9月1日
佛国の譲歩 31日タイムス社発
巴里来電=駐獨佛国大使カムボン氏は今晩、ベルリンに帰任する予定であるが、氏が政府より受けた命令の中には、佛国が獨逸に行うべき最大限の譲歩を含んでいると言われている。即ち佛国は、モロッコに於いて自由に手腕を振るえる事を絶対的に、又直接明瞭に規定し、その代償としてモロッコに於けるある経済的特権を獨逸に与え、又佛領コンゴの一部を割譲する事を承諾する予定であると言われている。
東郷大将優待 31日上海経由路透社発
東郷大将は米国巡洋艦に乗艦し、米国巡洋艦に護衛されてシャトルより英領コロンビアのヴィクトリア港に到着した。
米国水雷艇建造 30日紐育特派員発
米国政府は、議会の協賛を得て、水雷駆逐艇8隻を発注した。そのトン数は1隻1,010トンである。
米国鉄道罷業 同上
米国ノースカン鉄道会社に属する4万人の労働者が同盟罷業を準備中である。
9月2日
獨佛協議再開 1日上海経由路透社発
獨佛協議は、本日よりベルリンに於いて再開される。
獨逸譲歩の徴 同上
獨佛両国のモロッコ問題協議再開に当たり、獨逸諸新聞は盛んに社論を表わし、これを迎えたが、その論議の特徴としては、英国に対する敵意を表明する点にある。これは獨逸が外交上維持しなければならない地位より引退しようとする事を援護する目的に出でたのは明らかである。
佛紙の態度 同上
佛国諸新聞は冷静に時局の発展を待望し、もし獨佛協議が遂に不調となる様な事があっても、佛国人心を激動させる様な事がない様にと公言している。
支那学生米国ル留学熱(長崎) 内国電報 1日発
米国行きの支那留学生25名がサイベリア号にて寄港し、次の様に語った。最近、米国留学熱が、支那学生に流行し、官費、私費を合わせて、当分毎、船便毎に多くの学生がいるのではないだろうか。
9月3日
軍飛行機の効果 2日タイムス社発
今回実施された佛国陸軍第演習に於いて、最も注意を引いたのは飛行機の動きと言われている。即ち飛行機は着弾距離以遠で、敵の攻囲軍の配備を発見し、首尾良くこれを撮影したのである。
モロッコ談判行悩 同上
佛国大使カムボン氏が病気の為に、モロッコ談判は行悩みの状態であるが、多分翌週開始されると思われる。
佛国婦人一揆 2日上海経由路透社発
物価が高騰した為に、非常に重大な騒動が佛国に起こった。婦人は群れをなして地方を徘徊し、農家を略奪し始めている。広報によれば、騒動は暴動一揆へと変わり、ますます蔓延中であるが、この暴動は経済的と言うよりは寧ろ革命的傾向を帯び始めている。そして政府は秩序を維持しようと決した。
9月4日
西班牙の野心 3日上海経由路透社発
スペインは、モロッコ、アザガルの南にあるイアニを占領する旨発表した。その為に情勢は紛争する事になった。佛国諸新聞は、佛国が獨逸と困難な協議をしている時に当たり、この様な態度を執る事を非とし、異口同音に抗議し、外国が現在頻りに執りつつある誤謬的行動については、将来必ずこれに対する代価を払わなければならないと附言した。
慎重なる用意 2日紐育特派員発
英国政府は、水兵に対して上陸を禁止し、全ての軍艦は何時でも、一令の下に出港する用意を整えているそうである。
獨佛の関係 同上
獨逸からの報道によれば、佛国との関係が甚だひっ迫した場合でも、佛国は獨逸の要求を拒むことが出来ないだろうとの説が盛んなそうである。
9月5日
佛国食糧暴動 4日タイムス社発
巴里来電=佛国北部に於ける暴動は、なお継続している。この暴動は経済的なものではなく、完全に革命的なものである。これは労働者連合組合が、昨秋、鉄道の同盟罷業を行い、不成功に終わった恥辱を削ぎたいとして計画したものである。政府は強硬な鎮圧手段を執り始めており,騒動地は軍隊の支配下に置かれた。
西班牙の弁解 4日上海経由路透社発
