明治43年5月

主要記事

期日

日本関係

期日

露清関係

期日

英米関連

期日

独仏その他関連

58

日本館観覧会

51

松花江に関する訓令 

52

否認権案愈提出

51

土耳其内乱形勢 

512

新帝と日英博 

55

米国の対清政策

52

新聞紙の飛行懸賞 

53

土耳其内乱形勢

513

日本人の著書

516

日露関係現情

56

英国鉱業論

53

土国官賊講和条件

516

日英博覧会概観

517

芬蘭合併案可決

57

巴奈馬運河防備 

54

土国官賊激戦

521

陸軍拡張決議案 

523

清国の科挙 

57

ロ氏の平和論 

55

排猶太人熱 

527

日本関税攻撃

526

川漢鉄道借款協約 

59

英帝崩御

55

諾威詩人の名誉 

 

 

 

 

514

米国海軍拡張

513

土耳其軍勝利

 

 

 

 

518

アルバニア人攻撃

522

波斯と英獨露

 

 

 

 

518

波斯形勢と英紙

531

土耳其の決心

 

 

 

 

522

壮嚴なる大葬

 

 

 

 

 

 

525

海軍拡張論勝利 

 

 

 

 

 

 

528

米国の巨砲採用

 

 

世界情勢

5月1日

土耳其内乱形勢 30日タイムス社発

コンスタンチノーブル来電―アルバニア人との戦闘は、木曜夜カチャニク間道に於いて開始し、今尚戦闘中である。アルバニア人の総数は3千乃至6千と見積もられる。

ウイーン来電―後報によれば、アルバニア反乱軍は、ドヤコウを占領し、約半個大隊のトルコ兵の武装を解除し、且つ全軍を撃退した。北アルバニア各村の官吏は反乱軍に合同した。

解説:連日の様に報道されている記事の続報

松花江に関する訓令 29日ベルリン特約通信社発

露都電報通信の報道によれば、露国政府は、清国の松花江通航規則について、駐清露国公使に訓電を送った。その内容は、清国の提案は到底露国が承認できないものであり、依って露国は清国が7月1日に露人の条約権に一致する新規則を定めることを要求する。清国がこの挙に出ない場合には、露国は自由行動を執り、且つ昨年中、清国に払い込んだ通行税の返還を要求すべしである。

解説:昨日の続報

 

5月2日

否認権案愈提出 1日上海経由ロイター社発

英国上院否認権案は、いよいよ法案として議会に提出された。同案はその前文に於いて上院に代えて、世襲でなく民選の第2院を設ける必要があるが、しかしこれは直ちに実行するものではない。故に財政案が1カ月以内に上院を通過しない場合は、下院議長は、皇帝に奏上し、その裁可を得れば財政案を法律とする事が最も便宜的な方法である。(一部抜粋)

新聞紙の飛行懸賞 同上

英国飛行家ポールハン氏の為に心のこもった宴会が行われた。デーリー、メール祇は、今回の飛行に対して1万ポンドの賞金を懸けていたが、ロンドンとエジンバラ間を復航するならば、更に1万ポンドの賞金を与える旨を発表した。

解説:4月29日ポールハンがマンチェスターまでの飛行に成功した記事がある。

 

53

土耳其内乱形勢 2日タイムス社発

コンスタンチノーブル来電―トルコ軍は、激戦の末、遂にアルバニア反乱軍が固守していたカチャニク隘路を取り戻した。アルバニア反乱軍は、カラダ山に退去し、同地で新たな戦闘が発生した。

土国官賊講和条件 同上

ウイーン来電―サロニカより来た広報によれば、北部アルバニア人等は、降伏に同意したが、ただトルコ政府が租税を軽減し、且つ武装解除命令を取消す様に主張中である。但しトルコ政府がもしこの条件を承諾するならば、その威信の失墜を見る憂いがある。又これを容れずに断固として秩序の回復手段を執ったならば、アルバニア人は、多分再び抗戦するものと考えられる。

解説:連日の様に報道されているが、アルバニア独立までの戦いである。

 

