期日 |
日本関係 |
期日 |
露清関係 |
期日 |
英米関連 |
期日 |
独仏その他関連 |
3月1日 |
国務卿親日演説 |
3月2日 |
巴爾幹時局 |
3月2日 |
英国海軍計画 |
3月1日 |
巴爾幹時局 |
3月4日 |
恐日病 |
3月3日 |
露土戦争賠償金 |
3月3日 |
米国移民法不備 |
3月2日 |
塞爾比人憤怒 |
3月5日 |
モンタナ排日案否決 |
3月9日 |
英露の対波斯干渉 |
3月5日 |
タフト氏就任演説 |
3月7日 |
塞爾比戦意なし |
3月5日 |
又々学童問題議事 |
3月14日 |
露紙の墺地利攻撃 |
3月6日 |
大統領就任式 |
3月10日 |
塞爾比と墺国要求 |
3月6日 |
亜細亜人排斥請願 |
3月15日 |
露兵波斯に入らん |
3月13日 |
暹羅法権回復 |
3月12日 |
塞爾比の通牒 |
3月10日 |
排斥決議案成行 |
3月29日 |
露国新聞の憤慨 |
3月14日 |
英国海軍予算決定 |
3月17日 |
塞爾比回答曖昧 |
3月11日 |
日本人調査 |
3月29日 |
満州懸案と清国 |
3月19日 |
英国海軍熱別報 |
3月25日 |
塞爾比愈譲歩 |
3月21日 |
ネ州排日決議案否決 |
3月30日 |
露国政府屈服 |
3月23日 |
英国海軍拡張論 |
3月25日 |
英独海軍競争 |
3月22日 |
日本人漁業禁止 |
3月31日 |
露獨外交関係 |
3月25日 |
植民地軍艦寄付 |
3月26日 |
墺塞関係険悪 |
3月26日 |
加州州会閉会 |
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3月28日 |
タイムスの独逸攻撃 |
3月30日 |
巴爾幹問題落着 |
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3月31日 |
英獨製艦問題 |
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3月1日
巴爾幹時局 28日上海経由ロイター社発
セルビアは、佛、伊、露三国に対し、各種の手段を執って平和を維持する決心が強固であると告げ、且つオーストリアの戦備に対応しセルビアも当然戦備を整えるが、その場合でも軍事的手段を執るつもりは無いと通知した。
国務卿親日演説 27日紐育特派員発
26日夜ホテルアツターに於いてニューヨーク平和協会の晩餐会が開かれ、主要な出席者は、国務卿ルート氏、新大統領タフト氏ニューヨーク州知事ヒュース氏、高平大使夫妻等であった。ルート氏は日米関係に論及し米国人の中で今尚日米戦争談をする者がいるが、これは実に愚の骨頂である。日本は、実に立派な歴史を有し、思慮もあり、知識もある人物が多く、今日既に最良の文明国と言う事ができる。然るに米国西部諸州に於いて日本人排斥の法案を制定しようとする様な事があるが、これは、日本の国情をまったく知らないと言えると述べた。
3月2日
巴爾幹時局 1日タイムス社発
露都来電―セルビア政府は、オーストリアとの交渉問題については、欧州諸国の裁断に従うであろうと言明した。そして露国は土地についての賠償要求を放棄する事をセルビアに忠告したが、露国としては、これは平和の為にスラブ民族の利益を第二に置いたものである。
ベルグラード来電―諸新聞は、セルビアを売ったと猛烈に露国を攻撃中である。
英国海軍計画 同上
英国政府は、海軍大臣の意見を容れて、速やかにドレッドノート型戦艦4隻の建造に着手したと信じる事のできる理由がある。これについて海軍省は、将来なお2隻若しくは2隻以上の同型艦の建造費を要求し得る妥協が明らかに成立した様である。
解説:英国は、海上に於ける覇権を維持する為に、独逸と建艦競争をしている。
米国艦隊両分案否決 1日上海経由ロイター社発
