期日 |
日本関係 |
期日 |
露清関係 |
期日 |
英米関連 |
期日 |
独仏その他関連 |
6月2日 |
練習艦隊シャトル着 |
6月4日 |
法庫門鉄道論評 |
6月10日 |
豪州戦艦寄付 |
6月2日 |
獨逸海軍拡張形勢 |
6月3日 |
沖縄の秀才 |
6月5日 |
清国政府醒覚 |
6月12日 |
米国の清国鉄道熱 |
6月9日 |
仏国海軍拡張案 |
6月5日 |
ニューヨークの瓜生中将歓迎 |
6月8日 |
露国戦艦新造 |
6月13日 |
英暹条約発表 |
6月10日 |
獨逸海軍新計画 |
6月5日 |
布哇罷業失敗 |
6月23日 |
露兵の波斯撤兵 |
6月16日 |
米国政府の決心 |
6月12日 |
波斯の排露運動 |
6月9日 |
布哇罷業終了 |
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6月18日 |
米国の川漢借款談判 |
6月19日 |
波斯の新選挙法 |
6月10日 |
瓜生中将ヴツサル大学行 |
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6月20日 |
英国海相演説 |
6月20日 |
露獨両帝会見の結果 |
6月14日 |
練習艦隊帰途に上る |
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6月21日 |
川漢鉄道借款問題 |
6月21日 |
クリートと土耳其 |
6月16日 |
罷工派首領の罪名 |
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6月23日 |
川漢借款と米国 |
6月24日 |
土耳其の反乱 |
6月16日 |
米国学者の排日論 |
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6月25日 |
摩洛哥王苦境 |
6月17日 |
高平大使に打電 |
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6月25日 |
佛国海軍の醜態 |
6月18日 |
官憲圧制の反動 |
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6月29日 |
波斯形勢不穏 |
6月21日 |
耕主に対する宣言 |
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6月30日 |
希土関係又不穏 2 |
6月27日 |
布哇罷工形勢 |
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6月29日 |
高平大使帰国 |
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6月1日
阿富汗武器密輸入 31日タイムス社発
インドのシムラ通信員は、武器がマスカットを経てアフガニスタンに盛んに密輸入されている現状に注意を促した。過去2年間に辺境に届いた鉄砲は1万挺に達し、蛮賊及び無頼漢等は、益々勢力を高めている状況である。又国民兵駐屯地間を連絡する道路は、安全でないと明言した。
瓜生中将日米関係談 30日サンフランシスコ特派員発
瓜生中将は、昨日ワシントンに於いて、次の様に語った。若し戦争があるとすれば、
私は、他の列強に対し日英米三国が結束するであろうと信じて疑わず、三国の結束は、文明の進歩の為に非常に喜ばしい。日本に於ける文明の進歩は、米国に負っており、両国には親交関係があり、両国が戦争をする事は出来ない云々と 中将の言は日本政府の許可なくして語る事が出来ないと信じられる故、米国はこれに最も重きを措くであろう。
米西戦争紀念行列と我艦隊 同上
伊地知少将以下、士官候補生及び水兵は、米国太平洋艦隊司令官スペリー少将以下、米国水兵と共に、昨日タコマで開催された米西戦争紀念パレードに加わったが、市民は心からこれを喜んだ。
6月2日
獨逸海軍拡張形勢 1日上海経由ロイター社発
