期日 | 日本関係 | 期日 | 露清関係 | 期日 | 英米関連 | 期日 | 独仏その他関連 |
9月8日 | 排日熱減退 | 9月10日 | 英露の対波斯勧告 | 9月2日 | 米国艦隊歓迎 | 9月1日 | 摩洛哥王と独逸 |
9月12日 | 日本移民減少 | 9月11日 | 朴翁誕祭挙行 | 9月6日 | 米国艦隊出発 | 9月2日 | 独帝欧州平和論 |
9月26日 | 柴少将叙勲 | 9月6日 | 英国失業者問題 | 9月3日 | 摩洛哥問題危機 | ||
9月6日 | 米国の太平洋防備 | 9月4日 | 波斯革命派暴動計画 | ||||
9月8日 | 英国紡績大罷業 | 9月5日 | 摩洛哥問題危機 | ||||
9月9日 | 大統領と軍備拡張 | 9月6日 | 佛西両国の意見 | ||||
9月12日 | 英国最大戦闘艦進水 | 9月14日 | 摩洛哥王即位 | ||||
9月13日 | 英獨製艦現情 | 9月15日 | 英獨関係批評 | ||||
9月19日 | 米国の印度人 | 9月16日 | 摩洛哥王位問題 | ||||
9月20日 | 軽気球椿事 | 9月19日 | 独逸宰相演説 | ||||
9月20日 | 大西洋艦隊 | 9月22日 | 波斯内乱形勢 | ||||
9月22日 | 英国紡績工場閉鎖 | 9月27日 | 土勃紛議後報 | ||||
9月30日 | 米国艦隊と虎病 | 9月28日 | 近東問題危機 | ||||
9月29日 | 勃牙利独立説 | ||||||
9月29日 | 独逸新造戦艦進水 | ||||||
9月29日 | 勃牙利鉄道占領と民論 |
9月1日
米国艦隊歓迎 31日タイムス社発
メルボルン来電―3万の群衆が海岸に於いて、米国艦隊の入港を見学し、又見学者を満載した多数の船舶が、数マイルの長さになった為に、艦隊の進路が狭まり、狭い小道の様になった。又各種の装飾は、規模でシドニーに比べて勝っていたが、精細さや巧緻さの点では劣っているように思える。
北波斯形勢 同上
タブリツ来電―新知事エインネドウシ氏は、当市を砲撃する意思があると発表し、同時に欧米人に対して市外に退去すべき旨勧告した。革命派の兵士5千、大砲5門に対して、氏の兵士3千、大砲12門を有している。但しタブリッツの様な堅城を防護するには、5百の兵士で十分と思われる。
解説:1905年始まった革命運動の結果、1906年12月国王の詔勅によって憲法制定が発布された。しかし1908年7月から反立憲派による反対運動が起こり、北部で内乱状態となっている。なおイラン北部は露国の、南部は英国の勢力下にある。
摩洛哥王と独逸 30日ベルリン特約通信社発
佛国及びスペインは、アルゼシラス条約の調印国に向かって、モロッコ新王の承認に関する書状を発送する予定である。しかし独逸は、佛、スペイン両国の手によってのみ行われる様な協議を承認する事を拒否している。
モロッコ前王は、主要な欧州列国に1使臣を派遣する意思がある。
解説:連日のように報道されている佛国の保護国であるモロッコ問題の続報である。
9月2日
米国艦隊歓迎 1日タイムス社発
メルボルン来電―米国艦隊乗組員は、昨日公式に上陸し、一般市民の観覧に供する為に、埃の多い市外を6マイルの間行進した。又ビクトリア州のスペルリ少将の招待会に引き続き、豪州連邦の晩餐会があり、席上、例によって主客の演説が行われた。
独帝欧州平和論 31日上海経由ロイター社発
独逸皇帝は、ストラスブルグに於いて演説し、欧州の平和は、何らの危害も被っておらず、その根拠は極めて堅固であり、決して嫉妬心に駆られた根性が曲がった人物等の煽動や、若しくは捏造説によって転覆され得るものではない。