マドリッド来電=半官的通告分は、モロッコのイエツに関する西班牙の計画が少しも佛国に対して非友好的なものではなく、又佛獨協議とも何ら関係がないと公言し、イフニに於ける西班牙の権利は、50年間承認されていると主張した。
9月6日
海軍示威運動 5日タイムス社発
巴里来電=最も熱誠の籠った荘厳な光景の下に、昨日大統領フェリエル氏は、ツーロン港に於いて海軍観艦式を行った。艦隊は90隻の軍艦より成り、2列に投錨した。この優勢な佛国海軍を見た佛国民は、獨佛談判に於いて、飽くまで佛国の威厳を保たなければならないとの希望を新たに懐くようになった。(一部抜粋)
墨国選挙騒動 4日桑港特派員発
3日午前10時、メキシコ首府に於いてマデロ氏に反対する大統領候補者レエス将軍が自己の政見を発表しようとして、マデロ党の妨害に合い、中止した。両派が大衝突を行い、死者50名負傷者16名、及び政府は軍隊を繰り出し、夜になって一先ず鎮定した。(一部抜粋)
9月7日
廃帝軍大敗 6日タイムス社発
テヘラン来電=ペルシャ廃帝軍が大敗した。
佛国の最終条件 6日上海経由路透社発
駐獨佛国大使カムボン氏は、モロッコ問題に関する佛国の最終条件なるものを獨逸に提出した。次いで獨逸宰相ベートマン、ホルウエヒ氏は、5日獨帝が観艦式を行っているキイル港に向け、出発した。
獨逸民心の動揺 同上
獨逸に於いては、モロッコの情勢に関し非常に神経質となった結果、ステッチン貯蓄銀行が取り付けにあった。又ストラスブルグに於いても、同様に取り付けが行われたが、これは宣戦布告が今にもあるであろうという途方もない噂が伝わったためである。
イフニ占領放棄 同上
西班牙は、佛国政府に対し、イフニ占領の一時放棄をすると通告した。
9月8日
波斯賊将処刑 7日タイムス社発
テヘラン来電=ペルシャ廃帝の軍隊に於ける将師であるサルシャ、デッドドウシは、5日の戦闘で官軍に破られ、捕虜となり、6日午前7時に銃殺された。廃帝の軍隊は全敗の運命となった。
獨相佛使会見 6日伯林特約通信社発
獨逸宰相ベートマンホルウエツヒ氏は、本日キイル軍港よりベルリンに帰る予定であり、帰着後直ちに宰相、外相キデルレン、ウエヒテル氏間で佛国の提案について協議を行い、明7日佛国大使カムボン氏との協議が開かれる予定である。北獨アルゲマイイチ、ツアイツング紙は、時局について次の様に論評した。獨佛協議は、駐獨佛国大使カムボン氏のパリー行で一時中止となったが、今や、それよりも寧ろ円滑になったと述べた。
獨逸大観艦式 同上
キイル港附近の海軍演習及びこれに次いで行われた観艦式には、百余隻の軍艦が参列した。そのトン数42万、乗組兵員2万5千、演習中は戦艦にも兵員にも何ら大事故は起こらず、獨逸新聞は、事変に対する活動の準備が万全であると切言した。
9月9日
清人水夫取締 8日上海経由路透社発
英国商務院は、語学試験を通過することが出来ない支那人水夫が、しばしば語学試験を通過した水夫に代わっている事に注意を促す通知を発した。又同通知は、一つの港に投錨中の汽船の為に他港にて支那人水夫を雇い入れる事を禁止するよう厳重に注意した。
マデイロ氏襲われる 7日桑港特派員発
メキシコ大統領候補マデイロ氏は、7日選挙運動の為にヴィエラクルズに到着したが、反対派が駅に来襲して、同氏を侮辱し、且石を投げ、混雑を極め、多くの負傷者を出した。
獨逸の提案 7日伯林特約通信社発
佛国政府の提議に対し、獨逸側よりも提議を本日午後、佛国大使宛てに差し出した。これは外相キデルレン、ウエヒテル氏と宰相ベートマンホルウエツヒ氏の草案に係るものである。両国政府はこの提案の討議に際し、多少の困難に遭遇する事を予期しているが、この為に談判が遅延する様な恐れは無いと言われている。
9月10日