英国海軍政務官ラムバート氏は、ブショブスニムトンに於いて演説し、今や獨逸が1911年7月までに、ドレッドノート型戦艦17隻を完成させられなくなった事が確実となり、獨逸が既に注文したものは11隻のみと言明した。
練習艦隊シャトル着 31日サンフランシスコ特派員発
練習艦隊は、30日午後シャトルに到着した。日米両国人は雨を冒して歓迎し、艦隊は停泊中の米艦と礼砲を交換して投錨した。太平洋艦隊司令官スペリー少将、ヒュゼットサウンド鎮守府司令官ロツジヤース少将以下シャトル博覧会役員及び同市代表歓迎委員等が来訪した。この内ロジャース少将は、提督ペリーの孫であり、伊地知少将は、特にこの会見を喜んでいた。又明日午前は、我が艦隊から水兵150人を、米艦隊から同900人を出して、博覧会の開会式パレードを行う予定である。午後は日本人会主催の歓迎園遊会がある筈
英米協約説冷評 同上
サンフランシスコ・コール紙は、1日の社説に於いて、英米海軍協約説を論じ、これは英国が獨逸海軍の膨張に恐れを抱き、案出した一つの策略に過ぎない。米国は責任が重いが、自ら処理しなければならないと説き、クロニクル紙も又、妥協的説を冷評した後、英国は寧ろ米国と協力して各国の軍備の縮小に努力すべきと主張した。
6月3日
タイムスの日米同盟観 2日タイムス社発
タイムスの東京特派員が、日本の満州政策について、日本人は、英人の友愛が非常に価値あるものとし、一般に、日英同盟維持の必要な事を信じる点に就いて、十分な証拠を得たと論じた電報を送ってきた。これに対しタイムスの社説は、特派員の電報が法庫門鉄道に関して起こった日本の対清政策に就いての誤解を消滅させ、且つ日本の戦友であろうとするものを衷心から喜ばせるものであると説き、日英同盟は、清人側の分かり切った運動によって、真に影響を受けるものでないと言明した。
解説:法庫門鉄道は、満鉄と並行する鉄道で清国がその敷設権をアメリカに与えようとした事があった。
印度爆裂弾事件 2日上海経由ロイター社発
カルカッタ来電―昨年5月の爆裂弾事件に関連して、去る7日禁固の判決を受けたミドナブル土民3名は、高等控訴院に於いて、無罪の宣告を受けた。この宣告は大いに人心を動かせた。
布哇罷業失敗 1日サンフランシスコ特派員発
ハワイに於ける日本人労働者の同盟罷業は、その後罷業者等俸給増加の初志を翻して、多数は、従前通りの給料で業に復したとの説がある。労働者をお客とする日本人商人は、多大の打撃を受け、借財を残して逃げ出す者も続いている。なお先日同盟罷業に関して日本労働者間に闘争が起こり、1名の即死者あり、当局者は、これを以って罷業鎮圧手段として厳重な制裁を加えようとし、関係者を厳重に捜索中であり、既に20名の嫌疑者を出している。
沖縄の秀才(長崎) 内国電報
軍艦宗谷航海長漢那憲和(かんなけんわ)氏は、旧琉球藩主尚泰(しようたい)候の養子となり、家督相続の約束がある。同氏は秀才の誉れが高く、沖縄知事が抜擢して海軍兵学校に入学させた。
解説:漢那憲和は、海兵27期卒であり、大正時代に皇太子(昭和天皇)が欧州遊学に行かれた際、御召艦である香取艦長を務めた。恵龍之介氏の「昭和天皇の艦長 沖縄出身提督漢那憲和の生涯」に詳しい。阿川弘之が文芸春秋の巻頭随筆で昭和天皇がこの本を読まれたと書いていた。
6月4日
法庫門鉄道論評 3日上海経由ロイター社発
ロンドンタイムス東洋通信員は、日本が法庫門鉄道問題をヘーグ仲裁裁判所に付す事を拒絶した件に関して説明を受けた。この為仲裁に適当な時期が今将に到来したとの信念を持った。
タイムスは、社説に於いて同説明は種々の誤解を正すべく、日英同盟の友人が皆心から喜んでこれを読まなければならない。南満鉄道は、我が同盟国が長期の戦争に鮮血を流して得たものであり、彼等が他の競争の為に、その価値を損じたくないと思うのは、決して不自然な事ではいないと言明した。(一部抜粋)
ニューヨークの瓜生中将歓迎 2日ニューヨーク特派員発
瓜生中将及び夫人は、昨1日午後7時到着し、直ちにホテルアスダーで催されたニューヨーク日本協会の歓迎会に臨席した。同夜の来会者は、当市上流階級の3百名で、宴たけなわとなった頃、水野総領事の発声で大統領の万歳を唱え、次に日本協会会頭ラッセル氏の発声で我陛下の万歳を唱え、トムソン大佐は瓜生中将を紹介し、中将が演説をした。次にスペリー将軍外二三氏の演説が行われ、非常な盛会であった。中将は同夜11時、トムソン大佐と再びアナポリスに向かった。