欧州列国の人民は平穏に文明の偉大な事業を発展させ、平和的な競争でその実力を発揮させようと努めている。特に独逸国民の海陸軍は、一層その平和を安全にさせようとしつつあり、そして独逸は謙虚で公明を主として、我が武力と我が利益を維持発展させる決心であると言明した。(抜粋)
解説:第1次世界大戦まで6年、第1次世界大戦は独逸の総動員、ベルギー侵入によって開始された。
9月3日
摩洛哥問題危機 2日タイムス社発
タンジール来電―独逸は、列国に先立ちムライハフイドをモロッコ王として承認し、これによって自国の勢力を拡張しようと企てた結果、又もやモロッコに関する欧州列国の紛争を引き起こす恐れのある行動を執るに至った。最初両王間の戦争が開始された際、フエツ駐在の欧州諸国の領事は、一同退去したが、今回独逸領事が独りのみ、列国が未だ承認していないムライハフィドの宮廷に対して、領事の職務を執る為に密かにタンジールを出発した。
正王アブダル、アジスは、佛軍に保護されカサブランカに向かった。
8月4日
波斯革命派暴動計画 3日タイムス社発
タブリツ来電―革命派は、外国の干渉を引き出す目的で最後の手段として、少なくとも一か所の領事館(多分英国領事館か)を襲撃し、破壊を企てようとする状況にある。彼等は英国がペルシャの北部を露国の勢力範囲に入れた事を深く恨んでおり、これはペルシャ王の政治を維持する手段に外ならないと考えている。
解説:1906年革命派の運動が成功し、憲法が発布されたが、明治41年(1908年)7月から反革命派の勢力が強くなり、革命派は北部を中心として抵抗を続けている。明治44年(1911年)ロシアの介入に依り議会は解散され、ガージャール朝政府による政治が再開される事になる。
摩洛哥王位問題 3日上海経由ロイター社発
佛国の諸新聞は、独逸領事がフエツに帰任した事を見て、友愛を欠き、攻撃的態度の行動であると認定し始めている。
ウタに於いては、ムライハフィドがモロッコ王に即位する旨が宣言され、人民は狂喜した。
9月5日
土耳古の人種問題 4日タイムス社発
コンスタンチノープル来電―青年トルコ党は先見の明に富んでおり、諸新聞に対して諸民族が激昂する恐れがある記事若しくはエジプトに関係する文章は、一切これを掲載してはならないと命じた。これは、実にギリシャ及びハンガリー人の衝突が再び始まった結果である。
摩洛哥問題危機 3日上海経由ロイター社発
独逸の行動は、モロッコの紛争を再発する恐れがある為に、パリー及びベルリンの株式市場は動揺したと思われる状況を示している。又今回の行動について、独逸の新聞は皆賛成しているのに反して佛国新聞は皆不安な気持ちを抱き、独逸が再び騒動を徴発する政策を執るのではないかと疑っている。
米国の布哇防備 3日桑港特派員発
米国政府は、8万ドル以上を掛けてハワイの真珠湾及びホノルルの防禦を完成し、第二のマルタとして、太平洋に於ける根拠地とするであろう。米政府は、ハワイの防備を完成することは太平洋沿岸全体の防禦を完成する事と同じと考えている。
9月6日
米国艦隊出発 5日タイムス社発
メルボルン来電―米国艦隊は出発した。同隊が当地に滞在中は、アジア人を排斥する米豪同盟論の如きは一切起こらず、又白人の豪州と云う様な言葉も殆ど聞く事が無かった。唯米国人が例外的に、大いに豪州を賞賛し、この地に於いては、白人による豪州を実現する事は容易であると明言した。
英国失業者問題 4日上海経由ロイター社発
この冬の失業者問題は、非常に重大となりそうな情勢で、諸事業の中心地に於いては、既に不穏な状況である。マンチェスター市は、政府に対して救済事業を認可し、5万ポンドを貸与するよう請願した。又グラスゴー市に於いては、昨日失業者数百名が、開会中の市会に侵入し、警官は激しい小競り合いの末に、漸くこれを退去させた。