5月4日

松花江問題 3日タイムス社発

露都来電―駐清露国公使の報告によれば、清国は松花江通航に関し、条約上の義務を逃れる政策を執り、今や同通航に対し消極的性質を付そうと企て、ハルピンは海港であると主張した。但しこれは全く自家撞着の態度であり、現に清国は1909年、松花江河流通航規則なるものを発布している。

解説:5月1日「松花江に関する訓令」の続報

英国紡績業危機 同上

英国紡績業の雇用主と職工は、賃金の切下げについて合意を得る事が出来ず、従って一大罷業が起こる恐れがある。

土国官賊激戦 3日上海経由ロイター社発

ウイーン来電によれば、トルコの軍隊はクロブルゼチツのアルバニア反乱軍を包囲する為、カチャニク峡谷を進軍中、多数のアルバニア兵と激戦となり、多くの死傷者が出たと伝えられる。

 

5月5日

米国の対清政策 4日タイムス社発

ワシントン来電―米国大統領タフト氏は、ピッツバーグに於いて極東問題に関し長時間の演説を行った。米国政府が粤漢(えつかん)鉄道借款に干渉するのは、条約権を保持し、米国資本家の利益を保護したいと考えているからであると公言し、又政府は商業上の利害より見て、錦愛鉄道計画に賛成していると述べた。なおタフト氏は、これに対する露国の反対を無視し、日本は既に同計画に協同する意志があり、且つ鉄道協議は満足に進行中であると述べた。

解説:粤漢鉄道とは、中国の武漢と広州を結ぶ鉄道であり、利権を巡り列強の争いがあったが、1911年獨逸に加え、英米佛の4カ国の借款で建設する協定が成立している。しかしこの鉄道が完成したのは1936年であった。

錦愛鉄道は、満州に於ける利権を求めて、米国の鉄道王ハリマンが構想した案が基になっている。当初全満州の鉄道を中立化し、国際シンジケートでの支配を考えたが日露に反対され、それに対抗する案として、米国資本に依る錦洲と愛琿を結ぶ錦愛鉄道が構想された。しかし日露両国に反対され実現できなかった。この記事では日本は賛成とあるが誤りである。

土兵死傷 同上

コンスタンチノーブル来電―トルコ軍隊は、カムチャンク隘路に於いてアルバニア叛乱軍と戦闘した際、422名の死傷者を生じた。

排猶太人熱 同上

ウイーン来電―ハンガリーに於いては、ユダヤ人排斥熱が蔓延し始めている。

諾威詩人の名誉 3日ベルリン特約通信社発

ノルウェーの戦艦ノルチ号は、佛国よりノルウェー首都クリスチアナまで、詩人ビヨルンソン氏の遺骸を運んで来た。同府に於いては、王族と同様の礼砲を以て迎えられた。全国民は大詩人の死を悲しんだ。

解説:この詩人は、ビョルンスティエルネ・ビョルンソンであり、1903年にノーベル文学賞を受賞している。

 

56

英国鉱業論 5日タイムス社発

デヴォンシア公は、鉄鋼協会の集会に於いて次の様な演説を行った。イギリスは常に鉄、石炭、鋼等の産出に於いて、優越的地位を維持する様に努力しなければならない。これによって広大な地域を有する我国は、一層発展するであろう。英国は今後数世紀間、各方面に於いて強大な生産国として存在し続けるであろうが、しかしその優越的地位の維持は、広大な海外領土があるからこそ初めて出来得る所であると言明した。

解説:阿知羅 隆雄の「ヴィクトリア繁栄期の所領経営と家産管理」によるとデヴォンシア公爵家は英国を代表する資産家である。同家は、1920年頃には、土地貴族から株式、債券保有貴族へと転身している。

2次大戦後、英国の繁栄は終わり、パックスアメリカーナの時代がやってくる。

土耳其兵敗北 5日上海経由ロイター社発

コンスタンチノーブル来電―私報によれば、現在アルバニア叛乱兵の手にあると言われているジアコワに於いて、激烈な戦闘があり、トルコ官兵の一個大隊が、ジアコワに到る途中に叛乱兵の待伏せ攻撃を受け、多大の死傷者を生じ、退去せざるを得なくなった。

 