6月5日
瓜生中将歓迎 4日タイムス社発
ニューヨーク来電―ワシントン・メトロポリタンクラブで催された瓜生中将の歓迎会に於いて、大統領タフト氏は、日本皇帝陛下及び国民に対する米国人の深い個人的友好を表明した。瓜生中将は、各地に於いて饗応を受け、至る所で日米両国の親交についての証明を得ている。なお前記歓迎会の席上に於いて、大統領は、その乾杯時に、心より日本皇帝の万歳を唱え、以て米国政府の態度を明らかにした。
清国政府醒覚 4日上海経由ロイター社発
本紙が入手した情報によれば、清国政府は、法庫門鉄道に関する紛争をハーグの仲裁裁判所に付すという提議を完全に撤回し、更に交渉の開始を切望する旨申し出たそうである。そして日本政府は、これに同意するであろうと信じられる理由がある。
布哇罷業失敗 3日サンフランシスコ特派員発
ハワイ耕地の日本人同盟罷工者は、増給の要求に対する耕主の決心の固さに失望し、その一部分は日本に帰ろうとし、他の一部は南米に移住する準備をおこなっている。又耕主は、従来日本人に払っていたよりも高い給料で、他の労働者を永久に使用する準備を行っている。
6月6日
米国小麦欠乏 5日タイムス社発
ニューヨーク来電―小麦は、続々西部に向け、同地人民の消費に充てる為に、送り戻され始めている。これは一般に小麦が欠乏した結果であるが、この様な現象は未曾有の事と言われている。
摩洛哥と英国 同上
フエツ来電―英国公使一行が6週間滞在した結果として、今や同国公使は、モロッコ王の個人的尊敬と全政府の友愛とを得る様になった。
佛国罷業者暴行 同上
パリー来電―電信電話線を切断する悪風が依然として永続し、少しも衰える気配が無い。又これらの犯罪者等は、自動車を使用している。
6月7日
自慢的歓迎 5日サンフランシスコ特派員発
瓜生中将に対する米国人の歓迎は尋常でなく、しかも自国の学校出身者として、自慢する様な歓迎である。
中将は、今日明日中にナイヤガラ瀑布の見物に赴き、その後当市に滞在し、各所の大会に臨む予定
日本海軍歓迎 5日サンフランシスコ特派員発
昨日のアラスカ、ユーコン太平洋博覧会には、多数の日本海軍下士官、兵が会場に行ったが、全ての米国人が非常に親切であり、無料で場内の催しものを見物させた。台湾喫茶店にて、午餐の饗応があり、午後は陸軍競技会に列席した。
日本人罷工失敗 同上
ハワイ日本人の同盟罷工は、完全な失敗に終わり、エーワ及びワイアルワ両耕地に於ける日本人労働者は、来る8日迄に就業するか、或いは立退くのかの何れかに決める事を迫られている。内山という同盟罷工煽動者は、耕主の手先となり盟罷工を妨害したハワイ新報に、開封のまま不穏な手紙を送ったとして、郵便条例違反に問われ捕縛された。ハワイの耕主は、日本人の紛争が多いのに困り、日本人に変えて1万人のポルトガル人を雇う様に計画中である。
6月8日
露国戦艦新造 7日タイムス社発
露都来電―露国は、英国技師監督の下に、6月17日ドレッドノート型戦艦4隻の建造に着手する予定
獨逸海軍協会総会 同上
ベルリン来電―キールで開催された獨逸海軍協会の本年度総会は、累進的海軍拡張の主唱で注目を惹いている。同協会幹事長ウエベル将軍は、現行海軍法は、解釈上伸縮自在であり、能く幾多の新インビンシブル型戦艦の建造をも含ませる事が出来るであろうと指摘した。
ロ卿の海軍拡張論 7日上海経由ロイター社発
英帝国新聞会議が開会し、ロオズベリー卿は、開会式祝宴の席上で演説し、帝国国防に言及した。昨今の欧州の情勢は、前途の凶兆を示し、未曾有の状況である。余は英国が諸外国の相応な連合に敵対する能力を有すると信じているが、余は、この様な諸国海軍の拡張に将来の結果を危惧している。我々は、1シリングであってもドレッドノート型戦艦の為に費やす事の出来るお金があり、又1名でもこれに乗せる事の出来る水兵がいる限り、同艦を建造する事ができ、又建造したいと欲すると言明した。
6月9日
仏国海軍拡張案 8日タイムス社発