ワシントン来電―米国上下両院の委員会は、2月17日付報道の「大統領は、できるだけ戦闘艦隊の一半を太平洋岸に置く事が出来る」との海軍修正案を廃棄した。大統領ル氏は、戦闘艦隊を2分する事に依り戦闘力を弱くするものであるとし、日露戦争における露国の経験を引用してこれを説明した。
塞爾比人憤怒 同上
ベルグラード来電―昨日露国が列国のセルビア干渉に加わるであろうとの報道があった為に、人心は非常に激昂し、各新聞及び政党党首等は、露国を攻撃し、深大な怨恨を示し始めている。
解説:この怨恨が5年後のセルビア系ボスニア人によるオーストリア皇太子暗殺に結びつき、ロシアの動員とそれに反応したドイツの動員があり、第一次世界大戦が始まった。
3月3日
米国移民法不備 2日タイムス社発
ワシントン来電―連合移民委員会の仮報告の示す所に依れば、現行移民法は、完全に成功したと言う事は出来ない。同法には願わしくない移民をことごとく排斥する旨規定しているにも拘わらず、毎年支那人、罪人、伝染的悪質患者等数千名が入国しているとの事である。
露土戦争賠償金 同上
コンスタンチノープル来電―枢要な地位にある
トルコ官吏の語るところに依れば、露国は露土戦争賠償金の支払いに関するトルコの提議に同意すると思われる。
解説:露土戦争とは1877年から1887年の間行われ、ロシアの勝利に終わり、オスマン帝国の支配下にあったバルカン諸国が独立している。
塞爾比政府の警告 同上
ベルグラード来電―セルビア政府は、オーストリア貨物の排斥運動を鎮圧する事を警官に命じ、且つ不穏な風説を流布するものは、誰彼の容赦なく厳罰に処する旨を民衆に警告した。
米国外交方針協議 1日桑港特派員発
大統領ル氏は、1日タフト氏と長時間の打合せをしたが、特にその話題は外交問題であると言われている。信じるべき筋の情報に依れば、タフト氏は、一般外交政策、特に極東問題に関してはル氏の政策を継承すると思われる。ル氏は、東洋問題に甚大な注意を払い、日本との関係を改善するよう準備中であったが、これはまた後任者であるタフト氏に依って実行されるであろう。特にタフト氏は、日清韓三国の政治家と深く交際があり、東洋問題には一家言を有している。
3月4日
墺地利の傲慢 3日上海経由ロイター社発
オーストリアは、非公式であるがセルビアに対して次の様な通知を送った。
セルビアは、オーストリアに対し公式にボスニア及びヘルチェゴビナの自治及び領土上の賠償等諸要求を全て放棄する事を宣言し、穏当な行動を執る事を約束し、そして経済的な譲歩をオーストリアに要求してはならない。
この通知は、やや必要が無いのに傲慢な態度を執る嫌いがあると認められ始めている。
恐日病 2日紐育特派員発
カルフォルニア州上院議員アントニー氏は、2日次の決議案を上院に提出した。
過去20年間、日本人が日本へ送金した額は4億円に達した。しかし日本人は自国品を用い、金貨は送ってしまうので、カルフォルニア州産業を危害に陥れている。その為に議長の指名する21名の調査委員を選び、適当な手段を講じなければならない。
3月5日
タフト氏就任演説 4日上海経由ロイター社発
米国政府は、一時外国に滞在する我が市民に対し、人種若しくは宗教上の理由で屈辱的禁止を蒙る事を防止する為、各種の手段を尽くさなければならない。又余は自尊自重する政府が互いに譲歩し、不必要な衝突をなくして、依然アジア人移民から起こると思われる弊害を最小にしていくよう誠意熱望する。同時に条約上米国に於いて適法な業務に従事する権利のある外国人に対し、人種的感情を激発させる事を各種の手段により防止し、若しくは処罰するつもりである。(一部抜粋)
モンタナ排日案否決 3日桑港特派員発
モンタナ州議会は、日本人を目的とする東洋人土地所有禁止案に付いて、3日激論の末22票対24票を以て否決した。
又々学童問題議事 同上
サツケツトと称する者が、カルフォルニア州議会下院に於いて提出した第二の日本児童公立学校入学排斥法案は、3日議題となり、単に日清人とせずアジア児童とすべしとの修正説を否決した。
3月6日
塞爾比の回答 5日タイムス社発
ベルグラード来電―セルビア政府が露国に送った回答は、非常に巧妙を極めている。