5月7日

日露協約説(離間運動が起これるが如し) 6日タイムス社発

露都来電―日韓の合併を承認し、且つ満州及び蒙古に於ける日露両国の勢力範囲を限定する日露条約成立の噂が北京より伝わり始めているが、これは大いに注目に値し、再び日英露親交反対の運動が起こされた兆候と見なければならない。現在露国の世論は、日本が朝鮮に於いて優越的地位を占める権利を承認しているけれども、しかしこれに何らかの変動をきたす様なことがあれば、これは英露両国外交の過失と見なす傾向がある。

巴奈馬運河防備 同上

ワシントン来電―パナマ運河の防備計画は、大いに進捗した。太平洋方面の運河河口に於いては、3個の砲台を島上に設け、1個を大陸に置き、大西洋方面に於いては、2個の砲台を大陸に置く様である。守備兵は4千名と言われている。

解説:パナマ運河は、この記事の4年後の1914年に開通する。

ロ氏の平和論 6日上海経由ロイター社発

本社クリスチアナ通信によれば、米国前大統領ルーズベルト氏は、ノーベル賞金委員会に於いて、国際平和と題して次の演説を行った。

予は平和を維持する事は可能と考える。ヘーグにある仲裁裁判所を充分に活用しようとする誠意ある各国政府は、殆ど全ての問題を含んだ仲裁条約を締結すべきであると説き、終わりに正直に平和を望む強国は、「平和同盟」なるものを組織し、これで自己等の平和を維持するのみならず、他国が平和を破ろうとする場合には、威力を加えてこれを防止しなければならない。これが実現すると、これは非常に良い案であると言明した。

解説:第1次世界大戦もこの記事の4年後の1914年に起こる。

 

5月8日

日本館観覧会 7日タイムス社発

和田日英博覧会長、陸奥大使館参事官その他の日本官憲は、現在迅速に進捗しつつある

日英博覧会の日本館観覧の為に招待会を開いた。来観者は何れも展覧品の美しい事と完全な事に驚嘆した。

万国気球会議 6日ベルリン特約通信社発

万国気球会議が近々パリ―に於いて開催される予定である。

 

5月9日

英帝崩御 新皇帝の宣言 7日上海経由ロイター社発

7日はロンドンを始め、英国各地が皆深甚なる哀悼の情に満たされ、政治的及び社交的な業務は一般に休止した。

午後3時議会は開かれ、直ちに閉会した。大法官を始め貴族院は議員約50名参集し、新帝に忠誠を誓った。

解説:新帝はジョージ5世で、第1次世界大戦を迎える事になる。

 

5月10日

獨帝の愁嘆 9日タイムス社発

獨帝は、駐獨英国大使ゴッセン氏と会談し、深くその叔父である英国先帝の崩御を悲しむ旨を語り、大葬に関する儀式次第が判明次第、英国に向け出発すると語られた。

解説:獨帝の母は、英国王室出身である。

新帝の方針 同上

新帝ジョージ5世は、土曜日枢密院会議を招集し、哀しみに湛えながら男子らしい演説を行い、朕が一生の目的は、先帝の跡を学び、人民の利害改善の為に尽力し、憲政を維持するにあると宣明した。なお帝の即位は月曜日公式に発表される予定である。

英国紡績悶着 8日ベルリン特約通信社発

英国の紡績業に賃金問題が起ころうとしている。大罷業は多分防ぐ事ができると思われる。

 

5月11日

即位宣示式 10日タイムス社発

英帝ジョージ5世の即位は、英帝国の大部分を通じ、本日付で宣示された。ロンドンに於いては、最初聖ゼームス宮殿に於いて宣示があり、儀式は壮麗を極め、皇子等の臨席があり、市民は、盛んに新帝に忠実でありたいとの熱情を表明した。

 

5月12日

新帝と日英博 11日タイムス社発

英国新帝陛下は、数千の人民が職業を失おうとしている事を不憫に思われ、日英博覧会の会場式を延期しない様に希望された。その為同博覧会は、来る土曜日に、儀式なしで開場される事になった。新帝のこの聖旨を拝する以前は、博覧会委員は、大葬後まで開会式を延期する事に決定していた。

 

513

土耳其軍勝利 12日タイムス社発

フェリソイチ(アルバニア)のトルコ軍本営からの報告によれば、トルコ軍隊5個縦隊は、モラワル平原を進撃し、今や同方面を鎮撫した様子である。3個縦隊がテヘンノロゾ間道に接近するやアルバニア叛乱兵4千名が頑固に抵抗したが、512日に到り、激戦6時間の後、遂に官軍が占領した。