獨逸株界不安 9日タイムス社発
伯林来電=株式市場、その他商業界の緊張は依然として緩まず、政府が沈黙状態を中止する事を希望している。
佛獨紛議と資本 9日上海経由路透社発
佛国のモロッコ紛争に関して注目を惹く現象は、獨逸に投下された多額の佛国資本が続々と回収され始めている事である。その金額は既に8百萬ポンドに達していると計算される。ベルギー及びスイスの諸会社も同一の行動を執り始めている。
獨佛談判模様 同上
伯林来電=昨日の獨逸外相及び佛国大使間の会見に関して何ら明確に知らせているものは無い。しかし獨逸は佛国の提案の代わりに新提案を行い、この為に両国の協議が非常に長引く事になったのではと考えられる。思うに佛獨の主張点間には非常な差違があると一般に観測され始めている。
9月11日
伯林食料品騰貴 10日上海経由路透社発
伯林商業会議所は、食糧品及び秣(まぐさ)の価格が騰貴した結果、今回政府に対し穀物の輸出を制止し、且食糧品の関税を下げる様に請願した。又アルゼンチン及び米国から肉類を輸入する許可の請願が行われている。なおプロシャに於ける数州の官憲に対し、貧窮の農民の為に、低廉の代価にて秣を売る様命令した。
獨逸民心恐慌 同上
獨逸貧民階級は、引続き戦争説の為に激動し、その為、諸貯蓄銀行は取り付けを受ける様になった。ケニヒスベルヒが最も著しく、一銀行は破産した。
獨逸の新提案 同上
伯林来電=モロッコ問題に関する獨逸の新提議はいよいよ起草が終わったので、日曜若しくは月曜日に巴里に到着する予定
9月12日
獨逸回答強硬 11日タイムス社発
巴里来電=佛国の提議に対する獨逸の強硬な回答は、9日夜、佛国政府の手に入った。次いで短時間の内閣会議が開かれ、これについて討議した。
伯林市場大動揺 11日上海経由路透社発
獨逸で開戦説が伝わった為に伯林市場の諸株券は大暴落を告げた。その筋の意を受けたと思われるローカル、アンツワイケル祇は、獨逸の商業界が途方もない噂を信用する愚を非難し、市場が己自身及び獨逸全体の利益を思って冷静になる様希望した。
西班牙軍隊増派 同上
西班牙政府はモロッコのマリヤ守備隊の助成として、更に3千の軍隊を派遣した。
波斯官軍大勝原因 9日伯林特約通信社発
セントピータスブルグ電信通信社の報道によれば、ペルシャ官軍が廃帝を敗北させたのは、主として官軍側にあって機関砲隊を指揮した獨逸陸軍教官の技量に依ったと言われている。
9月13日
前獨主義者会合 12日タイムス社発
獨逸の世論は穏健となったが全獨主義者が会合を催し、佛領コンゴの一部と交換に、
モロッコに於ける獨逸の権利を譲歩するとの獨逸政府の提議を非常に激しく非難した。
無法な要求 12日上海経由路透社発
ロイター社は、高地位の外交筋より、次の簡単な電報を入手した。「獨逸の回答がロンドンに到着したが、その結果英国は非常に失望の念に満ちている。獨逸の新提議はモロッコに於いて、鉄道及び他の公共事業に関して、獨逸を佛国と同等の地位に置こうとするものであり、実際に於いて政治上並びに経済上、獨逸の共同主権を要求するものである」云々
墨西哥内乱 11日桑港特派員発
メキシコのジユアンズに於いてマデロ派の千人が反対派候補者レースを殺せと絶叫しながら行列を行った。タックスとランティスでも両派の衝突があり、死者9名、負傷者20名で、マデロ派の勝利となった。レース派は、政府に対し生命財産を保護するよう請願した。又16日は祭日であり、以前支那人を虐殺したトルシアン市に不穏な情勢があるため政府は1千の軍隊を派遣する。
9月14日
佛国の態度 13日タイムス社発
佛国の態度は強硬であり、モロッコに於いて獨逸に特殊の権利を与える件には強く反対した。しかし終止、十分に友好的精神を以って協議を行った。
獨逸提議拒絶せられん 13日上海経由路透社発