解説:8月21日「米国不景気影響」によれば、6月30日上半期の米国への移民は、昨年同期約79万人であったのが10万人に減少している。欧州と共に米国も不景気であり、そのため米国大西洋岸に於けるプアーホワイトによる日本人排斥は激しさを増している。
米国の太平洋防備 5日上海経由ロイター社発
ロンドン・ポストのワシントン通信員の報道によれば、米国陸軍省は、ハワイのオアフ島を太平洋のジブラルタル軍港とし、ホノルル、ヒヤル港に12インチ砲、14インチ砲を備え付け、兵士1万5千人を常置し、且つ最大の戦艦を入れる事の出来る船渠を設置する計画を定めた。
解説:日露戦争に勝利し勃興する日本は、白人社会にとって脅威となっており、日米戦争論が唱えられている。
佛西両国の意見 同上
佛国は独逸に対して、フランス、スペイン両国がムライハフィド即位を承認する件について意見が一致した旨を告げ、且つその意見について次の様に言明した。ムライハフィドが前王アブダル、アジスの義務、負担全てを明確に承認するならば、列国は直ちにその即位を承認する事になるであろう。
9月7日
墺伊の態度一致 6日タイムス社発
イタリアの新聞コミュユニックは、ザルツブルグに於けるオーストリアとイタリア両国宰相の会見談を発表し、両同盟国に関する全ての問題に対して両国が一致した事を証明した。
解説:第1次世界大戦まで6年、ドイツ、オーストリア、イタリアは三国同盟を結んでいたが、オーストリアとの間に領土問題を抱えるイタリアは第1次世界大戦では中立を表明し、その後英、仏、露の連合国側に立った。
9月8日
英国紡績大罷業 7日タイムス社発
英国北部の諸紡績工場は、間もなく休業せざるを得なくなりそうである。これより先、工場経営者等は、工員の賃金を、各々5%引き下げる旨を通達したが、工員等は会議を開き、投票した結果、これを受け入れない事に決定した。速やかに妥協が成立しないならば、諸工場は9月19日から罷業する事になっている。なおこの罷業問題に関係する工員数は15万人である。
排日熱減退 同上
バンクーバーからの特報に依れば、排日熱は減退の模様である。アジア人排斥協会主催の大集会に於いても、日本人に関する演説は、非常に穏やかであった。但し印度人の排斥熱は益々激しくなっている。
或るホテルの支配人が、飢餓に瀕していた印度人を憐れんで、これを雇い入れたところ、このホテルの12名の白人雇用者が、もしインド人を解雇しないならば同盟罷工をすると恐喝した。その為に支配人は、止むを得ず彼らの要求に応じ、これを解雇した。
9月9日
英国失業者暴行 7日上海経由ロイター社発
アーサー、コンノート親王は、去る土曜日にグラスゴー市に於いて、青年旅団兵1万人で行われた観兵式に臨御された。失業者連中は、親王の馬車を遮ろうと企てたが、警備が厳重な為に実行する事ができず、唯その後に続いて暴言を放ったのみであった。又日曜日は同市に於いて、失業者の大会が催され、過激な演説が行われ、これが終了後、社会党員及び失業者等2千名は、同市の大寺院に於いて、午後の礼拝が始まろうとする際に、院内に突入しようとしたが警官は予めこれを知り、予備隊を繰り出して協力、約15分間盛んに棍棒を使用しこれを退去させた。
北部波斯形勢 8日上海経由ロイター社発
ロンドンタイムスのタブリッツ通信員の報道に依れば、官側のアメドウラ将軍が、双方講和協議中は一切の戦闘行動を執らないと誓約したにも拘らず、官兵はタブリッツ市及び商人隊を襲撃、略奪した。その為革命派は非常に怒って、官軍に対して砲撃を開始した。
大統領と軍備拡張 7日紐育特派員発