日本人の著書 同上

牧野芳雄という日本人が「ロンドンに於ける日本美術」という一書を表した。タイムス紙はこれを称賛し、これはロンドンに於いて必死に飢餓と戦い、遂に成功した面白い日記であると書いている。

解説:牧野芳雄は、イギリスで貧乏に堪え、絵を描き続け、1907年に出版した画集で成功したと言われており、1910年にこの自叙伝を発表している。1921年には、訪英した皇太子(昭和天皇)に謁見、第2次世界大戦の為、イギリスを去り、重光葵の援助を受け、日光に疎開している。その縁で油絵や鉛筆画が湯河原の重光葵記念館にも展示されている。

 

5月14日

米国海軍拡張 13日タイムス社発

12日米国戦艦フロリダ号が、ブルックリンに於いて進水をした。これは、最も国民を満足される所である。同艦は、国営造船所が現在までに建造した最大の軍艦であり、民間造船所に注文した姉妹艦ユータ号と殆ど同様の速度で建造された。費用は約百2万ポンドであり、12インチ砲10門を装備している。なお米国政府は、14インチ砲10門を備える新型戦艦の建造を計画中である。

解説:フロリダ号の排水量2万3千トン、速力21ノットである。

 

5月15日

日英博覧会 14日タイムス社発

日英博覧会は、いよいよ本日開会される予定である。時恰も国民的服喪期に際する為、何らの儀式が行われないのは、非常に遺憾である。但し同博覧会は、二個の島帝国間の通商的関係に顕著な効果を生じると思われ、又その同盟の感想を新たにする所以であり、その開会は実に注意すべき事件である。

解説:5月12日記事「新帝と日英博」にある様に、博覧会委員は、大葬後まで開会式を延期する事に決定していたが、新帝の希望で開会される事になった。

 

5月16日

日英博覧会概観 14日タイムス社発

日英博覧会は、本日を以て開会する。壮麗な陳列館が相並んで日光に輝く様は、実に堂々たるものがある。幾多の湖水、運河、瀑布が広大な範囲を占め、美しい色彩に満ちた日英庭園に於いて大いに人目を引く。日本部に於いては第一、小さな灌木等を並べ、長い遠景を示すものと第二、種々の島を造り、その特色とするものがある。橋梁、岩石、装飾的家屋等は至る處にあり、風景を絶佳ならしめている。(一部抜粋)

日露関係現情 付日韓合併問題 15日上海経由ロイター社発

日露関係に関するロンドンタイムスの露都特電によれば、日露両国は今一層親密な相互理解を作る事の利益及び両国の政治的並びに経済的利益関係が日露の接近により強固になることを能く了解している。

日韓合併について仮令この計画が実行される暁に於いても日本の同盟国及び友邦は少しも苦痛を感じる事は無いと観測される。(一部抜粋)

 

5月17日

土耳其軍隊前進 16日タイムス社発

フェリソイチよりの報告によれば、トルコの軍隊は引き続き前進中であり、彼等は政府の改革計画の実行を謀る目的を持っている。フリズレンド付近に於ける多数の村落に於いては、白旗が翩翻と翻っている。なおトルコ人が無暗に家屋を焼き払っているとの報道は事実ではなく、むしろ彼らはなるべく邸宅破壊の数を少なくしようと注意している。

解説:アルバニアがトルコから独立する戦闘であり、1912年トルコから独立

セ卿と清国大学 同上

ウイリアム、セシル卿(先にオックスフォード大学を中心として一清国大学設立計画を立てた宗教家)は、清国に於ける大学伝道に関して、要位にある教育家と協議する為、米国を訪問した後、リバプールに帰着した。卿の談によれば、訪問の結果は非常に満足であり、同計画は確かに実行を見るべき状況にあると。

解説:精華大学が1910年にアメリカの資金で設立されているがここで考えられている大学が精華大学かもしれない。習近平は精華大学を卒業している。

芬蘭合併案可決 14日ベルリン特約通信社発

露国国民議会は、フィンランド合併に関する議案に少しの修正を加え、これを通過させた。

 