巴里来電=タン紙は、佛国の輿論を述べ、獨逸外相キデルレン、ウエヒテル氏の要求は、迷惑というよりも寧ろ児戯に等しく、今や佛国はこの様な到底入れることが出来ない要求を拒絶しようとしていると言っている。
ロンドンタイムス紙は、この点に於いて獨逸の妄想は除去されたと述べた。
英国の大警戒 同上
▽陸路石炭を
▽軍港に運搬す
英国海軍省は、極めて多量のウエールス産蒸気機関用石炭の積荷をハル、ニューカッスルその他の北海沿岸軍港に、汽船を使わず、鉄道便にて、莫大な費用を惜しまず運搬中である。この石炭運搬車には、悉く「至急」と書いた張り紙がある。又1万8千トンの追加注文分には「御用」と書いてある。これは、単に石炭の至急運搬を試験しているに過ぎないと称しているが、莫大な費用を要している点から見ると、時局に関する警戒の為であると推測される。
9月15日
モロッコ形勢 14日タイムス社発
佛国大統領フエリエル氏は、佛国政府の回答草案を獨逸に送ったが、多分土曜日以前に伯林に到着すると思われる。獨逸は、モロッコに於いて佛国の自由行動を許さずに、佛領コンゴの一部を併合する意思があるとの信念が益々加わっている。獨逸の提案はモロッコを佛獨両国にて支配すべきと明記してあったと言われている。これは佛国の優越権を全く破壊するもので、獨逸はこの主張を維持する事は不可能と思われる。
伯林に於ける佛獨開戦説は漸く静まった。
西班牙軍襲わる 同上
マドリッド来電=モロッコ人が西班牙軍を攻撃したが多大の損害を受け退却した。
欧州の暴動 13日伯林特約通信社発
暑気、旱魃が続いた為に食料に欠乏を来した。その為に佛、ベルギー、西欧各国にて暴動が起こっている。
獨逸海軍力 内国電報 14日発
西欧の2大強固である獨佛の関係は、一時モロッコ問題の為に風雲が頗る急を告げ、共に示威的大観艦式を行い、一つ間違えば火蓋を切る様な勢いを示したのみならず、佛国資本家は妙案を考え出し、獨逸国内に投資された多額の資金の回収を始め、既にその額は8百万ポンドに達した。ベルギー、スイスの会社も同一行動を取り始めているとの報道もある。この為に獨逸が経済的に被る影響は多大であり、時期に適した一策である。兎に角佛国の態度は非常に強硬なのは事実である。いよいよ干戈を交える様な事はないと思われるが、両国の海軍は果たして如何なる勢力関係にあるのか。獨佛海軍勢力は次のとおり。
獨逸 戦艦 28隻 巡洋艦 9隻
佛 戦艦 15隻 巡洋艦 10隻
(一部抜粋)
9月16日
獨佛談判形勢 15日上海経由路透社発
本社の聞知する所によれば、獨逸はモロッコに於いて特殊の権利を要求せずとの説明があったが、事実はこれに反して獨逸はモロッコ全域に於ける鉄道その他通運事業に3割だけ参加する事を求め又スス州その他特に獨逸の利益関係がある地方に於いては鉄道通運を始め獨逸に利害関係がる各種の事業に6割だけ参加する事を求めた。即ち獨逸の提案は獨逸に多大の特権を付与すると共に佛蘭西には重き義務のみを負わすものである。依って佛国の回答は、ある獨逸の要求項目について「到底実行し得ない事項である」事を告白する次第である。
モロッコ問題と獨逸 14日桑港特派員発
モロッコ事件に関し、獨逸の行った佛国の回答は非常に強硬であるので獨逸の株式は俄かに下落するに至った。獨逸の地方農民等は軍資金に自己の預金を使用されることを恐れ、俄かに預金を引き出す者が多い。
9月17日
社会党獨逸攻撃 16日タイムス社発
伯林来電=獨逸では、佛国回答の内容が判明するまでは、一般ではその評価が行われていない。しかしエナの社会党大会議席上、ベベル氏は、獨逸政府のモロッコ政策を激烈に攻撃する演説を行い、獨佛衝突の結果は不明であると説き、獨逸は今尚1870年の幻想に迷っていると嘲った。