大統領は、来る20日ワシントンに帰り、総選挙に関する布告文並びに国会に送る教書を起草する予定であるが、この教書には常備兵6万を10万に増加し、且つハワイの守備を厳重にする様主張する者と思われる。
解説:この記事が示す様に当時の米国陸軍の勢力は弱く、第1次世界大戦に於いても英国か佛国陸軍の指揮下に入り、1918年になりやっと独立した指揮権を持つ事が出来た。
9月10日
英露の対波斯勧告 9日タイムス社発
テヘラン来電―英露両国は、ペルシャ国王に対して通牒を送り、同国諸州、特にタブリッツ市の紛争について注意を促し、同時に速やかに総選挙を行う布告を発して、又来る11月を以て議会を招集する様勧告した。
解説:連日のようにペルシャの内乱が報道されているが、ペルシャの北半分は露国の、南半分は英国の勢力範囲であった。
摩洛哥問題交渉 9日上海経由ロイター社発
パリー駐在スペイン大使は、佛国外相ビション氏に本国からの回答を手渡した。これはムライハフィドをモロッコ王として承認するに際し、王に要求すべき誓約、保証に関する佛国の提案に答えたものである。そして両国は重要な個所に於いて意見が一致した為に、先に独逸の態度から生じた険悪な情勢も大いに緩和された様に見える。
解説:モロッコは佛国の保護国であるが、連日報道されたいる様に独逸がちょっかいを出している。
9月11日
朴翁誕祭挙行 10日タイムス社発
露都来電―トルストイ伯の誕生80年祭は、教務院及び諸知事がこれを禁止したにも拘らず、本日各新聞及び一般公衆の歓呼、賞賛を浴びて盛んに挙行された。但し一新聞は、これに関する教務院の態度を攻撃した為に没収された。又モスコー市議会は、トルストイの功績を表彰する為に図書館を建設する決議を行ったが、知事は、これを否認した。
解説:トルストイ伯とは、戦争と平和、アンナ・カレーニナで有名な作家であり、日露戦争時には「反戦争論」をロンドンの新聞で発表している。この2年後家出をし、肺炎で亡くなっている。
公果合併案通過 10日上海経由ロイター社発
ベルギー国上院は、アフリカのコンゴを自国に合併する案を通過させた。
解説:8月22日「公果合併」で、下院で合併案が可決された記事がある。残虐な国王のコンゴ経営が欧州の非難の的となり、国王の私領から国有地とする決議を行った。
露国の対波斯勧告 同上
テヘラン来電―露国は、ペルシャ国王に英国の通知と同一の通知を送り、現在同国の各州での紛争が激しく、特にタブリッツ在留の外国人の生命、財産が危険が迫っている事実に付いて、国王に注意を促し、同時に一般人民に憲政の維持と11月中旬の議会招集とを確信させ得るように、速やかに総選挙に関する布告文を発する事を勧告した。
解説:ペルシャの北半分は露国の勢力下、南半分は英国の勢力下にあった。
9月12日
南阿印度人排斥 11日タイムス社発
ヨハネスブルグ来電―インド人等は、盛んにトランスバールの排斥法案に対して反対の態度を執り、ナタルからの入国を拒否され、一旦追放されても直ちに帰来しつつある。又法律上正当な権利を有するインド人は、政府が欧州人と同一の条件でアジア人の入国を許すことを頑固に拒絶する事を憤怒し、これに対する抗議として登記証明書を焼き捨て始めている。従って情勢はますます困難を極めつつある。但し英国政府は巧みに無干渉の態度を執っている。
英国最大戦闘艦進水 10日上海経由ロイター社発
1万9千250トンの最強ドレッドノート型戦闘艦セントヴィンセント号がポーツマスに於いて進水した。
解説:1902年に建造された三笠は1万5千トンであった。最初のドレッドノート型戦闘艦は1906年に進水している。
英国失業者暴行 10日上海経由ロイター社発