5月18日

アルバニア人攻撃 17日タイムス社発

在米国のアルバニア人等は、ボストンで開催された会合に於いて「トルコ人のアルバニア婦人虐殺を憤怒し且つ列国に訴えてその干渉を求める」決議案を採択し、且つこれを外国に電送した。

解説:アルバニアがトルコから独立する戦闘であり、1912年トルコから独立

波斯形勢と英紙 同上

タイムス紙は、ペルシャに於いて盗賊等が組織的に横行している結果、同国の英国貿易が衰退に向かうとのブシール通信を掲載し、これら種族を鎮圧し、商業を保護する為ファルス提督を任命する様要求した。

解説:ペルシャの北部は露国の勢力範囲で南半分は英国の勢力範囲である。

摩洛哥騒乱 同上

本社フエツ通信員の報道によれば、モロッコのヒアイナ種族が日々官軍を攻撃し、多大の死傷を生じさせ始めている為、司令官はモロッコ王に対し、全ての援兵を送られん事を要請した。そしてモロッコ王はこれに応じ、援兵を派遣した為、フエツ市は今や何等の防備も無く、各国領事は形勢を悲観している。

 

5月19日

日英博成功 18日タイムス社発

現在ペンテコスト祭日に際し、日英博覧会の観客数は予想を超えている。よって博覧会に於いては、或る時間を定め、時々門を閉鎖する事によって、内部の観客にそれぞれ分散する余裕を与え、然る後に再び門を開き、観客を入場させる事が必要となった。

ハレー彗星に対する迷信 18日ベルリン特約通信社発

地球がハレー彗星の尾に包まれるのは、ドイツでは19日5時42分より始まる譯である。イタリアでは地球滅亡の時が来るのを恐れる迷信が盛んであり、且つローマ法王の救いを求め始めている。キール天文台では、地球に何等の危難を来さない旨を発表した。

 

5月20日

獨逸と波斯 18日ベルリン特約通信社発

英露諸新聞に現れた獨逸外務省がペルシャの政局に干渉しようとしているとの報道は、獨逸に於いて否認された。獨逸政府は、これまでと同様にペルシャに於ける獨逸人の経済的利益を保護するに止まるであろう。

英国紡績危機 同上

英国ランカッシャー綿業者は、職工の賃金を5分低減する事に決定した。この為同盟罷業を見るであろうと予想される。

 

521

獨露協約説 20日タイムス社発

本社露都通信員によれば、半官報ロシヤは、獨逸はペルシャに於ける英露両国の政治的、軍事的利権の優越を承認する意志があり、又露国は、同国に於ける獨逸の商業的要求を満足させる意志がある。従って満足な協定の成立に好都合である旨を報道した。

パリ来電―佛国消息通は、ペルシャに対する獨逸の態度は、モロッコに難問題が起こった時と同様に、極めて危険な外交政策に支配され始めていると観測している。

陸軍拡張決議案 20日桑港特派員発

カルフォルニア州選出議員マックラン氏は、19日上院に於いて陸軍嚮に対し、国防に関する報告を求める決議案を提出し、説明演説を行った。太平洋岸は大西洋岸に比べて非常に危険であり、日本の陸軍は、既に太平洋沿岸諸州を調査し、精密な地図を有している。一朝日本と戦端を開き、日本兵が上陸した場合、太平洋沿岸諸州は米国の領土でなくなるであろうと叫んだ。

長沙暴動観測 同上

米国国務省が広東より得た報告によれば、南清の長沙に於いて、特に米国人が排斥されるのは、米国に清国人排斥法があり、米国が清国人を排斥している為であると述べている。

 

5月22日

壮嚴なる大葬 20日在倫敦長谷川特派員発

本日英国先帝エドワード7世陛下の大葬が行われた。天気晴朗でロンドン全市は雑踏を極めた。沿道の警備も厳重を極め、3個軍団で隙間なく兵を並べた。午前9時、欧州9カ国の皇帝は、宮廷よりウエストミンスターホールに赴き、皇帝皇后の参列移棺式があり、行列はここを出発した。(一部抜粋)