パリー来電―佛国海軍委員会は、1等装甲巡洋艦の隻数を45とし、1919年に於いて諸艦の艦令20歳を超えない事とし、第一艦隊は、戦艦12隻、巡洋艦4隻で組織する建議を行う事に決定した。前記巡洋艦の建造費は、1億2千万ポンドであり、これを10年間に割り当て支出する計画である。
布哇罷業終了 7日桑港特派員発
ハワイのエワ、ワイアル及びカフタの3砂糖耕地に於ける日本人同盟罷工者は、今後罷業継続の可否について投票を行った結果、7日朝より従来と同じ給料で復帰する事に決定した。因みにエワ耕地では罷工継続を主張するもの1500名中90名のみであった。
ポ政府歓迎 同上
伊地知司令官、佐藤石井両艦長は、士官候補生9名を伴い、太平洋艦隊司令官セブレー少将と共に6日夜、ポートランドに到着した。日米両国人の歓待を受けており、9日夜は、同市長主催の晩餐会がある予定
6月10日
豪州戦艦寄付 9日上海経由ロイター社発
英国政府は、豪州政府のドレッドノート型戦艦1隻の寄付申込を受託した。
獨逸海軍新計画 同上
ベルリン来電―ターゲブラット新聞の報道に依れば、来年度の獨逸海軍予算は、予備艦隊の維持及び快速力の戦艦竣工時期を繰り上げ、1911年に竣工させる新計画書等の為に非常に増額となるであろうと言われている。
瓜生中将ヴツサル大学行 8日紐育特派員発
8日瓜生中将夫妻は、水野総領事夫妻と共に、中将夫人の母校ヴツサル女子大学校に赴いた。10日ニューヨークに帰り、11日日本クラブの歓迎会に臨む予定
解説:瓜生中将夫人(旧姓永井繁子)は、津田梅子(津田塾の創設者)、山川捨松(後大山巌元帥夫人)と共にアメリカに留学していた。
布哇罷業再燃説 8日桑港特派員発
ハワイのエワ耕地罷業者全員及びワイアルワ耕地罷業者の一部は、昨日から以前と同じ給料で復業したが、新たにカウツリ耕地の労働者が同盟罷工する気配がある。
瓜生中将歓迎 同上
アナポリス海軍兵学校の同窓会会長トムソン大佐は、昨夜瓜生中将及び英国海軍大佐ペリー氏をニューヨーク・シェリーに招き、晩餐会を開いた。
解説:瓜生中将は、アナポリス海軍兵学校を卒業している。
6月11日
露国借款調印拒否 10日タイムス社発
テヘラン来電―ベルシャ国諸大臣の多数は、議会の同意無くては憲法違反であるとの理由で、露国借款に関する文書に調印する事を拒絶した。
解説:ベルシャの北半分は露国の勢力下、南半分は英国の勢力下にある。現在内乱が発生している。
英国新造戦艦 10日上海経由ロイター社発
ポーツマス鎮守府所管となった第4ドレッドノート型戦艦スパープ号は、スピッドヘッド海峡に於いて、内国艦隊に加わる予定
練習艦隊消息 9日サンフランシスコ特派員発
伊地知少将以下練習艦隊将校、候補生は、昨日ポートランドのお祭に列席し、日米両国民の熱狂的な歓迎を受け、今朝シャトルに帰り、午後旗艦阿蘇に於いて居留日本人を饗応した。
米博と日本国旗 同上
シャトル博覧会場内の人力車展示場に、米国国旗の下に日本国旗を掲げてあり、艦隊日本人候補生が事務局に抗議を行った。事務局内では、種々の議論の末、遂に日本国旗を取り下げる事になった。練習艦隊乗組員の行動は、同地米人の感情を非常に害したと伝えられている。
6月12日
波斯の排露運動 11日タイムス社発
テヘラン来電―ペルシャのメシエツド市に於ける排露的示威運動は、遂に闘争を引き起こした。同市は現在無政府状態である。
解説:昨日の記事の続報であり、露国兵がペルシャに入っている。
米国の清国鉄道熱 11日上海経由ロイター社発
幾つかの大きな米国財政団体は、清国に投資する利益の可能性を調査する為に、代理人を極東に送り始めている。ワシントン来電によれば、米国シンジケートは、政府の賛同を得て、川漢鉄道の投資に加入しようとしている。但し政府は自ら実際上の協議に関係する事を避けている。
解説:川漢線(せんかんせん)は、最初成都から漢口まで計画されたが、最終的には成都から重慶間が開通した。
クリート問題 同上
トルコ政府は、クリートを保護する任にある列国に対して、7月に行うと定めた同時撤兵の件を再考する様要求した。
6月13日
米人対清投資運動 12日上海経由ロイター社発
ロンドンタイムスのワシントン通信によれば、昨日の報道のとおり米国資本家達が清国に投資を計画しているが、奉天米国総領事ストレイト氏は、その代表者となる為に退職するであろうと信じられている。