解説:1870年は普仏戦争が始まった年で獨逸が勝利し、アルサス、ローレンス地方を手に入れている。
墨国革命真相 15日紐育特派員発
メキシコのデイアズ政府を倒したマデロ将軍等の大革命は、今回図らずもスタンダード石油会社等の有力な後援によって成功したとの事が明らかになった。これは先にマデロ将軍の為に、米国に在って奔走を行っていたゴメス氏がマデロ将軍と不仲となった為に、今回この事を口外した。そしてスタンダード会社は、何故にこの様な挙に出たかと言えば、彼の英人でメキシコの石油市場を支配したヒヤーソン氏を排斥する為である。果せるかな、今の政府となるやヒヤーソン氏は排斥された。恐らく近々ヒヤーソン氏の代理をスタンダード会社に命じると思われる。
9月18日
モロッコ問題協議 16日タイムス社発
伯林来電=佛国の対獨回答は昨日獨逸外相キデルレン、ウエヒテル氏に渡された。佛国大使カムボン氏は外相と長時間の協議を行った。
佛人の態度 同上
巴里人民は、モロッコ問題について、堪忍強い態度で時局の進展を待っている。当初より現在に至るまで、その愛国心と克己心は驚くべき程である。しかし佛国が佛領コンゴに於いて行うであろう譲歩の程度、アフリカ植民地方面に於いて犠牲とする所如何について、彼らは十分には了解していない様である。
成都陥落節 17日上海経由路透社発
伝えられる所に依れば、成都は暴徒の手に落ち、四川総督趙爾豊は逃れて、現在、資州に居る。趙爾豊の家族及び成都の諸高級官吏は14日、大抵殺害され、又徐州、嘉定の両府に於いても暴動があった。(一部抜粋)
9月19日
佛国輿論強硬 18日タイムス社発
巴里来電=佛国の輿論は漸く頑固となってきた。佛国がその譲歩の代わりとして如何なるものを獨逸より受けるかが判明しない時期に、佛領コンゴのある部分を獨逸に割譲する件にも反対する論議がようやく盛んとなってきた。
獨紙の時局観 同上
伯林来電=獨逸の新聞は佛獨間の協議が一層円滑となった旨を公言した。しかし金融市場の景況は不満足である。
鞍馬、利根マルタ発 18日上海経由路透社発
マルタ(地中海)来電=日本巡洋艦鞍馬、同利根は日本に向け出発した。当地では4日間に亘り、種々の歓迎の催しがあり、最後に鞍馬は艦上に招待会を催し、マルタ知事を始め英国海軍軍人が多数これに臨んだ。
9月20日
佛国暴動失敗 19日タイムス社発
巴里来電=佛国の労働連合会は、所謂食料暴動を挑発しようと企てたが失敗に帰した。現在物価の騰貴に反対する示威運動はあるが、純粋に経済的性質である。
波斯の対露通知 同上
波斯政府は、露国に対し廃帝が露国国境を横切るか若しは露国船に乗らないのであれば、無事逃亡する事はできない旨通知した。
獨佛関係如何 19日上海経由路透社発
モロッコ問題に対し、ベルリンの半官社会及び経済界に於いては楽観的であるが、巴里に於いては完全に楽観的でなく、尚多少の疑いを抱いている。但し獨逸がこの秋満期となる予定の兵士を例年通り除隊させようとする事実は、前途は頗る楽観的な現象と認められる。
島田新渡戸両氏 18日桑港特派員発
新渡戸氏は18日午前、スタンダード大学に於いて、太平洋の平和と題して、日米両国の国交より説き起こし、加州の日本人に対する鎖国主義は、加州人が日本人を誤解する事に基づくものであるので、理解したならば門戸開放主義に変わるであろうと説き大喝采を博した。聴衆は教授、学生1300名に達した。
9月21日
獨逸市場不振 20日タイムス社発
巴里、伯林の株式市場は、モロッコ問題解決の遅延、西班牙の革命的同盟罷業、露国に於けるス伯爵暗殺等の為に極めて不振に陥っている。
獨逸の対佛回答 20日上海経由路透社発