グラスゴー来電―失業者は、先に予告したとおりの夜間行列を実行した。3千名の人数がジョルジ公園に集合し、数名の激烈な演説が行われ、一旦警官に解散させられたが、再び隊を作り、盛んに唄を歌い、わめきたてた。その為警官等は市長邸宅の周囲に配置され、盛んに棍棒を用いてこれを打ち、その為に多くの人が病院に収容された。これらの為に警官は全員招集がれ、兵士も休暇を中止された。
日本移民減少 10日桑港特派員発
移民年報によれば、6月30日までの1年間に、日本人で米国本土に来た者は9千6百名であり、前年度の3分の1足らずであった。これは米国の方針を日本政府が良く了解した事に因るものとして、ワシントンの官憲は非常に満足している。
解説:前年度の移民は約3万名であった様である。
9月13日
英獨製艦現情 12日タイムス社発
ドレッドノート型の英国新造戦闘艦セントビンセントの進水式がポーツマス軍港に於いて挙行された。英国の規定計画であるドレッドノート型戦闘艦12隻建造案中、2隻は既に完成しており、8隻は進水式を終わり、残る2隻も既に起工している。そして独逸に於いては、既にドレッドノート型戦闘艦9隻を新造する計画を定め、内5隻が現在建造中であり、2隻のみ漸く進水を終わっているが、未だ1隻も完成に至っていない。
解説:独逸の海相テルピッツが英国と建艦競争をしている。第1次世界大戦まで6年
独逸新聞の警告 12日上海経由ロイター社発
佛国新聞は、ムレイハフィッドの内縁の妻がタンジールに居る代表者を、あまりにも佛国贔屓であるとの理由で罷免したと報道した。しかし北独新報はこの報道を否認し、今や佛国はその提出するある特別な提案に対して、独逸の同意を得ることが出来るかどうかと云う時に際して、荒唐無稽な流言を放って、独逸に敵意を表するならば、それが為に如何なる結果を見る事になるか知れないと前記佛国新聞の反省を促した。
解説:仏の保護国であるモロッコで内乱が発生し、僭王ムライハフィッドが勝利を納めている。
9月14日
北部波斯激戦 13日上海経由ロイター社発
ロンドンタイムのタブリッツ通信によれば、紛争開始後に於ける最も激しい戦闘が、現在市の北方に位置する近村に於いて進行中である。英国副領事は、これに対して全力を尽くして、双方を和解させようとしている。但し露国総領事は、テヘラン府に於ける英露の協同に鑑み、これと協同、助力するものと予期されたにも拘わらず、少しも協力していない。
摩洛哥王即位 同上
ムライハフィドが遂に即位した旨、カサブランカを除いたモロッコ全土に於いて宣言された。
9月15日
英獨関係批評 14日上海経由ロイター社発
スタンダード新聞は、約5欄を費やして、7月に発行された論文「独逸患」に関する独逸宰相ビューロー公と英国評論家シドニーホイットマン氏との会談を記載した。この記事によればビュウロー公は、この様な論文の著者こそ本当に狂気した人であると罵り、独逸は如何なる侵略的政策も有していないと熱心に論じた。更に英国海軍力の優勢が減じるであろうとの説を馬鹿にして、同時に英国との衝突は、両者に回復する事の出来ない損害を与える事になるので、独逸に於いては誰一人これを夢想する者は居ないと言明した。
解説:第1次世界大戦まで6年
独帝アルサス訪問 12日ベルリン特約通信社発
独逸皇帝は、佛国国教に隣接するセルフトを訪問したが、佛国の領土には足を入れなかった。皇帝はコルマルに於いて平和の維持に大きな信頼を置いている旨の演説を行った。又皇帝は特別な勅語を下して、アルサスの大歓迎を感謝した。
解説:アルザス・ロレーヌ地方は、普仏戦争の結果独逸の領土となったが、第1次世界大戦の結果、再びフランス領となっている。
9月16日
摩洛哥王承認事件 15日タイムス社発
