8月1日
獨逸領土交換 31日タイムス社発
巴里来電=英国首相アスキス氏の演説以来、引続き当地に於いては、モロッコ情勢を楽観視している。獨逸はモロッコに対する要求を放棄し、多分西部アフリカに於いて、佛獨両国間に於いて、領土の交換が行われると思われ、佛国新聞は、これに関し詳細な条件を指示した。
獨逸宰相に諮る 同上
伯林来電=獨逸皇帝は、スウイネミユンデ浴場に於いて、宰相ベートマンホルウエツヒ及び外相キデルレン、ウエヒテルと時局について、協議中であるが、その結果は未だ判明しない。
波斯の和睦策 31日上海経由路透社発
テヘラン来電=ペルシャ議会は廃帝ムハマッド、アリの帰国の結果、一旦、当然没収となった年金額の16,500万ポンドを廃帝に支給し、その兄弟にも、これより少額の金員を支給しようと申し出る事に決定した。
8月2日
アルバニア内乱 1日タイムス社発
コンスタンティノープル来電=トルコ政府は、去る木曜日(7月27日)アルバニア叛徒等に降伏を勧め、同時にモンテネグロ国に「若し同国が、引続き叛徒を庇護する場合には、非常に激昂するトルコ軍隊が、遂には国境まで叛徒を追撃する事になるであろう」と通告した。
波斯内政と英露 1日上海経由路透社発
テヘラン来電=露国公使は、インド軍少佐ストークスのペルシャ国庫及び憲兵隊建設係任命に大反対を表したと報道される。又同公使は、均衡を保つために、露国人をも同様の地位に任命する事を要求する意思がある旨を発表した。
獨帝憤怒説 31日紐育特派員発
獨逸皇帝は、モロッコ事件に関し、英国がフランスを助けなければ、佛国は必ず我が要求を容れたであろうと憤っているが獨逸国民は戦争を好まないので、皇帝の憤怒も狂言ではないかとの説がある。
8月3日
佛紙の獨逸攻撃 2日タイムス社発
巴里来電=獨逸は、モロッコ問題について、冷然と公法を無視し、依然として改める様子が見られないので、佛国新聞の獨逸攻撃は一層激しくなった。
否認権案延期 1日上海経由路透社発
上院の否認権廃止案は、8月8日迄、下院の議に上る事はないと思われる。
英露同文通牒 2日上海経由路透社発
テヘラン来電=英露両公使は、同文の通牒をペルシャ政府に送り、廃帝に政治的運動をさせない様に勧告した旨を公言し、且廃帝は既にペルシャ領地に入ったので、干渉することが出来ない旨を附言した。
8月4日
獨佛妥協案 3日タイムス社発
英国首相アスキス氏が、先に下院に於いて、英国の対モロッコ政策に関し宣言した結果、獨逸の法外な要求は、実際に撤去されたと信じられる理由がある。現在、獨佛両国間に一つの妥協案が進行中で、佛国は、多分モロッコに於けるその特殊な利益を獨逸が承認する交換として、カメルーン(獨領)とコンゴ(佛領)間の境界を多少変更する事に同意すると思われる。(一部抜粋)
土国内乱終了 3日上海経由路透社発
トルコは、アルバニアのマリソリ族との間に和睦の協約が成立した。モンテネグロ人等は、今やアルバニアより来た避難民を帰国させる様に尽力している。
船員同盟罷業続報 3日上海経由路透社発
倫敦のドック人足は大会を催し、一般的同盟罷業を断行する事を議決した。2万人の人足は、本日(3日)罷業すると思われる。外国にある同盟会は、ロンドンより来る船舶に対し、罷業を行うよう依頼を受けた。
8月5日
波斯内政と英露 4日タイムス社発
セントピータスブルグ来電=露国は、英国ストークス少佐のペルシャ徴税憲兵隊長任命に抗議をし、のみならず北ペルシャに英国士官を任用する事にも反対を表し、非公式に抗議を送った。
(ペルシャ政府は、徴税事務を担任する憲兵隊の組織を企図し、この隊長に英国印度陸軍少佐ストークスを任命しようとしたが、露国はこれに反対中である。)
英国新聞記者放逐 4日上海経由路透社発