解説:昨日の記事「米国の清国鉄道熱」の続報
英暹条約発表 同上
英暹条約は、英国公使及びタイ国外務大臣間の往復文書と共に発表された。タイ国外務大臣は、英国に対し、タイ国はマレー半島内タイ国領土の何れの部分も、外国陸海軍の目的に使用させる事により英国の利権を危うくさせる事を許さず、又南の方境界線に至るまでは、付近の島嶼を含む全て何れの土地をも、直接若しくは間接に外国に租借させる事なく、又石炭貯蔵地を租借し、造船或いは修繕用ドックを建造、或いは所有することを許さず、更に軍略上英国の利益を損じるであろう場合には、何れの港も外国に占有させない事を約した。
布哇罷業派捕縛 12日桑港特派員発
日本人同盟罷工領袖「日布時事」記者相賀保太郎氏外2名は、最近の紛争に関し、取り調べの必要があるとして、逮捕状なしに拘引された。罷工の再燃を防ごうとして、司法權を乱用したものと思われる。相賀氏等は、連邦裁判所に人身保護法により訴訟を起こした。
6月14日
練習艦隊帰途に上る 12日シャトル特派員発
練習艦隊は、午前8時出港した。石炭積み込みの為にハワイに寄港する予定である。汽船2隻が港外まで見送った。
日本人罷工情勢 12日桑港特派員発
現在ハワイに於いて罷工中の労働者は、五六千人であり、なかなか屈服せず、かえって広がろうとする情勢である。耕主等は、司法權、行政權を利用して、飽く迄も屈服させようとし、容易ならざる状態である。警吏はホノルルにある増給期成同盟会及び日布時事社の家宅捜索を行ったが、日本人が多数の勢力を頼んで、全てハワイを支配しよとする計画の文書を発見したとする仰々しい電報を当地の諸新聞に打電して、大いに人心を動かした。この報道は新聞を利用して日本人に対する悪感を高めようとする魂胆に外ならないと思われる。
布哇移民調査 同上
ワシントン来電―移民調査委員会は、集会を開いて、上院議員デリガム及び前商務次官ホイラー両氏を、来る9月ハワイに派遣する事に決定した。これは日本人とハワイの関係を研究するに止まらず、一般ハワイ移民問題を調査させる為であり、適当な欧州移民を輸入しようとする耕主の希望に依ると言われている。
6月15日
布哇罷工騒動 14日タイムス社発
ニューヨーク来電―国務省は、ハワイ在住の日本人が同地の砂糖業を支配しようとする運動を起こしたとの説については否定した様である。
現在罷業中の砂糖園日本人労働者5千人の首領17名は、秩序擾乱の密謀を行った疑いで告発された。
伊地知少将謝辞 13日桑港特派員発
伊地知少将は、12日シャトル出発に臨んで、国務卿に打電して、太平洋沿岸に於ける練習艦隊歓待の行為を感謝し、帰国の上は、これを陛下に奏し、国民に告げるであろうと述べた。
6月16日
米国政府の決心 15日上海経由ロイター社発
ワシントンにて発表された公の通信によれば、米国政府は、米人の川漢鉄道借款加入要求を強硬に補助する意思がある事を示した。
解説:6月12日「米国の清国鉄道熱」の続報
布哇罷工騒動 14日桑港特派員発
罷工派首領の罪名 一昨日ホノルルで逮捕された日本人の内12名は暴徒煽動の疑いで、3名は謀殺未遂罪で共に公判に付される。
戒厳令は布かず ハワイは一時軍隊の干渉を見るのではと予期されたが、同政庁の臨機の処置により戒厳令施行にはならなかったと言われている。
裁判傍聴禁止 昨日裁判中は、日本人の傍聴を禁じ、且つ何れの所に於いても徒党集合する事を禁止する旨布告した。
罷業と総領事 ハワイ総領事は、最初より同盟罷工に不賛成で、煽動者の捕縛を是認していると言われている。
米国学者の排日論 同上
アメリア大学(?)総長ベントン氏は、同校卒業式に於いて、宗教上の理由より日本人が不道徳である事を論じ、西部諸州に日本人排斥が行はれるのは当然であると述べた。
6月17日
布哇罷工後報 15日桑港特派員発
日本人の激昂 ホノルルに於いて、罷工煽動者を不法監禁し、令状なくして家宅捜索を行った事実は、益々日本人を激昂させている状況である。