パリー来電―ムライハフィドのモロッコ王即位を承認する条件を記載したフランスとスペインの通牒が列国に交付された。この通牒は、ただムライハフィドが前王の負債を引き継ぐ事、及び秩序の回復に尽力する事を要求している。但しフランスとスペイン両国は、別に軍隊費の支払いをも要請し、同時に列国に自由にその特別な要請を行わせると思われる。
摩洛哥王位問題 15日上海経由ロイター社発
ムライハフィドは、列国に書簡を送り、前王との約束を承諾する意を伝え、同時に自己の即位承認を要求した。
スタンダード新聞のタンジール通信によれば、独逸領事ファツセル氏は、公式にムライハフィドを訪問し、熱心に新政を歓迎し、且つ独逸がその即位承認の為に尽力するつもりであると約束した。
解説:モロッコは、列強のアルゼシラズ協約により佛国の保護国となっていたが、独逸が再び手を伸ばしている。
9月17日
波斯政局発展 16日タイムス社発
露都来電―ペルシャ王は数日の内に、新選挙法を発布し、これに依って議会を招集するであろう。
スマトラ問題 16日上海経由ロイター社発
オランダ議会の開会に際して、同国女王が下して詔勅は、大いにスマトラに於ける紛争及び人命の危険を遺憾とし、又同地方訪問は、同地の平和を図ろうとする為であると言明した。
解説:スマトラ島は、当時オランダの植民地であった。1942年には、石油資源を求めて、パレンバンに日本の空挺部隊が降下し占領した。現在はインドネシア共和国
米国国務卿の演説 15日ベルリン特約通信社発
米国国務卿ルート氏は、サラトガ、スプリングに於ける演説に於いて、日米間の良好な関係及び日本移民の制限に関して、日米両国の協同が円滑に進んでいると述べた。
9月18日
米国の印度人排斥 17日タイムス社発
ニューヨーク来電―政府は、肉体労働に耐えない移民を排斥する事を規定している現行法律を励行する事に依って、インド人がカナダを経由して入国するのを防止しようとしている。なおインド人は、過激な鉄道や材木業等の労働に適しない為に逆境に陥り、公共の厄介となっている由
排日議員再予選 16日ニューヨーク特派員発
カルフォルニア州の排日議員ヘース氏は、日本人の入国を許さないのみか、現在国内に居る者をも追放しなければならないと声明して、共和党の国会議員候補に再び選出された。
独逸と摩洛哥 同上
独逸外務大臣代理は、誠意を以てモロッコの新王を承認する事に決定したが、同時にフランス、スペイン両国の提案についても考慮すると誓った。
解説:9月16日「摩洛哥王位問題」の続報
9月19日
米国の印度人 17日上海経由ロイター社発
ポスト新聞のワシントン通信によれば、米国商工省は、インド人を望ましからざる移民と認め、入国を許さない事に決定した。
独逸宰相演説 同上
独逸宰相ビューロー公は、各民族の代表者約8百名を集めたベルリンの万国議員会議に於いて演説し、ドイツは過去の残酷な教訓に依って、その国土及び国威を守る為に足る武力が必要な事を知っているが、又誠実に正義、公道の上に立っている平和を希望し、決してその武力を乱用する事はないであろうと断言した。
解説:第1次世界大戦まで後6年
9月20日
軽気球椿事 18日紐育特派員発特派員発
先日来ワシントンに於いて試験中であった空中飛行器は、薬品は一切使用せず、推進機の働きで空中を飛行する新発明であり、その成績は非常に良く、大統領も自宅からワシントンに
この飛行機で行くのではとの噂があった。しかし昨日午後、陸軍士官が乗り込み、空中を飛行中、機械に故障を生じた為に墜落し、士官は即死し、発明者ライト氏は重傷を負った。
解説:飛行機の発明で有名なライト氏の試験飛行である。まだ飛行機のことを軽気球とも表現している。
大西洋艦隊 18日桑港特派員発