英国のデイリーエキスプレス及びウエストミンスター、ガゼット両新聞の特派通信員は、モロッコのアガジル(獨逸軍が占領している地)より追放された。英国は、アガジル及びタンジール府に於いて、強烈に同件について、抗議中である。
墨国形勢不穏 3日桑港特派員発
メキシコ政府革命党内の猟官運動の結果、大統領デラバーラ氏、革命派首領マデロ氏、内務卿コノス氏との間に衝突があった。大統領とマデロ氏が相談の結果、コメス氏が辞職を余儀なくされた事に、革命派中には憤慨する者が多く、もし4日朝までにコメス氏を復職させない時は、戦闘を開始すると恐喝した。よって政府はレイネ将軍を指揮官に任命し、大統領官邸及びその附近を警戒している。(一部抜粋)
東郷歓迎に狂す 3日紐育特派員発
東郷大将の乗り込んだルシアタニア号は、3日午後11時サンダーフックに到着する予定である。大将の上陸は、4日の早朝になる予定で、その際、米海軍の小蒸気船にて、特別に出迎えを行う予定と決まっているが、新聞記者等は、非常に都合が悪いと大騒ぎをしている。大将の到着時には、非常な騒ぎとなると思われる。
8月6日
佛伊の対波抗議 4日上海経由路透社発
テヘラン来電=佛伊両国代表は、ペルシャ政府に通牒を送り、ペルシャ政府が雇入れた、新任の米国人財務官が、年金を受ける自国民に対する支払いを行う事に抗議した。
モロッコ問題別報 5日上海経由路透社発
巴里来電=半官的通報によれば、モロッコ問題に関し、佛獨間の関係は緩和し、情勢は改善されたけれど、なお獨逸の要求と佛国が承諾し得る譲歩との間には、非常な開きがあると言われている。
摩兵退去を命じられる。同上
巴里来電=在アルカザル西班牙軍司令部は、本日正午、モロッコ守備隊に対し、同地からの退去を命じた。守備隊は、西班牙の命令に服従するであろうと信じられている。
東郷大将着米 4日紐育特派員発
東郷大将の乗船したルシタニア号は、3日午後11時40分、検疫所附近に停泊した。小蒸気船が本船に赴き、大将、谷口少佐を移乗させ帰った。大将は甲板の椅子に座り、グラント将軍は絶えず両岸の夜警を説明された。大将が無事ホテルに到着したのは、4日午前1時であった。(一部抜粋)
上陸後の大将 5日紐育特派員発
4日午前11時東郷大将は、ニューヨーク市長を市役所に訪問した。この日大将の自動車は、50名の騎馬巡査が前後を警備し、その先駆けとしてオートバイに乗った6名の巡査が居た。
大将がホテルに帰った20分後、市長が大将をホテルに訪問し、答礼した。(一部抜粋)
8月7日
東郷大将歓迎 5日タイムス社発
紐育来電=ニューヨーク市長ダイナー氏は、東郷大将を市会堂に迎えた。公衆は、所謂、東洋のネルソンに対して、盛んに喝采した。(一部抜粋)
アルバニア内乱鎮定曙光 6日上海経由路透社発
アルバニアのマリソリ族はトルコ政府の約束を少しも信じていないと称しているが、モンテにグロ国王の忠告に従い、遂に政府の譲歩條約を受け入れた。
墨国大統領候補 5日紐育特派員発
メキシコ大統領候補として、レース将軍が打って出てより日が浅いが、勢力はなかなか盛んである。今回、同国のカソリック教徒が同将軍を強く支持する事になれば、マデロ将軍の為には大事件となるであろう。
8月8日
佛国とモロッコ 7日タイムス社発
巴里来電=佛国の輿論は、モロッコ問題について、情勢の進展を待望する態度を維持している。領地の協定問題(カメルーンと佛領コンゴの境界について、譲歩する問題)については、深く感情を動かした。但し所謂獨逸の国民的感情に対して、過大な譲歩が行われるであろうとは、考えてはいない。
波斯雇英人問題 同上
露都側では、英国はストック大尉をペルシャ憲兵隊長の職より外す為に、進んでその方法を講じなければならないとの意見を持ち、又その抗議は不十分であると述べ始めている。
東郷大将と大統領 7日上海経由路透社発