巴里来電=半官的報道によれば、獨逸外相キデルレン、ウエヒテル氏は、昨日佛国大使カムボン氏に文書で回答を与えず、口頭にて回答した。これは時間の節約をする目的であった。又双方の会談は協調的で、協議も一歩進んだと認められる。しかし佛国が譲歩を受け入れない根本的問題はなお何とも決定しないものがある。
西班牙首相説明 同上
西班牙首相カナレヤス氏は、西班牙の暴動に関して説明を行い、政府が戒厳令を布告したのは、今回の同盟罷業が無政府的性質を帯びることにより、そしてスペイン人及び外国人の無政府党員の指揮する所であると言明した。
9月22日
欧州食料暴騰反対 21日タイムス社発
生活費及び食料騰貴に対する反対運動は、佛国に於いてこそ幾分衰退したけれど、オーストリア、獨逸、ベルギー諸国に於いては活発に継続している。オーストラリア政府は、蔬菜(そさい)及び穀物に対する鉄道運賃を引き下げ、又獨逸の西部諸市の市民は卸売り及び小売り間の物価の差が大きい事を指摘し、政府がこの弊害を矯正し、消費者を保護する事を希望した。欧州全部の殆どは、不安の状況にある。特に西班牙の革命的同盟罷業は最も強勢である。
西班牙の戒厳令 20日伯林特約通信社発
西班牙に於いては、国内同盟罷業が行われ、不安な状況にあるため、戒厳令を布き、憲法上の保障を中止した。
佛獨モロッコ協議 同上
佛獨間のモロッコ問題協議に於いて、双方の主張を対照した後、幾多の未決定の点について、特殊な妥協的提議が行われ、その草案がパリーに送られる前に、更に協議していると思われる。
9月23日
佛国政府の態度 22日タイムス社発
巴里来電=佛国政府は、獨逸がモロッコに於いて政治的勢力若しくは干渉に関する一切の権限、主張を放棄したと言う明確な証拠を示す事を待っている。
大罷業愈断行 同上
愛蘭鉄道従業者は、いよいよ罷業の範囲を拡張し、総同盟罷業を宣言した。これは鉄道会社が一社を除く外、皆彼らの要求を拒絶した事による。
西班牙罷業落着 22日上海経由路透社発
マドリッド来電=西班牙首相は、昨夕、同国内の罷業が終了したと公言した。
9月25日
佛獨難局解決 23日タイムス社発
巴里来電=獨逸の新提案は、佛国政府の手に渡された。兎も角解決方法が立った点は一般に満足を以って迎えられた。なお佛領コンゴの領地を獨逸に譲り報償の方法を講じる件は
それ程難問題であるとは考えられない。
加奈陀選挙続報 23日上海経由路透社発
オタワ来電=最新の選挙結果によれば、保守党員130名、自由党員86名が当選した。最も意外であったのは田舎地方の選挙人が大部分、米加互恵案に反対の投票を行った事である。
9月25日
佛獨協議有望(モロッコ問題略決定) 14日上海経由路透社発
伯林来電=公式に報道される所によると、佛獨協議中、モロッコに関する部分の協定は、既に終わり、唯些細な二三の点が未だ決定されていないが、別に重大な性質のものではない。佛国が獨逸に与える報償問題も比較的速やかに解決するものと希望されている。
伊米土耳古に迫る 23日紐育特派員発
伊太利政府がトリポリ港を占領しようとしているとの報が先日から伝えられていたが、最近の情報によると、若しこの事に土耳其が妨害を行うならば、直ちに戦端を開く為に準備を整えているそうである。 又米国軍艦チェスター号も土耳其に向かうものと新聞も猛烈な筆法を以って論議している。この事件に関し、ニュヨーク着タイムス紙、その他二三の新聞は、政治上、この種の問題でこの様に馬鹿げた事になった例を知らないと述べている。
加奈陀失敗と市場 23日桑港特派員発
加奈陀の選挙の結果、現内閣は大敗し、米加互恵条約の成立は見込みがなくなった。その為にシカゴの市場で穀物が騰貴した。
9月26日
伊太利の活動 25日タイムス社発