高平大使に打電 拘引された根来等は、上野総領事が同盟罷工に賛成しない為に、無法拘禁、家宅捜索をも是認したとして、電報で高平大使に救助を要請した。そして日布時事記者、増給期成会役員が令状なくして逮捕され、帳簿書類を没収され、警吏は、商店を破壊し、金庫を破り、生命財産は危険であり、至急の調査を望む旨申請した。
6月18日
米国の川漢借款談判 17日上海経由ロイター社発
駐英米国大使は、川漢鉄道借款加入の件に就いて、公式の交渉を開始した。但しロンドンにては、1905年借款協議の際、米国がこれに加入したいとの希望を少しも示さなかった事実に鑑み、将来は米国資本の加入を歓迎するが、現在同国が激しくその要求を主張しない事を希望している。
解説:関連記事が6月12日、13日、16日にある。
同盟罷工形勢 16日桑港特派員発
官憲圧制の反動 同盟罷工領袖に対し、乱暴狼藉を極めたハワイ官憲の措置は、確かに藪蛇の姿となった。日本人をますます激昂させ、今日までに復業の勧告をしていた日本人小売人組合でさえも、断然罷工継続の勧告決議を行った。
罷工者の態度 罷工者の態度は、静粛であり、罷工にありがちな乱暴が無い事は、米人といえども賞賛している。
上野総領事の態度 上野総領事は、罷工領袖を毛嫌いする為、無法の拘禁と家宅捜索をも是認し、且つその厳罰にされる事を望んでいたと同胞は非常に憤慨している。
調査請願と高平大使
不法監禁及び家宅捜索に関する在留同胞の調査請願に対しては、高平大使は何等返答をしていないそうである。
罷工区域拡大せん
ホノルルに集合した罷工者は3千人に及び、全ての耕地が罷工に応じる情勢であると言われている。耕主に使われる官憲の圧迫は、実際非常に激しいものであった様である。
6月19日
波斯の新選挙法 18日タイムス社発
テヘラン来電―ペルシャ皇帝は、従来選挙人の資格から財産上の制限を撤去し、又階級を基準とせず人口を基準とする等種々の改正を加えた新選挙法に対し反対してきたが、今回まったくその主張を放棄した。そして各州がいよいよ同法の規定に賛同する場合には、これに調印する決心であると言われている。
摩洛哥の内乱 同上
フエツ来電―3月及び4月中、猖嗽を極め、しばしば官兵を敗走させたモロッコ僭王の軍隊は、再び活動を始め、且つ多大な援兵がこれに加わって、官軍味方の土民を略奪し始めている。モロッコ王ムライ、ハブイッドの兄弟も新たに叛旗を掲げた。
解説:モロッコ王ムライ、ハブイッドは、明治41年9月14日「摩洛哥王即位」の記事にある様に、僭王として反乱を起こし王位を奪っている。
6月20日
露獨両帝会見の結果 19日タイムス社発
露都来電―17日ブヨルカ島付近の露獨両帝の会見には、露国首相、外相、独逸外相も随行し長時間の協議を行った。獨逸側では、自国がオーストリアのボスニア、ヘルチェゴビナ両州の併合に際し、露国の利益を謀った事を極力説明しようと努め、しかもこの運動の顕著なるは、その露国との間に「仲直り」以上の何物かを得ようとする希望がある事を示したが、これらは見事に失敗したと伝えている。
解説:露土戦争により、オスマン帝国が敗れてボスニア、ヘルチエゴビナは露国のものとなろうとした。しかし露国の南下政策に反対する列強により開かれた1878年のベルリン会議により、ボスニア、ヘルチェゴビナはオスマン帝国の主権下で、オーストリアが施政權を持つ事になった。その後オーストリアは、獨逸の支援を受け1908年ボスニア、ヘルチェゴビナを併合している。
英国海相演説 19日上海経由ロイター社発
英国海軍卿マクケナ氏は、ランカッシャ、ミドルトン市に於いて演説し、外国の侵略を防ぐ為には、優勢な海軍を必要とする。政府が軍備縮小を始めようと企てた結果は却って外国の軍備拡張を来し、我がドレッドノート型8隻を起工するのみであるのに、一外国は既に10隻を起工したと言明した。
解説:一外国とは獨逸を指す。
6月21日
布哇罷工現状 19日桑港特派員発
耕主に対する宣言 ハワイ4個耕地の労働者は、耕主がその要求に応じない時は、同盟罷工する由を宣言した。なお代表者をホノルルに送り要求する筈であるが耕主は拒絶する決心である。
労働者は静謐 であり、暴行は全く無く、ただ妥協によって解決することを望んでいる。
官憲は強盗 同盟罷工者は、先に官憲が無法に家宅に侵入し、金庫を破損し書類を強奪した為に、これを強盗罪として告訴した。