同文書では、「若し列国が、ボスニア及びヘルチェゴビナ併合を、ただオーストラリアとトルコのみに関係すると思考するならば、これはオーストラリアとトルコ議定書の調印を以て終了すると言う事ができ、セルビアは何等の要求も提出できないであろう。しかし若しこれに反して、列国が、これは全欧州に関係がある国際的な問題であると思考するならば、セルビアも正当な裁断を要求し、列国会議の判決に従うのみである」と言明している。
大統領就任式 5日上海経由ロイター社発
タフト氏の大統領就任式がワシントンに於いて挙行された。当日風雪が烈しかった。
亜細亜人排斥請願 4日桑港特派員発
カルフォルニア州議会上院議員バルチット氏が提出した支那人排斥法を拡張して、全ての亜細亜人移民を排斥する法律の制定を国会に建議する議案が、4日上院議事に上り、7票対28票の大差で可決した。同案に対して議員サンフォード氏の日本人帰化反対意見も付加すべきと提議したが、この動議は11票対20票で否決された。
3月7日
大統領就任式(雪の為に電線皆切断) 4日ワシントン特派員発
降雪の為に電線がことごとく切断し、ワシントンから電報を打つ事が出来ず、各新聞記者は、非常に困った。
就任式は、かって無い程の規模で準備された。しかし昨夜来、風雪に変わった為に、市中は大混雑となったけれど、全ての式は無事に行われた。
塞爾比戦意なし 6日ペテルスブルグ特派員発
セルビアが露国の勧告を拒絶し、断然戦意を決したとの風雪が、23日來当地で行われ、戦々恐々であった。しかしこれは虚言であり、セルビアは、露国の勧告に従い、この際オーストラリアに対し、一切の要求を放棄し、列強の公明な決定を待つべく自重している。なおセルビアは、間もなくその意味の同文通知を列強に又も発送すると言われている。
列国のセルビア要求 5日ベルリン特約通信社発
列国は、セルビアがこの際、文書で全ての政治上及び領土に関する一切の請求権を放棄する旨の宣言を行う事を要求した。この宣言書は、これに対するオーストリアの反対宣言が提出され、又両国間に直接商議が開かれるに先立ち、オーストリア政府にこれを送付する予定である。
3月8日
経済界依然たり 6日紐育特派員発
一般米人は、タフト内閣が組織されるならば、必ず好景気に戻るであろうと予期していた。しかし就任式当日の如きは、株式その他に何等の影響を及ぼさないばかりか、平日よりもむしろ不況である為、二三の者より頻りに煽りたて、変更をさせようとしたが何等の効果もなく、金融界、商業界共に失望の姿である。
エヴンス少将の視察 6日桑港特派員発
エヴンス海軍少将は、日米戦争は断じて起こる憂いはなく、日米は露国に備えなければならない。露国は、再戦準備に汲々としているのではと語った。
3月9日
墺国の対塞要求 8日タイムス社発
ベルグラード特電によれば、オーストリアが、セルビアは突然政策を一変し、オーストリアと友好関係を維持する旨を宣言するであろうと言明した件に対し、セルビア人等は、これは承諾し難く、脅迫同然であると認め、公衆は激昂し、諸新聞は盛んに内閣と王室を脅迫し始めている。
英露の対波斯干渉 8日上海経由ロイター社発
露国の半官報ノウオエ、ウレミヤは、ペルシャに於ける英露の干渉が避け難い事を説き、両国は、ペルシャ国王に対し、人民に十分に行政を監督させる手段を執る事を要求しなければならない。このが容勧告が受け入れられないならば、両国は荒療治をしなければならなくなるであろう。そして差し当たって臣民保護、公使館、領事館の護衛兵増加の手段を執るざるを得ないであろうと言明した。
3月10日
排斥決議案成行 8日桑港特派員発
先般、清人排斥法案を拡張し、アジア人全部に及ぼす事を米国議会に建議する決議案が、カルフォルニア州議会上院を通過した。議長はこれを下院に回付し、手元で握り潰そうとしたが、議長不在中、議員ジョンソン氏が同一決議案を提出して、連邦関係委員に付託した。然るに議長スタントン氏は、同委員会は排日議員が多数であるので、これを不利益となし、更にこれを同委員会より奪い、親日議員クード氏が委員長である議案調査委員会に付託した。その為多分握りつぶす事になるであろう。