米国大統領タフト氏は、大統領官邸に於いて東郷大将の為に饗宴を開き、席上日本の天皇陛下為に乾杯し、日本が最近改定した日英同盟に於いて、遅滞なく仲裁という一大道徳的主義を十分に承認し、もって英米仲裁條約の成立を容易にさせた事を称賛した。(一部抜粋)
波斯僧正の勧告 同上
テヘラン来電=ペルシャのイスラム教主教は、廃帝を以って、不信者、背教徒であるとして、これを攻撃し、人民に対し、ペルシャ防衛の為に協力する様に求めた。
8月9日
佛獨談判の難関 9日タイムス社発
巴里来電=現在ベルリンに於いて、佛国大使と獨逸外相との間で進行中のモロッコ問題談判の、最難関とも称すべき獨逸の要求と佛国の提出条件を如何に調和すべきかにあるとは、一般に認識されている事である。
憲兵隊長任命事件 同上
テヘラン来電=ペルシャ財務官兼管理官の米人シュスター氏は、通信員との会見に於いて、英人ストークス少佐をペルシャ徴税憲兵隊長に任命した件に関し次の様に述べた。「余はストークス少佐を憲兵隊長に任命したが、決して英露間に葛藤を起こす考えは少しもない。ペルシャの財政を改善する唯一の方法は、徴税憲兵隊長に有能な士官を採用するにある。そしてストークス少佐を措いて他にその地位に最適任の士官なし」云々 英国はこの事件に対し、別に何らの干渉もしないと信じられる。
英国罷業情勢 8日上海経由路透社発
船員罷業情勢が重大となったのは、ロンドンの電車人夫及びその他の労働者が、遂に船員の同盟罷業に加わった為である。2万名のドック人夫の要求は入れられたけれど、彼等は、罷業者の要求全部が、採用されるまでは、就業を受け入れないので、ロンドンに於ける工業は従来よりも重大な影響を受けた。(一部抜粋)
8月10日
東郷大将の謝辞 8日紐育特派員発
東郷大将は、7日午後11時より、ワシントンのナショナルプレス主催のレセプションに出席し、次の演説を行った。今夕、予が最も敬愛する諸君にお目に掛かることが出来、非常に光栄である。予は、この米国に到着してより、身分不相応は歓迎を受けたことに対し、米国政府は無論、国民に向かって感謝する言葉がない。願わくは、予が誠心誠意感謝している旨、諸君を通じて、国民諸君へ伝えられん事を希望する云々と述べた。
排日案提出 7日桑港特派員発
米国上院移民委員会のギリリングサム氏が移民案を提出した。これによれば、日本移民に対し、支那人排斥法のやや寛大なものを適用しようとしている事である。
8月11日
倫敦船渠罷業重大 10日タイムス社発
倫敦の船渠人夫同盟罷業は、ますます火の手を揚げ、最も重大な形勢を帯びるに至った。10万人の人夫は、罷業に加わるだろうと予想され、商工業は完全に麻痺した。
米国議会の大騒ぎ 9日紐育特派員発
▽東郷大将の歓迎熱
東郷大将は、8日午後、米国議会を参観したが、議会は大将の為に、暫らく議会を中止し、大いに大将を歓迎した。もっとも上院は静粛にして、歓迎の意を表した。下院は非常な騒ぎで、米国流万歳と日本流万歳と入乱れ、耳を弄せんばかりで、加えて傍聴席に居た幾多の人々も共に万歳を叫んだので、なお一層喧噪を極めた。その中にも大将の演説を希望する者が多かったが、大将は頭を振って応じず、議長を通じて謝辞を述べた。
叛兵銃殺 同上
モロッコ海岸に於いて、西班牙の巡洋艦内に於いて反乱を企てた首謀者水兵12名が銃殺された。
8月12日
否認権案通過 10日上海経由路透社発
英国議会は、134票対114票を以って、否認権廃止法案を可決した。
獨逸の対摩政策 10日伯林特約通信社発
ケルニッヒ、ツアイツング紙は、モロッコ問題に関する
内閣会議に於いて、獨帝、宰相及び外相の間に意見の一致を見たと宣明した。
波斯廃帝軍迫る 同上
ペルシャ廃帝の徒党は、テヘランに進軍中である。
8月13日
食料市場に入る 12日タイムス社発