大西洋艦隊は、予定より1日遅れ、18日午後5時マニラに向けて、西豪州アルバーコを出発した。出発に際しスペリー司令長官と同地方知事の間に、誠実な挨拶の交換があった。マニラ着は10月2日、又は3日と思われる。
摩洛哥問題と獨佛 同上
佛国政府は、モロッコ問題に関し、到底ドイツとの衝突を免れ難いと認め、現在英国政府の意向を探っている。
解説:連日の様に報道されているモロッコ問題に関するフランスの本音と思われる。第1次世界大戦まで6年
9月21日
ウイッテ入閣難 20日彼得堡特派員発
ウイッテ伯爵の入閣説が流布されているが、これは新しい独逸対策と関連しているのか、或いは外債募集上の都合にも依るのではと言われている。閣員の多数は、伯の入閣に反対しているので実行は極めて困難と思われる。
9月22日
波斯内乱形勢 21日タイムス社発
テヘラン来電―ペルシャ王は英露の連合通牒に対し回答した。そして同国の内情に詳しい筋から聞いた所に依ると、この回答はタブリッツ征服が終わるまで、事実上憲政を実施しないと言っている。
タブリッツ特信に依れば、ペルシャ王は国民党員等に対し、彼等が降伏した後に憲政を実施すると誓約する電報を送ったが、然るに国民党員等はこれに対して再び憲政を実施した後に降伏すると宣言した返電を送った。
英国紡績工場閉鎖 同上
ランカシャーの諸紡績工場は、本日いよいよ閉鎖し、15万人がその職を失った。
解説:9月8日「英国紡績大罷業」の続報である。工員に対して5%の賃金引き下げを認めない場合には、工場閉鎖を宣言していた。
9月23日
摩洛哥撤兵進行 22日上海経由ロイター社発
モロッコのカサブランカから撤退した佛兵数は、去る7月以来既に3千名に上った。又10月までに3千名が撤退する予定であり、残余の8千名は警察隊組織の進行に従い、順次撤退すると思われる。
解説:連日の様に報道されているモロッコ問題の続報である。
英国紡績工場閉鎖 22日上海経由ロイター社発
ランカシャの紡績工場を閉鎖する期日に付いては、種々の推定が行われており、紛争の結果によっては、或いは遂に40万乃至120万人を休業させるかもしれない模様である。
解説:前日の続報
9月25日
独逸の摩洛哥問題解答 24日上海経由ロイター社発
9月15日のフランス、スペイン連合通牒に関する独逸の回答は、非常に穏和な調子を保ち、大体に於いて両国の提案に同意している。これに付いてパリーに於いて佛、スペイン両国の軍費、被害者に対する償金等の支払いに関して、遂に列国が一致することになるものと確信され始めている。又モロッコは各国共に利益関係を有する所であるので、独逸は、佛スペイン両国が必ず同国の財政的地位について考慮するであろうと信じている模様である。
米艦隊と馬港虎疫 23日紐育特派員発
マニラでコレラが大流行している為、大西洋艦隊は同港への寄港を見合わせるべきとの説が起こり、海軍当局は考慮中である。多分一度入港しても、陸上との一切の交通を絶ち、直ちに出港するものと思われる。この場合には横浜での錨泊日数が延長されるかも知れないと言われている。
9月26日
柴少将叙勲 25日上海経由ロイター社発
英国皇帝は、パーモラルに於いて日本大使館付き武官柴五郎氏に対し、告別の意を表して、同時にビクトリア勲章を賜わった。
解説:義和団の乱の際の北京籠城戦に於いて、最先任の武官であった柴中佐は総指揮をとったイギリス公使クロード・マクドナルドを援けて活躍した。タイムスの記者モリソンがその活躍を報道し、欧米各国から賞賛された。又イギリス公使マクドナルドはその後日英同盟の強力な推進者となった。
9月27日
土勃紛議後報 25日上海経由ロイター社発