波斯と英獨露 20日ベルリン特約通信社発

先般ウイーンの煽動的な新聞の一紙は、ペルシャに関して英露両国及び獨逸間の衝突を予想する不穏な文章を掲げたが、露国諸新聞はこの記事を取り上げ、獨逸は平和の攪乱者であると攻撃した。獨紙ケルロツセ、ツアイツングは、この攻撃に答えて、獨逸がウルミア湖の運行業譲与及び鉄道借款を得よとしているとの説は、全く事実無根である。獨逸は1907年英露協商によって保障されている経済的利権を保持しようと望んでいるのみで、獨逸は決して条約上の義務を放棄したことはないと言明した。(一部抜粋)

 

5月23日

製艦大反対 21日ニューヨーク特派員発

20日海軍予算委員会に於いて、2万6千トンの戦艦2隻を新たに建造する議案に大反対の議論が起こった。その理由は、国民の公金を浪費し、万国平和会議の原則に悖ると言うにある。

清国の科挙 22日北京特派員発

先般北京に於いて挙行された郷試験の結果、全国各地方より選抜された2千余名中、3百20名が合格し、本日上諭をもって発表された。科挙は既に廃止を宣告されたが、旧学者に対する一時的な便法として行われたもので、今後1回で完全に廃止される予定である。

解説:科挙とは、官吏登用試験で、1804年のアヘン戦争後、近代化が叫ばれる様になり、1905年にこの制度は廃止された。

 

524

英帝の勅語 23日タイムス社発

英国皇帝は国民に対して勅語を発表し、先帝に対する愛慕と忠誠の念が十分に表現せられたことを感謝し、朕は人民が亦朕を援助し、且つ朕を父皇の様に見るであろうと信じていると宣明された。

土耳其の抗議 23日上海経由ロイター社発

トルコ政府は、新たに列強に同文の通牒を送り、520日所報のクリイト議会に於いて、イスラム教議員の追放、その他クリイト政府の不当な行動に対し注意を促した。

解説:トルコとギリシャがクレタ島を巡って争いとなっている。1913年オスマン帝国が領有権を放棄した。

 

525

獨帝出発 24日上海経由ロイター社発

獨帝は、昨日午後ロンドンを御出発された。その際多数の群衆が集まり、通路には警官が配置された。なお英帝は情温かにご決別された。

海軍拡張論勝利 24日サンフランシスコ特派員発

米国上院には、海軍縮小論者と拡張派との間に激論が行われたが、24日遂に拡張派の勝利に帰し、1億3千万ドルの海軍予算案が通過した。この内には1隻千百万ドルのドレッドノート型戦艦2隻の建艦費が含まれている。23日下院に於いてこの議案が通過した時は戦艦3隻であったが、上院に於いてドレッドノート型2隻に修正された次第である。

5月26日

川漢鉄道借款協約 25日タイムス社発

パリー来電―川漢鉄道の借款分配問題は、様々な意見があり、久しく解決しなかったが、今回漸く英沸獨米の4カ国資本家団間に於いて妥協が成立した。その代表者は、協約に調印した。同協約は、英米獨仏の4カ国が皆均等の割合を以て引き受けることを定めてる。

巴里無線電信 同上

パリーのエッフェル塔より無線電信を以て、陸上の各局もしくは海上の船舶にパリ―の時刻を報じる新事業が開始された。これは4千km乃至5千km四方の範囲に於いて成功するだろうと信じられている。

近東問題紛糾 24日ベルリン特約通信社発

ギリシャ内閣会議は、難しい情勢となった為、ギリシャ皇帝に対し一日も早く帰国するよう要求した。又トルコ政府は、クリイト保護の任にある英露佛西の4カ国に通牒を発し、クリイト島議会がギリシャ皇帝に臣従する宣誓を行ったのは無効であると説き、この許容しがたい状態につき、解決を謀るよう求めた。

 

5月27日

新西蘭防備と吉元帥 26日タイムス社発

キッチナー元帥は、以前ニュージーランドを訪問し、豪州とニュージーランドと共通の陸軍組織を採る事、その他国防計画につき協議を行ったが、今回同州の防備を総攬する高級陸軍将校を選定すると言われている。