肉類を積載した数両の馬車が、警官保護の下に全速力で倫敦のスミスフィールド市場に入った。
英国同盟罷業形勢 11日上海経由路透社発
大商人等は、ロンドンの同盟罷業が数カ月間放置しておかれるかも知れないが、もしそうなれば、物価は2割乃至5割の騰貴の為、下層の民は、頗る窮状に陥るであろうと言明した。
艀船人夫罷業落着 同上
艀船人夫の同盟罷業は、11日夜半に終了した。人夫は2割5分の増給を受け、また1日12時間の労働時間を10時間に短縮された。
8月14日
倫敦罷業終息 13日上海経由路透社発
ロンドンは、至る所で、平生通りの外観を回復中であり、諸市場、波止場等では貨物を満載した荷車が大いに活動中である。
東郷大将紐育入 12日紐育特派員発
東郷大将は、11日紐育に到着した。駅には歓迎の日本人及び白人が山を成し、一斉に万歳を叫ぶ。三四十名の巡査が辺りを警戒し、大将の自動車は、オートバイに乗る巡査十名前後が警護した。ホテルに到着したのは午前六時であったが、ホテルの内外は、人の山が築かれていた。ホテルに暫時休憩の後、水野総領事の官邸に赴き,久し振りに純日本料理の饗応を受けた。12日はウエストポイントの陸軍士官学校に赴き、13日はオイスターベイにルーズベルト氏を訪問し、ロ氏夫妻と昼食を共にし、3時帰館の予定である。(一部抜粋)
米国行の清国学生(長崎) 内国電報 13日発
北清事変の賠償金にて、米国へ留学の支那学生75名(内女子17名)は、宣教師2名に引率され、米汽船ペルシャで渡米の途中、上海より到着、横浜に向かう。
8月15日
リヴァプールの大争闘 14日タイムス社発
本日リヴァプールに於いて、非常に重大な紛争があり、ドック人夫は示威運動を行い、激烈な闘争が起こった。騎兵及び乗馬警官が突撃を試み、双方約2百名の死傷者が生じた。又マンチェスターに於いては、5百名の担夫がリヴァプールの同盟者に同情して、罷業を断行した。リヴァプール罷業者の要求が入れられないならば、大規模な罷業が行われるであろう。
モロッコ談判行悩み 14日上海経由路透社発
巴里来電=獨佛間のモロッコ問題談判は、完全に行き悩みの姿である。獨逸外相と佛国大使との次回の会合日時は、未だに決定せず。
廃帝軍と官軍の衝突 同上
テヘラン来電=ペルシャ廃帝は、テヘランの北東80マイルのアモルに居ると伝えられる。官軍は,テヘランの東70マイルの地点に於いて、廃帝の軍隊を破り、指揮官を殺した。
8月16日
英国罷業暴動 15日上海経由路透社発
14日午後、リバプールに於いて罷業鉄道人夫10万名の大会があり、英国罷業史上未曽有の激烈な暴動を見るに至った。
罷業暴動続報 同上
官吏は、暴動法律を読み上げ、又リーウイックシア歩兵一大隊、スコットグレー騎兵が派遣され、整列の上、射撃準備を行ったので、罷業者等は大いに恐れ、散乱して小街区に逃れ、そこで小衝突を行い、夜半に及んだ。最近の情報によれば、130名が負傷し、その多数は警吏の様である。
東郷ロ氏会見 14日紐育特派員発
東郷大将は13日午前11時発で、オイスターベイにルーズベルト氏を訪問し、午後5時ホテルに帰った。当日の会見の状況は少しも世間に漏れなかったので、新聞は種々の憶測記事を掲載している。午後5時よりカーネギーホールに於ける在留同胞歓迎会に臨んだ。来会者6百余名、当日同胞は最新式の5百円の蓄音機及びレコード40枚を贈呈した。同夜7時より米国政府主催で大将を主賓として、ニッカポッカーホテルに於いて公式の宴会があり、来賓620名で、来賓の主な者はグラント将軍、ニュヨーク州の代表者ブルーベッキー少佐、ウッドウオード将軍、水野総領事、高峰博士等で、大将は大礼服を着用した。
8月18日
英国罷業重大 16日タイムス社発
英国リヴァプールの同盟罷業は、非常に重大である。鉄道人夫等は雇主に対し、最終談判を行い、4時間以内にその要求を受け入れないならば、全国に亘って大罷業を行うと言明した。