コンスタンティノープル来電=イタリア陸海軍がトリポリ海岸に軍隊を上陸させる準備を行っているとの噂がある為、当地に於いては一般に恐慌を来している。トルコ政府は、イタリア政府に対し、イタリアの汽船が、突然積荷を積まずにトルコの諸港を去った理由等を問い、説明を求めている。
佛個の好意的中立 同上
巴里来電=イタリアがトリポリを占領しようとしている企ても、佛国はこれに対し、好意的中立を守ると思われるが、しかしイタリアは、この事件を処理する場合に困難を感じるようになるであろうと思われる。
獨佛談判終了 24日伯林特約通信社発
獨佛談判に関し、パリーよりの報道によれば、佛国は獨逸の仲裁案に対し実質的な譲歩をする意思が無く、又佛領コンゴの一部を譲与するについては、佛国植民新聞紙の抗議がでるであろうと予期されている。しかしモロッコ談判は、近い内に満足な解決を見るにいたるだろうと公式に発表されている。
異国とトリポリ 25日伯林特約通信社発
トリポリに於けるイタリア居住民は、トルコ人の攻撃を恐れ、軍隊の派遣を本国政府に要請した。しかしイタリア政府は、断然たる処置を執る以前に、10月初旬、ローマに到着する予定の新駐土大使を通じて、トルコ政府と談判を開始するであろう。尤も政府は危急の場合を予想して、常備軍を充実して置くために、1888年の予備兵を招集した。
エジソン伯林着 同上
大発明家エジソン氏は伯林に到着し、大いに歓迎された。
9月27日
獨紙の忠告 26日タイムス社発
伯林来電=半官紙は、軽率に事を処する前に、まず真面目に時局を観察すべきとイタリアを戒め、またトルコに対しては、イタリアにその経済上の要求を許可すべきであると忠告した。
トリポリ排伊熱勃興 26日上海経由路透社発
北アフリカのトリポリに於いては、イタリアが領土占領を企てているとの説がある結果、甚だしく排伊感情が勃発し、その為に同地イタリア人等はトルコの蜂起を恐れて退去した。
波斯廃帝の末路 同上
モーニング、ポストのテヘラン通信員によれば、ターコン賊の一酋長は、内閣に対し、今回廃帝を捕獲したので訓令を仰ぐ旨打電した。
伊太利軍愈上陸 25日紐育特派員発
伊太利の軍隊が、トリポリの三カ所に上陸したとの報があった。尚伊太利は、予備軍12万を招集した。又トリポリに派遣された土耳其軍隊は2万5千であるので、この上6万の軍隊を送らなければ戦う事が出来ないであろうと言われている。
9月28日
土国首相の意見 27日タイムス社発
コンスタンティノープル来電=トルコ首相ハツキパーシャは、現在、伊太利との関係が面白くない状況であるが、予自身の意見に依れば、充分調和の望みがあると疑わないと公言した。
土国大使の伊国攻撃 同上
駐沸土耳古大使はトリポリ問題を論じ「伊国兵士がトリポリに上陸したならば、これを見たトルコは、主権ある独立国トルコの存在に攻撃を加えるものと見なすべき」と述べた。
伊国軍艦の出発 27日上海経由路透社発
ローマ=軍艦レキナマルゲリーク号はメシナを出発した。
9月29日
伊国の最後通牒 25日タイムス社発
パリにおいて伝えられるところによると、伊太利は土耳古に対し、最後の通帳を発し、その経済的利益が承認されないならば、直ちにトリポリを占領すると宣言した。これに関する政府筋の報道は未だロンドンに届いていない。
モロッコ問題形勢 28日上海経由路透社発
モロッコ問題に関する沸国の通牒は伯林において非常に友好的精神を以て迎えられたがなお意見の交換を要する点が二三ある。
トリポリ形勢重大 同上
土耳古運送船デルナ号は、トリポリに百名の兵士と弾薬を揚陸したが、沖には伊太利艦隊があるので港内に入った。土耳古領海内の伊太利商船は全部召還された。
独逸の斡旋 27日伯林特約通信社発
独逸は自ら伊土政府間に斡旋し、トリポリ問題を解決しようと尽力中である。そしてその結果、土耳古もトリポリにおいて特殊な経済的譲歩をする様子である。