記事:キッチナー元帥は、ボーア戦争に勝利を収め、英印軍の司令官、エジプト総督となり、第1次世界大戦では陸軍大臣となったが1916年ロシアに向かう巡洋艦が撃沈され、戦死した。

日本関税攻撃 同上

支那協会幹事はタイムスに寄稿し、激烈に日本の新関税を攻撃し、その増加した税率とその結果とは、主に英国製品に影響する。従って日本で商業に従事している多数の商会は業務を放棄せざるを得なくなるであろうと公言した。

タイムスも社説を掲げ、今回与えられた数字を検討すると、これは英国の貿易が関税率変更の為に大損害を受けるであろう事を確証するものである。その最も高くなった二三の税率は、明らかに他国よりも英国より多く輸入される貨物に影響すると言明した。(一部抜粋)

 

5月28日

欧州の平和 27日上海経由ロイター社発

獨帝はベルリンに御帰着された。これをとして獨逸の諸新聞が国際的平和について、論評したのは大いに注目を惹いた。尤も獨帝がロンドンに於いて、佛国外務卿ビション氏と会談した際、欧州の連盟を鼓吹したとの評判は正式に否認されたが、獨帝の今回の英国訪問は良好な感情を与え、英国諸新聞も善意の論評を下し始めた。

解説:獨逸皇帝ウエルヘルム2世の母は、英国王室の出身で、英国皇帝とは従妹同士である。しかしウエルヘルム2世は野心家で、4年後に第1次世界大戦を開始した。

米国の巨砲採用 内国電報(27日朝)

米国海軍省が本年度に於いて建造する戦艦2隻は、何れも2万7千トンであり、英国の既成戦艦より優れているのみならず、更に14インチ砲を採用している。

米国は、従来、英国と同じく12インチ砲を採用して来たが、昨秋から14インチ砲の試験を行い始めており、今回採用する事に決めたものと思われる。今英国が12インチ半砲を試験中であるのに対し、早くも14インチ砲を採用するに至ったのは、米国の戦艦は、巨艦巨砲で、共に世界の冠たるものと言う事ができる。

 

5月29日

蘇士運河盛況 28日上海経由ロイター社発

1909-10年度のスエズ運河会社報告によれば、同年度は、会社の歴史に於いて、最も利益が多い年であった。通行料収入は、約5百万ポンド増加し、これはインド貿易が再び活発となり、且つ満州の豆類の輸出が発達した為と言われている。

解説:スエズ運河は英国が支配している。

新造艦製図中 27日ニューヨーク特派員発

米国が今回新造する戦艦は、2隻共2万7千トンであり、14インチ砲を10門搭載する事になっており、現在海軍兵学校委員の手によって製図中であるので、出来次第入札が行なわれるであろう。

解説:製図が海軍兵学校で行われているとの報道であるが、日本の海軍兵学校にはこの機能はなかった。翻訳の誤りの可能性もある。

列国の要求 27日ベルリン特約通信社発

クリイト保護の任にある英仏露伊の4カ国はクリイト議会が、40日間にイスラム教徒議員の復帰を許さなければならないと要求した、これら議員は、ギリシャ皇帝に臣従する宣誓を行わなかった為に放逐されたものと言われている。列国はこの要求が容れられない場合には、再び同島を占領するであろう。

解説:5月26日「近東問題紛糾」記事のトルコ通牒に対する列国の処置である。

 

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獨逸宰相辞職勧告 29日上海経由ロイター社発

獨逸の急進党及び社会党は、選挙法改正案が否決されたのを喜び、首相ベエトマンホルウエツヒ氏の辞職を要求した。

 

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土耳其の決心 30日タイムス社発

コンスタンティノープル来電―トルコは、クリイト島議会がギリシャ皇帝に対し臣従の宣誓を行い、又この宣誓を拒否したイスラム教徒議員を放逐した件につき、強硬に抗議中である。トルコ宰相ハツキ、ベイは、代議院に於いて、政府は飽く迄クリイトの外国併合を防止する決心である。若しギリシャが干渉を敢えてするならば、トルコは止むを得ず開戦することになるであろうと言明した。

尼国官軍死傷 30日上海経由ロイター社発

ニカラグア政府の軍隊は、ブリユツイドに於いて、反乱軍の陣地を攻撃したが、成功せず、死傷250名を出した。