布哇排日案通過 同上
日本人を目的とする外人漁業禁止法案が、ハワイ地方議会上院第一読会を通過した。
塞爾比と墺国要求 8日ベルリン特約通信社発
セルビア政府は、昨日報道されたオーストリアの通牒を歓迎し、内閣会議に於いて討議した上、回答すべき旨を約束した。外国諸新聞は、セルビアがオーストリアの要求を容れる様勧告した。
3月11日
巴爾幹問題と英国外相 10日上海経由ロイター社発
英国外相サー、グレーは、バルカン問題に関する質問に答えて、列国政府は同問題を友好的に開設しようと欲し、絶えず公信を交換中である。しかし交渉は思う様に運んでいない。
日本人調査 9日桑港特派員発
カルフォルニア知事ギレット氏は、先日州議会両院を通過した日本人調査案を批准した。直ちに調査に着手するものと思われる。
3月12日
塞爾比の通牒 11日タイムス社発
列国に送ったセルビアの通牒は、ウイーンに到着したが、欧米に於ける不安の念を一掃する効果があるであろう。セルビアは、同通牒に於いてオーストリアと親善な関係を維持したいとの希望を言明し、別にオーストリアに対し賠償要求を行う事無く、両州の併合に関する自己の主張を述べて、列国の裁断に任せた。
摩洛哥紛櫌 同上
フエツ来電―またまた国王と僭称する者がおり、その勢いが活発で、近隣の諸蕃賊を集合した。依ってモロッコ王は、取り急ぎ軍隊を派遣し始めた。
3月13日
墺地利の不満足 12日タイムス社発
ウイーン来電―オーストリア政府は、セルビアの通牒中に同国が果たして平和的政策を執る意志があるや否やについて何等の回答もない事を見抜き、通牒が完全に満足なものと思考しておらず、若しセルビアがこの点に回答しないならば、オーストリアは、無遠慮にセルビアの明確な宣言を要求せざるを得なくなるであろう。
暹羅法権回復 12日上海経由ロイター社発
英タイ両国は、今回新たに条約を締結し、タイは、英国の為にケランタン、トリガノ及びエダンス地方に対する主権を放棄する代わりに、英国は本条約の調印後に登記した、タイに於ける英国臣民に対する治外法権を漸次撤廃し、タイの法律に従う事に同意した。しかし英国人が被告である場合には、何れの裁判所であるかを問わず、欧州人の顧問を陪席させる予定である。
解説:ケランタンは、マレー半島の北東に位置し、現在マレーシア領であり、北部をタイと接している。
3月14日
英国海軍予算決定 13日タイムス社発
英国内閣は、長い討議や論争の後についに海軍予算について、閣員の妥協が成立した様である。そして本年度の予算総額は、前年度比の3,231万9,500ポンドに比して3,514万2,700ポンドに上り、軍艦建造計画は、ドレッドノート型戦艦4隻、保護巡洋艦6隻、駆逐艦20隻等であり、別に50万ポンドを潜航艇若干の建造費として支出した。
露紙の墺地利攻撃 13日上海経由ロイター社発
露国諸新聞は、皆異口同音にオーストリアが戦争を挑発しようと決心したと攻撃を始めた。
3月15日
露兵波斯に入らん 14日上海経由ロイター社発
ロンドンに達した報道によれば、露国は、テヘランにコーカサス兵を送り始めていると言われている。なおノウオエ、ウレーミヤ紙は、強力な一部隊を至急ペルシャに派遣する事を政府に勧告し、これは将に動乱の起ころうとするペルシャの首都を救済する唯一の方法である。そして同地に於ける少数の露国将校は、今や危機的な状況にあると警告した。
3月16日
土耳古の予算 15日タイムス社発
コンスタンチノープル来電―トルコ宰相は、予算案の準備が遅延した為に、代議院に対し、先ず2カ月分の支給を求めざるを得なくなった。代議院は、宰相が遅延的政略を執った事を激しく攻撃し、1カ月分だけを支給した。
中米戦争と米墨 15日上海経由ロイター社発
米国は、中央アメリカに於いてワシントン平和協約に反する戦争が引き続き行われている為、今回メキシコに対し、会議開催の希望を鮮明にし、メキシコも又平和維持の為には干渉を行うつもりであり、米国がもし何らかの行動に出る場合には、自国もこれと協力する事を辞せない旨を言明した。なお米国はメキシコの同意を得て軍艦を派遣しようとしている。