東洋鉄道ルーマニア線の占領は、鉄道会社が独断で決定する事の出来る問題であるとブルガリア政府はトルコ政府に通牒した。
解説:数日前、トルコ、ブルガリア両国を通るオリエンタル鉄道に於いてストが発生するとブルガリア鉄道守備隊が直ちに鉄道線を占領した。トルコ政府がストの中止を説得すると共に撤退を要求したが、ブルガリア兵は依然として占領を続けている。ブルガリアは、トルコが監督する鉄道線路が自国の領土内を横断する事が不愉快であり、このルーマニア線をトルコから買い上げるか、自国で管理する事を望んでいる様である。
土耳古の通牒 同上
トルコ政府は、列国に通牒を送り、ブルガリアがオリエンタル鉄道を占領しているのは、トルコの権利の侵害であるとして、列国の干渉を要求した。これについてドイツ外相シェーン氏は、ベルシテスガーデンに滞在中のロシア外相と協議した様である。
9月28日
近東問題危機 27日上海経由ロイター社発
露、独、墺(オーストリア)、伊(イタリア)諸大臣の協議が行われたのは、東方問題に関して、世界が非常な不安感を抱いている為であると認識されつつある。オーストリアは、ボスニア及びヘルチェゴビナ両州を永遠に自国の領土に加えようとしているとの説が盛んに行われ、又ブルガリアは、トルコの抗議を無視して、鉄道を保有しようと決心したと明確に指摘されている。
解説:トルコに付いては、昨日の記事の続報
9月29日
勃牙利独立説 28日タイムス社発
コンスタンチノープル来電―ブルガリアは独立を布告する意図があるとの容易ならざる風説が伝えられる。しかし新聞も一般の民心も極めて平穏である。
解説:ブルガリアは、500年間、オスマン帝国の領土であったが、露土戦争の結果トルコはロシアに敗れ、その領土を失った。そして列強の協議でブルガリア自治公国となっていた。
しかし1908年トルコで青年党の革命(トルコで現在進行中)が起こると、その機に乗じて独立を宣言する。
米国政界腐敗暴露 同上
ニュウヨーク来電―新聞王ハースト氏の米国政界腐敗摘発は、全国を通じて非常な騒動を引き起こしている。氏が今後なお、この上摘発を継続するかどうか世間一般は、疑問視している。そしてハースト氏が共和、民主両党を最も苦痛で不安心な位置に置いている事だけは殆ど疑う余地が無い。
第三ドレッドノート型独逸軍艦テイランド号が、ステッセン港に於いて進水式を行った。
解説:ドイツ海相テルピッツは、イギリスに勝てないまでも、ドイツと海戦をすれば大きな損害をイギリスに与えるという危険艦隊思想を唱え、イギリスと建艦競争をしている。第一次世界大戦まで6年
土勃紛議観測 同上
トルコ官吏社会は、対ブルガリアとの紛争は両国の互譲によって円満に落着するであろうと考えている。
勃牙利鉄道占領と民論 同上
ソフィア府に於いて、数千人の集会があり、政府に鉄道の保有を要求する決議案を決議した。
解説:5月27日の記事の続報
9月30日
米国艦隊と虎病 29日タイムス社発
ワシントン来電―マニラに於けるコレラの流行の結果、米国艦隊の公式訪問は日本訪問後まで延期された。諸戦闘艦は、ケヴィテに投錨し、日本に向かう準備として、石炭積み込み及び掃除等の為に10日を費やす様である。又同地に滞在中は、コレラの伝染を避ける為に水兵の上陸は一切許可しないと思われる。
佛獨官吏衝突 28日上海経由ロイター社発
モロッコのカサブランカに於いて、佛国官吏が外国軍隊の脱走軍人を捕縛し、且つこの脱走兵を独逸国民であると主張する独逸領事館員を殴打した為に事件となっている。カサブランカに駐在する独逸領事は、直ちに佛国領事に抗議を行っている。独逸新聞は、この事件は極めて重要な為に、これに相当する強硬な態度で対処しなければならず、且つこの解決は何等の困難もなく行われるであろうと言明した。