マンチェクスター罷業影響 17日上海経由路透社発
羊毛及び毛織物の原料に対する減税案は、先般修正を加え、上院より下院に回ったが、14日、90対206の多数で下院を通過した。その案はタフト氏が否認するであろうとの説があったが、この様に多数で可決したのを見ると恐らく否認しなかったであろうと言われている。
米兵国境派遣 16日桑港特派員発
米国政府は、メキシコのローリーとカルフォルニアに暴動が起こった為に、騎兵を派遣して、アリゾナ州と加州の間の国境を巡回させる為に、訓電を発した。また海軍省は、桑港湾に停泊中の巡洋艦に万一に備える為、サンジェゴに急行する様命令を発した。
8月19日
露獨協約締結 17日タイムス社発
ロンドンタイムスのセントピータスブルグ通信員は、ペルシャに関する露獨協約が近々、締結されるであろうとの報道を確認した。なお協約は英佛両国に対する露国の態度には少しも影響を及ぼさないと述べた。
英国罷業形勢 同上
英国の罷業形勢は、なお危険な範囲を脱していない。鉄道会社は、政府が会社を十分に保護すると約束した為に、依然として強硬な態度を執っている。軍隊は、暴徒の襲撃を受ける恐れのある線路を巡回警備する予定
軍隊行為非難 17日上海経由路透社発
ランスブルグ氏及びその他の労働党議員は、軍隊の取った野蛮な行為を非難し、発砲の場合は、寧ろ脚部を狙撃すべきと説き、進んで軍隊の行為に関し批評したが、内務卿チャーチル氏は、最も困難な事情の下に行われた政府の行為に関し、評論をする事を拒んだ。(一部抜粋)
8月20日
倫敦交通途絶 19日タイムス社発
鉄道の同盟罷業の結果、20万人の従業者が職を辞めた為に、ロンドンより北部及び西部への交通は途絶した。但し南部への交通はそれ程影響を被っていない。但しロンドン郊外の諸運河は、貨物船で殆ど閉塞された。45日の間、情勢に何らの変化も生じず、又改善を見る事はないと思われる。
露獨協約調印 同上
セントピータスブルグ来電=ペルシャ問題に関する露獨協約が本日調印された。この協約は、北ペルシャの開放を保障するものであるが、獨逸は、同地方に於ける露国の特殊利益を承認し、露国はバクダット鉄道に関し、獨逸がペルシャ政府と協定する事を承諾した。
罷業調査委員 19日上海経由路透社発
大蔵尚書ロイド、ジョージ氏の提出した罷業調査委員は、主要雇主及び従業者の代表者各1名及び社会の信任を有する者1名より成るものであり、この委員は、任命後即座に会議を開く予定である。
8月21日
鉄道罷業落着 20日上海経由路透社発
鉄道同盟罷業は落着した。
船渠罷業終了 同上
艀人夫紛争に関し、雇主と罷業者間に協約が成立し、ロンドン船渠罷業の落着は、全く確立した。
8月22日
獨露協約調印 21日タイムス社発
露都来電=ペルシャに関する獨露協約が調印された。その内容は露国の経営下になる予定の北部ペルシャ鉄道と獨逸のバクダット鉄道との連絡を規定し、又獨逸貨物がペルシャに入るに当たり、露国下にある地方に於いて、差別的取扱を受けない事を約したものである。露佛同盟或いは英佛露三国協商には何等の影響を及ぼさない。
労働紛議調停 21日上海経由路透社発
会社側代表者2名、労働者側代表者2名と中立者1名よりなる罷業事件関係の調査委員会は、出来るだけ早く組織され、実務に適当な調停案を報告すべし。
日佛條約調印 20日巴里通信社発
日佛通商条約は、昨日午後6時、巴里に於いて調印された。同條約は10年間の期限であり、最恵国待遇の規定を有し、羽二重及び漆に対しては佛国の最低税率を適用し、日本の沿岸貿易は、日本海運の発達を期する為に、佛国側にては、従来の権利を放棄し、日本側ではこれに対し、15種の佛国貨物につき、減税をする事とした。
8月23日