3月17日
塞爾比回答曖昧 16日タイムス社発
ウイーン来電―セルビアの回答は、ボスニア及びヘルチェゴビナに対する欲望を放棄する事を避け、今後の論議に対して門戸を閉鎖する事もなく、小国より来たものとしては、殆ど傲慢とも言える程利口な討論的名文であると認められる。オーストリア外務省は、この回答を以て不満足とし、首相は、多分最終談判書よりもやや穏和な抗弁書を送ると思われる。
摩洛哥官軍勝利 同上
フエツ来電―モロッコ王の軍隊は、土番を撃破した。戦死者及び捕虜が多く、数個の村落は破壊された。
3月18日
英国海軍熱昴進 17日上海経由ロイター社発
英国下院に於いて海軍予算討議の際、労働党派の議員ワード氏が政府の方針に賛成し、仮令如何なる口実を設けても、大陸の某国が英国に対し、攻撃的武力を無限に養成する事に対して、我々は盲目でいる事は出来ないと言明した事は、大いに世人の注意を惹起した。
巴爾幹時局 16日ベルリン特約通信社発
墺地利内閣会議 ウイーンに於いては、首相エーレンタル男爵を議長とする内閣会議が開かれ、セルビアに今一応、その最初の回答につき、再考する機会を与える事に決定した。若しセルビアの再度の回答が矢張り不満足な場合には、オーストリアは、セルビアの戦争準備について説明を要求するであろう。
3月19日
英国海軍熱別報 18日上海経由ロイター社発
英国海軍卿マクケンナ氏が、ドイツは既にドレッドノート型戦艦14隻を有し、更に3隻を準備中であり、又大砲等にも同一の進歩があると言明した。この件は、下院の海軍討議と相対して、英国に於いて到底誇大に報道しようとしても出来ない程の感動を惹起し、過激派の新聞も海軍拡張反対を中止した。海軍卿は、又下院に於いて英国は、相応なドレッドノート型戦艦等17隻を保有しているが、他は旧式であり準備不十分である旨言明した。
日独協約説 17日ニューヨーク特派員発
ヘラルド新聞のベルリン電報に依れば、日本はドイツと接近し、協約締結の運びになろうとする情勢がある。その理由は最近、ドイツと清国とは日に日に接近し始めている為に、日本は清国と親しむには、先ずドイツと親しむ事を得策とする為である。又その裏面には最近何となく日英同盟の力が薄らいだ事実がある。
3月20日
列国の対塞干渉 19日上海経由ロイター社発
本社ベルグラード通信員の関知する所によれば、列国代表者は、再び平和の為、セルビアに干渉し、若し戦争が起こるならばセルビアは、完全に孤立し、何れの方面からも援助を期待する事ができない事を了解させる努力をするであろう。
英独製艦競争 同上
英国下院に於いて、統一派は、本年度予算に計上されたドレッドノート型戦艦建造に条件を付ける事を主張し、海軍大臣マツケナ氏は、若しこの戦艦の建造を翌年に延期すれば、現在に於いてするよりも、3割の利益がある旨明言した。なお反対党党首バルフォア氏は、政府に対し明確な答弁を迫ったので、首相アスキス氏は、若しドイツが予定の計画より早く多くの戦艦を引き続き建造する場合には、英国も規定計画以外に別に、ドレッドノート型戦艦を建造するであろうと言明した。
3月21日
墺帝平和談反響 20日上海経由ロイター社発
オーストリア皇帝が、ハンガリーの代議員に対して、平和が維持される事を確信する旨明言した件は、ウイーンに於いて一層良好な感情を乗じさせた。
塞爾比内閣決議 同上
ベルグラード来電―国王主催の下に内閣会議を開き、若し英露佛三国が武装解除を要求し、同時にオーストリアから侵略を受ける事がないと保証されるならば直ちにこれを承認する旨を決定した。
ネ州排日決議案否決 19日桑港特派員発
ネブラフスカ州下院議会は、28票対50票の大差で、日本労働者の働き場所を白人労働者と区別するとの排日議案を無限に延期した。
3月22日
日本人漁業禁止 21日上海経由ロイター社発
ホノルル来電―日本人を目的として、ハワイ領海内に於ける外国人の漁業禁止を規定する法律が、ハワイの上院を通過した。
