北し、その軍隊は全部潰走した。同時に僭王ムライハツイドは、タンジールその他に於いてモロッコ王である旨布告した。又モロッコ王アブダルアジツは、佛国軍隊に身を投じて救護を求めた。

パリー来電―佛国は中立の態度を維持し、列国の同意がなければ新モロッコ王を承認する事は無いと思われるが、しかし列国は結局新王を承認する事になるであろう。

土国改革と英佛 22日ベルリン特約通信社発

トルコ政府は、海軍問題に関しては全て英国政府の勧告に、又財政問題に関しては全て佛国政府の勧告を受け入れる事に決定した。

 

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米豪連合観兵式 25日タイムス社発

シドニー来電―豪州総督ノースコート男爵は、米豪連合の海陸兵1万3千人で編成された観兵式に臨場した。その際米国艦隊司令長官スペルリー少将は、大いに豪州兵士を賞賛し、自己の生涯に於いて、この様な見事な義勇兵は未だかって見たことが無いと公言した。この観兵式は、豪州で未曾有の盛大なもので、来観者が極めて多数であった。

印度織物業不景気 同上

ボンベイ来電―織物業に危機が迫っている。市場は英国及びインドの太物布片で満ちているが需要は皆無で、値段は下落一方である。又織物工業の利益は、過去3年で半減している。

摩洛哥政局一変 25日上海経由ロイター社発

僭王ムライハフイドは、タンジールに於いて群衆の歓呼の内に、自分がモロッコ王である旨を布告した。しかし佛国は王位の変動に拘わらず、依然現在の対モロッコ政策を継続するものと予想される。又佛国政府の機関新聞は皆、新たに欧州諸国の会議を開催し、ムライハフイドと協定を締結する事に同意するまで、佛国は同王を承認する事は出来ないとの主張で一致している。

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摩洛哥王位と列国使臣 26日上海経由ロイター社発

モロッコのタンジールに於いては、国民が非常に歓喜しており、各国外交官等は、本国政府にムライ、ハフイドの即位を承認する訓令を求める電報を発信した。

日米移民問題裏面 25日桑港特派員発

ワシントン来電―大統領ロ氏に次いで最も深く日米問題に関係する当局者が次の様に語った。日米移民条約は、米国に取って完全に失敗に終わった。米国政府が日本との移民条約交渉を極々秘密にしていたのは、激昂する太平洋沿岸の国民がこれを選挙戦に利用する事を恐れた為であり、今や失敗したが大統領選挙が済むまで過激な言動がない様に望む。

排日思想煽揚 同上

シドニー来電―米国艦隊は、日々盛んな歓迎を受けているが、同時に日本に対する豪州人の反感も日々に高まり、太平洋は白人の太平洋にしなければならないと、英米同盟論が益々盛んとなり、上野領事は人心の緩和に努力している。

佛国と摩洛哥王位 25日ベルリン特約通信社発

佛国政府は、ムライ、ハフイドのモロッコ国王を承認するに先立ち、アブダル、アジズが譲位の宣言を発表する様要求した。

 

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米国艦隊出発 27日タイムス社発

シドニー来電―米国艦隊の出発に際して、同艦隊司令長官スペルリー少将は、極めて熱心にニューサウスウエールスに感謝する公開書簡を発表し、今回の訪問は、歴史上大きな足跡を残す国際的な出来事である。又米国は、太平洋の通商に於いて大活躍をする運命にある豪州に対し、従来の観念を一変させなければならないと言明した。

摩洛哥王承認と佛国 27日上海経由ロイター社発

パリー来電―政治社会は、なお冷静にモロッコ情勢を観察しており、同時にムライ、ハフイドの即位承認はなるべくこれを急がず、又前もって同王からアルゼシラス条約に定めた法規の承認を約束させて置く必要がある事を認めている。

独逸新聞の摩洛哥論 同上

独逸宰相ビューロー公の機関紙は、モロッコ人が自らその国王を選ぶ権利がある事を主張し、佛国の対モロッコ政策に関して、速やかに十分モロッコ人を安心させる事が最も望ましい事であると言明した。

 

8月29日

佛領境界小亂 28日上海経由ロイター社発

モロッコのタフイレット地方の種族1万5千名は、兵士7千を率いる佛将ベイルローの軍を攻撃する為に、アルゼリア国境に集結し砲火を交えた。又佛軍は現在この攻撃に対抗する各種の手段を講じつつある。

解説:当時アルゼリアはフランス領であった。

日本学生と労働者 27日桑港特派員発 

米国商務省は、学生の資格で上陸し、入国後間もなく労働者となる日本人が非常に多いとして、国務省に注意を促した。米国にはこれらを処分する法律が無く、どうする事も出来ないので、新たに適当な法律を制定するか、或いは国際交渉を始めるであろうと論ずる者が居る。その外に新聞紙上では、最近再び排日を扇動する記事が多く、これは大統領選挙が近づいた為と思われる。

佛国と摩洛哥 27日ベルリン特約通信社発

政府は、ムライ、ハフィッドをモロッコ王と承認する条件として、アルゼシラス協約を承認し、前王の負債を償還し、且つ賠償金の担保としてカサブラカを佛国に差し出す事を要求した。

解説:毎日の様に報道されているモロッコ問題である。モロッコは佛国の保護国であったが、内乱が発生し、佛国が支援していた前王が敗れている。

米国艦隊消息 同上

米国艦隊は、メルボルンに到着した。

 

8月30日

米国関税改訂 29日タイムス社発

米国人は、現在関税改訂の準備中である。ニューヨーク来電に依れば、タフト氏一派の共和党は、諸外国に対しても関税の譲歩を求めるために、米国の関税表中から幾つかに課税品目を削減する法案を提出しようとしている。この計画は、多分来るべき大統領選挙の主要な争点となるものと思われる。

摩国両王和解 28日ベルリン特約通信社発

モロッコ前王は、後王と和解した。

解説:前日の記事「佛国と摩洛哥」の続報 

 

8月31日

摩洛哥問題と佛獨 29日上海経由ロイター社発

モロッコの時局に関し、ベルリン駐在佛国代理大使は独逸外相シエーン氏と、又パリー駐在独逸代理大使は佛国外相ビション氏とそれぞれ協議を行った。

米国艦隊歓迎 30日上海経由ロイター社発

米国艦隊はメルボルンに到着した。数千の群衆が海岸から、或いは船上から盛んに拍手し、大変な歓迎であった。又昨夕公式の歓迎晩餐会が催され、席上ビクトリア州知事は、英国皇帝及び米国大統領の健康を祝す辞を述べた。