6月22日
クリートと土耳其 21日タイムス社発
コンスタンチノープル来電―クリート島問題は、徐々に紛糾し始めた。島民は武器を購入しており、又佛国は列強の意向が一致しない場合には軍隊撤退を断行する旨言明した。しかしトルコは非常に強硬な態度を取っており、外務大臣が代議士達に、政府、議会、軍隊とも全てクリート島に於けるトルコの主権を寸毫でも減損する計画に極力反対する旨決心している事を明示したと言明した。(一部抜粋)
解説:クリート島(クレタ島)は、ギリシャの南方にあり、大部分の住民はギリシャ正教徒であり、一部イスラム教徒がいた。当時列強の圧力で、トルコの宗主権の下で自治権を持ったクレタ州であった。しかしイスラム教徒とギリシャ正教徒との間で紛争が絶えす、列強の軍隊が駐留し、治安の維持に努めていた。
川漢鉄道借款問題 21日上海経由ロイター社発
ワシントン来電―米国の川漢鉄道借款加入申し込みに対する獨逸の回答は極めて友好的になると思われる。但し英仏が同借款に対し米国に干渉している事に抗議するであろうと信じられている。
解説:6月18日「米国の川漢借款談判」の続報
6月23日
露兵の波斯撤兵 22日タイムス社発
テヘラン来電―ペルシャ政府及び国民党を不安にさせたペルシャ駐屯露兵は撤退する様である。今回タブリッツ駐屯露兵3百名は、同市を出発し、コーカサスに向かった。
川漢借款と米国 21日上海経由ロイター社発
ポストワシントン通信によれば、英国は川漢鉄道借款に関して米国に対し、米国シンジケートが清国政府と協議を行う事により借款を遅延させるよりも、英国その他外国銀行と事件を協議する事を提議した。しかるに米国国務卿ノックス氏は、これに対して友愛的な回答ではあるが、清国と直接に協議する事を欲する旨言明したと信じられる。
解説:6月18日「米国の川漢借款談判」 によれば、英国は、将来は米国資本の加入を歓迎するが、現在米国が激しくその要求を主張しない事を希望している。しかし獨逸は昨日の報道のとおり、米国を支持している。
6月24日
土耳其の反乱 23日タイムス社発社
ウイーン来電―アルバニア人征伐の命令を受けたトルコ軍隊が険阻な山岳地帯に拠る賊軍を撃退しようとして敗れ、将校14名、兵士350名の死傷者を出した。
アルバニアの叛徒は、その数1万4千に上り、トルコ政府に対し、アルバニア人に完全な自治を許す様に求め始めている。但しトルコ政府は、漸次アルバニア人の武装を解除しようと企てている。
解説:アルバニアは1912年トルコから独立した。
川漢鉄道借款 23日上海経由ロイター社発
本社の入手した情報によれば、米国は若し自国の利益が保護される場合には、北京政府に対する川漢鉄道借款抗議を撤回する旨通知したそうである。なお米国は英国資本家団だけは、別に米人の同借款加入に反対の意見を有しないとの通知を受けたと信じられている。
6月25日
摩洛哥王苦境 24日タイムス社発
フエツ来電―モロッコ国王ムライハフイツは、欧州人に対する各種権利の譲許(じょうきょ)が遅延する件について、これまで外国公使団と衝突をしてきたが、今回これら緒公使との和睦を成立させた。又同王は、現在ベルベル蛮族を引率し、盛んに活動している僭王を征伐する為、陸軍司令官に対して、服務できる兵士全部を引率し、進軍する事を命じ、軍隊は直ちに宮廷から退出し、出発準備として睡眠した。
解説:譲許とは、輸入製品の関税率に見られる様に、お互いに譲歩し、許可しあう事
佛国海軍の醜態 24日上海経由ロイター社発
佛国議会の海軍調査報告は、驚くべき冗費、怠慢、紛乱の状を暴露し、佛国は過去10年間に1億2千万ポンドを海軍に支出したが、却ってこれより少額を支出した獨逸に劣り、新戦艦用の大砲装置は、戦艦竣工後数年を経た後、なお準備が成らず、現在の大砲は不完全であり、射撃練習を中止した事もある。且つ地中海に於いては、多数の用に堪えない砲弾を貯蔵し、今尚製造中である。
6月26日
波斯選挙法 25日タイムス社発
テヘラン来電―ペルシャ国王は、従来の様な階級制度に根底を置かず、なるべく人口に根底を置いた、又種々の制限をも撤去した新選挙法に調印した。そして同法は来る金曜日に発布される予定である。
土将の警告 25日上海経由ロイター社発