墺塞関係改善 同上
ベルグラードの本社通信員の報道によれば、オーストリアとセルビアとの関係は、最早戦争の起こる気遣いは無いと信じられる。
3月23日
墺塞紛議解決 22日タイムス社発
オーストリアとセルビア間に於ける紛争の解決は、いよいよ解決が近い。本社ベルグラード通信員の報道によれば、オーストリアは、列強に協議を行う日時を与える為に、通牒の発送を延期した。又セルビアは、無条件で自国の事を列強に一任すると信じられている。
英国海軍拡張論 同上
ロンドンタイムス紙は、首相アスキス氏に対して、海軍省要求の各軍艦をことごとく完成させると約束し、以て海軍に関する論争を防ぐよう勧告した。又タイムス紙のニュージーランド特信によれば、諸植民地は、母国を助ける事に依り、軍艦建造に於いて、ドイツを凌駕させるべしとの意見が益々盛んである。
解説:各植民地には、自分達の資金でドレッドノート型戦艦を建造し、英国に贈呈しようとする動きがある。
塞爾比予備兵解散 22日上海経由ロイター社発
本紙ベルグラード特派員によれば、セルビアは、列国の忠告に従い、明日予備兵を解散させる予定との事である。
3月24日
波斯の紛櫌 23日タイムス社発
テヘラン来電―クルド人がツルファ付近に於いて残虐、野蛮な行為を恣にする結果、英露両国公使館はペルシャ王に対し、強硬な態度を以てこれを鎮圧する必要を主張した。
満州問題と日本 23日上海経由ロイター社発
英国政府委員は、議会に於ける質問に対し、日本が満州に於いて領土管轄権を掌握しようとし始めていると推定すべき理由を有せずと言明した。
墺塞問題協議 22日ベルリン特約通信社発
オーストリア首相エーランタル男爵は、駐英国大使とセルビア問題について協議中であるが、露国及びセルビアが、この協議の結末に同意するかは不明である。但し露国内閣がツアルスコエセロに於いて開かれ、戦争には、完全に反対することを決議した。又ハンガリーは、ますますセルビアに遠ざかる模様である。
3月25日
塞爾比愈譲歩 24日タイムス社発
セルビアは、露国その他列強が自国の為に、友好的に尽力をした事を感謝し、且つ厳密にその勧告に従う旨を宣言した。
満州懸案と日本 同上
北京来電―清国政府は公文で、懸案中の満州問題全部をヘーグの仲裁裁判に付すよう日本に要求したが、日本公使は、その公文を撤回させようと尽力中である。
英独海軍競争 同上
ベルリン来電―帝国議会の予算委員会は、討論を行わずして戦艦新造費を包含する海軍予算を可決した。将来行動の自由を保持する為に、できる限り急速に海軍拡張を完成しようとするドイツの決意には到底動かし難いものがある。
海軍問題と豪州 24日上海経由ロイター社発
豪州連邦政府は、ドレッドノート型戦艦を英本国に寄付せず、既定の方針を固辞して、以て母国の負担を軽くする方針を執る事に決定した。
3月26日
墺塞関係険悪 25日タイムス社発
オーストリアとセルビア両国の関係が俄かに険悪となり、露佛と共同してセルビアの為に、オーストリアの同意を得ようとしていた英国外相の仲裁行為は、完全に失敗した様である。英国外相グレーが立案した条項は、オーストリアが現在までに行った合法な要求を十分に満足させるものと信じられたが、しかるにオーストリア外相エレンタールは、これを承諾せず、その態度は、あたかも列国監視の下で、完全にセルビアを屈服させ、且つその屈服により露国にまでも間接の屈辱を与えなければ止まないように見える。
植民地軍艦寄付 24日上海経由ロイター社発
植民卿クリュ伯は、ニュージーランドのドレッドノート型戦艦寄付を喜んで承諾する旨を言明した電報をニュージーランド知事に送ったが、英国首相アスキス氏は、下院に於いてこの報を朗読した。
加州州会閉会 24日桑港特派員発
カルフォルニア州議会下院は、23日夜閉会前に、上院を通過し下院に回付した「現行清人排斥法を存続し、更にこれを拡張して、全てのアジア人を包含する排斥法の制定を国会に請願すべし」との決議案を多数にて可決した。州議会は、24日閉院式を挙げたが、今議会に於いて両院を通過した日本人関係議案は、「1万ドルを支出し、カルフォルニア州の日本人を調査する案」とこの「排斥法制定建議案」のみである。州議会閉会と共に排日問題も鎮静に向かうであろう。