露獨協約と密約 22日上海経由路透社発
ロイター社の知る處によれば、露獨協約は別に何らの密約も含んでいないという。この協約の調印は、英佛両国に一般に満足を与えた。これはこの2国が協約の締結に関し、十分な相談を受け、又協議の経過に関して、絶えず通告されていた為である。
ペルシャ官軍大勝 同上
テヘラン来電=ペルシャ官軍は、バルフォア(露国とペルシャ間商業の一中心地であり、カスピ海より12マイル)に於いて、廃帝軍を完全に打ち破り、大勝利を得た。
墨国の知事選 21日紐育特派員発
メキシコに於ける各州知事の選挙が始まったが、至極平穏でありマデロ派の勝利に帰した。
8月24日
ペルシャ廃帝軍敗北 23日タイムス社発
テヘラン来電=廃帝軍は敗れ、兵士330名及び砲2門を失った。
罷業解決困難 23日上海経由路透社発
リバプールに於いては、夜遅く、新たに問題が起こり、罷業側委員等は、各部の運搬人は何れも明日、復業してはならない旨宣言した。従って復業は無期限に延期された。
新膠州湾総督 22日伯林特約通信社発
獨逸海軍大佐マイヤー、ワルデックの膠州湾総督任命は、いよいよ公式に発表された。前総督ツルツベル提督は貴族に列せられた。
8月25日
佛国海軍大拡張 24日上海経由路透社発
佛国代議院海軍委員会は、一つの報告を提出し、海軍力の増加を断固として主張した。そして、その手段として1920年まで毎年新式ド級型戦闘艦を2隻づつ建造し、又水雷艇及び潜航水雷艇を大いに増加する事を建議した。この総費用は5千9百万ポンドである。
東郷大将 23日紐育特派員発
東郷大将は、22日朝、ナイヤガラを出発し、何処へも立寄らず、23日パンフと言う温泉に到着、1日休養し、26日バンクーバーに到着、同地に於いて23の歓迎会に臨み、翌日同地発で28日朝シャトル着、2日間当地に滞在の上、30日丹波丸にて帰朝の途に就く予定である。
土領の新鉄道工事 23日伯林特約通信社発
トルコは、チグリス河上流のジアベルクよりバクダットに至る鉄道の敷設について、アナトリア鉄道局会社と協議中である。
8月26日
新巡洋艦進水 25日タイムス社発
伯林来電=小巡洋艦ストラツスブルヒ号がウイルヘルムシャーフェン軍港に於いて進水した。同艦は新式の艦であるがその詳細の構造については、去る5月進水した2隻の姉妹艦と同様に厳重に秘密とされている。
英領王族優待 24日上海経由路透社発
英国皇帝は、英領ボルネオのサラワク王の長子サジヤマタに「殿下」の称号を許与し、インド諸王嗣の次位にその席次を定める事を裁可された。
モロッコ形勢改善 同上
佛国の新聞は、論調が穏やかとなり、皆モロッコ情勢が危機に陥っていると認めない事で一致した。伝えられる所によれば、獨逸がモロッコに於ける佛国の地位及び権利を絶対的に承認する場合には、佛国は尚この上譲歩する事に躊躇しないと言われている。
8月27日
英紙の日本政変評 26日タイムス社発
倫敦タイムスは、その論説に於いて桂内閣の辞職を次の様に論じた。「今回の政変は、幾分疑惑の念を世間に与えるだろうが、これは桂公が行った日本の外交政策が非常に成功したのに反し、西園寺公は比較的経験に乏しい為である」云々。(一部抜粋)
佛国獨逸に譲与す 26日上海経由路透社発
佛国政府は、獨逸がモロッコに於ける佛国の権利を絶対的に承認する代償として、コンゴに於いて、領土上の譲歩をしなければならないとのド、セルヴ外相のジユルカムボン大使に宛てた訓令に異議なく賛成した。
同盟罷業再発 同上
各新聞は、漸く終了した労働戦争の原因及び結果に関し種々の評論及び推測を試みつつあるが、多くは、同盟罷業は一時休戦の状態にあるに過ぎず、騒動は再び起こるどぇあろう考えている。
8月28日
巴奈馬砲台 27日紐育特派員発