コンスタンチノープル来電―トルコ陸軍司令官は、ロイター通信員と会見し、トルコ在住ギリシャ人等が現在計画中のものは、全て危害を自身に及ぼすに過ぎないと警告し、且つトルコ政府はギリシャ人等が反乱の意志を持って、多量の武器を輸入中である事を知っていると言明した。
6月27日
瓜生中将 25日紐育特派員発
瓜生中将夫妻は、現在田舎を訪れ、旧友を訪問中であるが、来月17日欧州に向かう予定である。
布哇罷工形勢 25日ホノルル特派員発
同盟罷工の情勢に変化はなく、罷工総数4千人中3千人は市内に居る。労働者の決心は案外堅く、全島に渉り良く結束しているが、全て一斉に罷工しなかったのは、維持困難なためである。これは、耕主の付け目であり、現在でも耕主は大分困っている。外面は強硬な態度を装い、復業しないならば増給しない様子であるが、しかし復業すれば増給の相談に応じる意向の様である。
練習艦隊布哇着 同上
練習艦隊宗谷は、24日朝ホノルルに入港した。同夜ハワイ知事の伊地知少将招待晩餐会があり、25日朝は兵営に案内した。
6月28日
英国国防状態評論 27日上海経由ロイター社発
英国新聞記者会議の最終日に於いて、前海峡艦隊司令官ぺレスフォード卿は、朝野の政治家が本会に於いて、英国国防上の情勢が危急である旨を演説したのは、国防に関する国民の知識が十分でない結果であり、又各植民地がドレッドノート型戦艦の寄付を申し出たが、これは、国家万一の場合に対する帝国政府の戦備が不十分である事を最も手厳しく非難するに等しいと演説した。
布哇罷工後報 26日筆者(特派員でない)特に同盟罷工を圧迫する為に行った逮捕、投獄は道理に反し、残忍を極め、これが罷工者の決心を固くし、全島を通じ援助するに至った様である。彼等は如何なる事があろうとも断じて無条件で以前の耕地に復業せず、場合に依っては、他の耕地に入り込むであろうとまで言っている。
6月29日
高平大使帰国(日米条約第2条但書と米国) 28日タイムス社発
ニューヨーク来電―駐米日本大使高平子五郎男爵は、1894年に締結された日米通商航海条約の改正に関し、近日帰朝の途に上る予定である。なお日本が労働者の米国移住を禁止する事を約束した所謂「紳士の協約」は、極めて忠実に実行された為に、日本が現在要求中の同条約中、労働者移住に付いて規定する権限を米国官憲に付与する項目の削除に、米国も反対する事が出来ない程である。因みに1908年7月以降、米国に上陸した日本人数は唯の2650名であり、内1名の労働者も居ない。帰国者数はこれに反して6千名の多数に上っている。
波斯形勢不穏 同上
テヘラン来電―ペルシャの民心は、ペルシャ銀行設立、その他諸問題に対する露国の干渉を憤り、廃露運動が盛んになろうとしている。又内政に対し不満の念を抱いている各地の国民及びその味方が、5月中カスピン(テヘラン西北約70マイル)カシャン(テヘラン南方百余マイル)等に集まり、テヘランに進撃しようと脅迫し始めているが、最近になって危機がいよいよ迫っている情勢である。
6月30日
希土関係又不穏 29日上海経由ロイター社発
サロニカよりの電報によれば、トルコは、クリート島に於ける事変の再発を気遣い、頻りに軍事的準備を整え中であると言われている。又ギリシャに於いても予備兵の召集中であり、ギリシャとトルコ国境方面の軍隊に対し、ギリシャ政府は努めてトルコ兵に接近しない様訓令した。トルコ首相は、コンスタンチノープルに於いて、新聞記者に対し、如何に巨額の代償を得ても、トルコはクリート島の売却に同意しないと言明した。
解説:6月22日「クリートと土耳其」の続報である。
妥協望みなし 上野総領事に対する非難 28日ホノルル特派員発
予(特派員)は、耕主組合代表者と会見したが、耕主の決心は非常に堅く、一旦復業しないならば、如何なる事があっても一切増給の要求に応じないと言っている。一方労働者の態度もまた以前と同じであり、今の所先ず妥協が成立する望もはない。
労働者は上野総領事の処置に就いて非常に憤慨している。その理由は、第一に、領事は最初増給の要求を是認しながら、耕主の意気込みが荒いのを見て、これを圧迫しようとした。第二に開始後に一度も実地調査をしなかった。(第三から第五は略)