3月27日
波斯国民党衰勢 26日タイムス社発
テヘラン来電―タブリッジを防衛する国民党員達は、食物欠乏の為、非常に厳しい苦境にある。官軍は国民党員が激烈な攻撃を加えるにも拘らず攻囲状態を維持している。
塞爾比太子退位 同上
ベルグラード来電―セルビア皇太子の最近に於ける乱暴な性格に鑑み、今回その皇位継承権を放棄する事は、現下の難局を解決するに効果があるものと信じられている。
塞爾比の形勢 26日上海経由ロイター社発
セルビアの首都ベルグラードに滞在する外国人、特に婦人及び子供は、首都を去り始めている。
3月28日
墺地利の譲歩 27日タイムス社発
ウイーン来電―英国外相サー、グレーの提議に係る列国がセルビアに送るべき「セルビアの対オーストリア宣言書」文案に関して、英オーストリア間に生じた意見の差異は、大いに減少した。オーストリア首相エーレンタル男爵は、既に少し譲歩している。
タイムスの独逸攻撃 27日上海経由ロイター社発
ロンドンタイムスは、今回ドイツが列強と協議する事なくして、露国に対しオーストリアのボスニア市及びヘルチェゴビナ市併合に同意するよう圧迫を加えたが、これは列国の平和的外交に打撃を与え、且つよしや永久に欧州の勢力均衡を転覆させなくとも、少なくともこれを危険にしたものである。斯かる行動は決して永久の平和を期する所以ではない。英人がこれから受ける教訓は、即ち海軍力の絶対的優勢を維持する事であると言明した。
3月29日
露国新聞の憤慨 28日上海経由ロイター社発
露国新聞は、強力なドイツの為に露国がその政策を放棄するに至った屈辱を憤慨し、バルカンに於ける露国の威信は地に落ちたと論評した。
満州懸案と清国 26日紐育特派員発
ロンドン電報によれば、国務卿ノックス氏は、満州問題をヘーグの仲裁裁判に付したいとの清国の主張に賛成するような模様である。最近各方面から米国政府に達する電報は、日本は常に清国の或る事柄に向かって干渉し且つ妨害を試みていると報道する。
今回清国がヘーグの仲裁裁判に提出しようとする問題は、間島問題、新民屯鉄道問題、撫順その他の炭鉱問題、満州租借地内の製塩を租借地外に輸出する問題及び奉天牛荘間の鉄道延長問題である。
3月30日
露国政府屈服 29日タイムス社発
露都来電―露国政府がドイツの要求に屈して、オーストリアのボスニア、ヘルチェゴビナ2州の併合に同意した事に対し、当地の民衆は非常に憤慨している。そしてドイツはこの事を露国に要求するに当り、露国がもしこの要求に同意しないならば、ドイツは動員を決行するのみであると通告し、露国の内閣大臣は、直ちにドイツの要求に同意した。
巴爾幹問題落着 29日上海経由ロイター社発
ウイーン来電―オーストリア政府は、セルビアから着く予定の公文に対する英国外相の修正意見に同意した。同時にボスニア併合を承認した列国との協商も成立した。
3月31日
露獨外交関係 30日タイムス社発
露都来電―今回露国に加えられた強圧は、ドイツ皇帝自身の意志に依る。露帝は内政上の問題に関して、断固としてドイツの容喙を拒絶したが、その為露国新聞の論調は幾分穏やかになった。
解説:ロシア人のこの感情が第一次世界大戦に繋がっている。ボスニア系セルビア人がオーストリア皇太子を暗殺する事件が起こった。ロシアは同じスラブ系民族の小国セルビアを支援する為に動員を行ったが、ドイツはこれに反応し動員を行い、既定の戦略計画(セエリーフェン・プラン)を直ちに発動しベルギーに攻め込み、第一次世界大戦は始まった。
英獨製艦問題 30日上海経由ロイター社発
英国下院に於いて、議員リー氏は、政府の海軍計画を非難し、速やかにドレッドノート型戦艦を建造する必要を論じた。外相サー、グレーは、ドイツの状態に対比して、形勢が一変した事を承認したが、英独の関係が次第に親善に向かいつつあり、従って即刻ドレッドノート型戦艦の建造に着手する事は出来ないと言明した。