パナマ運河の砲台に備付けられる予定の大砲は、口径16吋であり、1千数百Kgの弾丸を使用することになっている。この弾丸の中には多量の綿火薬を装置し、如何なる軍艦も1発で撃沈できる計画である。
露国の大潜航艇 内国電報 27日発
露国は、今回排水量5千トンという大潜航艇の建造を計画中と言われている。馬力1万8千、速力は水上25ノット、水中15ノットである。潜航艇の権威である佛国に於いてさえ、1905年に5百5十トンの潜航艇を今尚、最大限度としている。その他英米獨の海軍に於いても排水量34百トンを最大限度としている。日本も又しかり。現在、列国海軍の潜航艇の水上速力は12ノット乃至15ノットに過ぎず、到底艦隊と行動を共にする事はできないが、今回の露国の大潜航艇は、水上速力25ノットであるので、艦隊と相伍して行動を共にし、その能力を発揮するかも知れない。(一部抜粋)
8月29日
モロッコ問題落着 28日上海経由路透社発
巴里及び伯林の諸新聞は、獨佛協議の結果、モロッコ紛争が落着するであろうと予想している。彼らは皆、獨逸は、佛国がモロッコに於いて自由に振るまう様にさせるものと信じている。そして未解決の問題は、獨逸がコンゴに於いて得る領土上の代償の範囲如何にある。スペインのマドリードに於いては、佛国がモロッコの保護権を得る事になるのではと不安の念を抱いている。
東郷大将 28日上海経由路透社発
バンクーバー駐在の矢田領事は、26日夜、歓迎委員と共にカムルーブス市に東郷大将を出迎えた。27日午前11時同市在留日本人は歓迎会を国民学校で開催した。大将は午後シャトルに向かう。
8月30日
獨帝の海軍演説 29日上海経由路透社発
ハンブルグ来電=獨逸皇帝は次の様な演説を行った。「我が獨逸の商業は益々発達しているが、商業の競争は各国又は国民にとって、健全無害なものである。獨逸国民は海軍を発達させる事によって我が商業の保護を行っている。若し朕の判断に誤りがなければ、ハンブルグ市民の願う所は、朕がこの上、海軍を強固にして,太陽の照らす所何処に於いても、我々と争う者を無くすことであろう。これは実に我々の権利である」
モロッコ問題解決近し 同上
フランクフルト、ツアイツング新聞伯林通信員は、政府筋の意を受けたと思われる次の様な言明を行った。「モロッコ問題は、今や常識ある人々を満足させる平和な解決を得ようとしており、獨佛談判の終結は今やあまり長くない将来に起こるであろう」
憲兵隊長任命事件 同上
倫敦タイムスのセントピータスブルグ通信員の報道によれば、ペルシャは、英国人ストークス少佐をペルシャ徴税憲兵隊長に任命した件に関し、露国と交渉を開いたという。(ペルシャ政府は、英国ストークス少佐の任命で露国の激烈な反対にあっている)
8月31日
獨帝演説の解釈 30日上海経由路透社発
新聞は,獨逸皇帝がハンブルグで行った演説に対し、種々の解釈をしている。ある新聞は、平和演説であるとし、又ある新聞は海軍演説であると言っている。しかしモロッコ問題の情勢が危機を告げると獨逸海軍法令は修正されるべきであると久しく期待されてきた為に、その演説は、海軍軍人任用令の改正に関するものであると認められる。
東郷大将帰朝 30日シャトル特派員発
東郷大将は、28日午前8時、カナダより到着、ワシントンホテルに入り、騎馬巡査の護衛で、市役所を訪問、午後商業会議所等の歓迎会に臨み、午後4時より高領事主催のワシントンホテルに於ける晩餐会に招待された。29日午前9時、丹波丸にて帰朝の途に就く。米国は特に巡洋艦2隻で港外まで大将を見送らせ、祝砲を放った。
大統領の送辞 29日桑港特派員発
大統領タフト氏は、次の様な送辞を東郷大将に送った。合衆国政府の国民及び予は、大将を国賓として迎えた事を悦び、滞在が2週間と短いのを遺憾とする。今、閣下が帝都を去るに当たり、告別の辞を呈して安全な航海を祈る。