期日 | 日本関係 | 期日 | 露関係 | 期日 | 英米関連 | 期日 | その他 |
5月28日 | 海戦機迫る | 5月9日 | ウイッテの失脚 | 5月1日 | 朝鮮経営讃評 | 5月2日 | 列強東洋艦隊の現状 |
5月29日 | 砲声轟く | 5月14日 | ユダヤ人の虐殺 | 5月1日 | 英国の堅艦新造 | 5月4日 | ポーランドの騒乱 |
5月30日 | 大海戦大勝利敵殲滅 | 5月16日 | 露国将官の内信 | 5月5日 | 対米運動 | 5月6日 | ポーランド騒乱蔓延 |
5月31日 | 東郷大将戦闘報告 | 5月17日 | 日佛交渉 | 5月7日 | 我が在米財務官 | 5月10日 | 革命時期未熟 |
5月18日 | 多少の内乱 | 5月14日 | 広東人の対米決議 | 5月11日 | 露艦退去要求 | ||
5月20日 | 敵提督神経症 | 5月15日 | 海戦勝敗いかが | 5月20日 | 独逸特使とモロッコ | ||
5月25日 | 正直な告白 | 5月24日 | 南ア清人の暴挙 | 5月21日 | 佛シャム国境問題 | ||
5月27日 | 米国と極東問題 |
明治38年5月
東京朝日新聞明治三十八年五月一日(月)
清国の中立 広東総督は福建、広東の沿岸を警戒する為に軍艦の派遣を要請した
朝鮮経営讃評 英国のエジプト経営に比較して、これは近年において一番成功を収めた
英国の堅艦新造 精鋭無比である新式の戦艦第1号艦の建造に着手した
品川のキスの脚立釣り 乗り合い船の1人前料金を30銭に値上げた
清国の中立 29日上海特派員発
広東総督は政府に対して福建、広東の沿岸を警戒する為に軍艦の派遣を要請したが、政府は袁世凱と相談した結果、中立を厳守する事は無論であるが軍艦の派遣は不要であると答えた。
朝鮮経営讃評 29日ロンドン特約通信員発
ロンドンタイムス北京通信員モリソン博士は、朝鮮に於ける日本の活動の結果について詳細に描写して本社に通信している。タイムスはこれを英国のエジプト経営に比較して、これは近年において一番成功を収めたもので、如何なる国民でも之を誇りとすることが出来ると論評している。
英国の堅艦新造 30日上海経由ロンドンルーター社発
海軍省は本年秋ポーツマスに於いて、その精鋭無比である新式の戦艦第1号艦の建造に着手し、できるだけ速やかに竣工の予定である。同艦は日露戦争の教訓に基き設計に著しい改良を加えた所がある。
解説:この戦艦が有名なフィッシャー提督の「ドレッドノート」型であり、それまでの建艦思想を一変した戦艦で、次のホームページに詳しく解説されている。
「戦艦ドレッドノート」 http://ww1.m78.com/topix/dreadnought.html
品川のキスの脚立釣り
乗り合い船は本日から出す筈であり、今年は1人前料金を30銭に値上げし、1日の費用として船賃の外に脚立と魚籠の費用が3銭、餌代5銭から8銭が必要である。
解説:これから見るとキス釣りの場合は合計約40銭のようで、現在の物価はおおむね1万倍であるので、現在の価格にすれば約4000円のようである。
東京朝日新聞明治三十八年五月二日(火)
列強東洋艦隊の現状 去る1日に於ける東洋所在の列国軍艦は次のとおりである
支那留学生 去る1日上海から横浜へ入港した定期船で学生が到着し、直ちに上京した
列強東洋艦隊の現状
去る1日に於ける東洋所在の列国軍艦は次のとおりである。
英国:上海2隻、長江方面6隻、香港司令官旗艦外17隻、広東2隻、シンガポール4隻
司令長官旗艦外5隻は航行中
米国:上海2隻、長江方面2隻、広東1隻、マニラ司令長官旗艦、司令官旗艦外11隻
佛国:上海1隻、長江方面4隻、広東2隻、サイゴン司令長官旗艦、司令官旗艦外18隻
獨国:膠州湾司令長官旗艦、司令官旗艦外7隻、長江方面2隻、アモイ1隻、広東1隻
支那留学生
去る1日上海から横浜へ入港した定期船で広西(かんしい)省学生11人、湖北(こほく)省学生8人、湖南(こなん)省学生8人、浙江(せっこう)省学生2人、安徽(あんび)省学生2人到着し、直ちに上京した。
東京朝日新聞明治三十八年五月三日(水)
皇帝の懐柔策 凶作のために政府から借り入れた負債の滞納を免除する
信教の自由 正教派に属さない各派について、信教の自由を人民の権利と認める
ワリヤーグの引き上げ 今月18日頃の大潮時に引き揚げられるといわれている
皇帝の懐柔策 2日上海経由ロンドンルーター社発
露帝は詔勅を発して、1857年から皇孫誕生までの間に、凶作のために政府から借り入れた負債の滞納を免除する事とした。この滞納額は750万ポンドと算定される。
信教の自由 (同上)
又当時に発した他の詔勅には、正教派に属さない各派について、信教の自由を人民の権利と認める事項があり回教徒、仏教徒をこの中に含んでいる。これらの宗教はもはや公には異端の徒として見られない事となったが、ユダヤ教徒の束縛を解く条項は全くなかった。
ワリヤーグの引き上げ
仁川に於ける沈没軍艦のワリヤーグの引き上げ工事は、その後準備が既に完成しているので、今月18日頃の大潮時に引き揚げられるといわれている。
東京朝日新聞明治三十八年五月四日(木)
ポーランドの騒乱 ワルシャワに於いて職工の新たな騒乱が発生し、死者90人を出した
又別報 一つの爆弾がコサック巡邏隊に投げられコサック兵3名及び巡査1名が殺された
露都は無事 露京に於けるキリスト復活祭日は平穏に経過した
ポーランドの騒乱 2日ベルリン特約通信社発
ワルシャワに於いて職工の新たな騒乱が発生し、軍隊がこれに発砲して死者90人を出した。又露領ポーランドのロズに於いては1万5千人の職工が同盟罷工を行い、ミンスク及びカリズにも暴動が発生した。
又別報
ワルシャワ発ルーター電によれば職工と軍隊との間に新たな衝突があり、一つの爆弾がコサック巡邏隊に投げられコサック兵3名及び巡査1名が殺された。
露都は無事
新聞の報道によれば、露京に於けるキリスト復活祭日は、某私人の家に於いて爆弾の破裂があったが危害は無かった。その他一般に平穏に経過したがポーランドに於いては恐るべき流血を見、その詳細は厳重な秘密とされている。
東京朝日新聞明治三十八年五月五日(金)
ロンドンの日本協会 レーズデール卿は日本は戦争及び平和に於いて勝利を収めたと演説した
英国の対清警告 英国は清国に警告書を送った
対米運動 駐米清国公使梁誠氏が支那人上陸禁止法に調印する事を拒否している
ロンドンの日本協会 3日ロンドン特派通信員発
昨夜日本協会の宴会があり、宴半ばでレーズデール卿は次の演説を行った。日本は戦争及び平和に於いて勝利を収め、文明の極意に向かって思いがけなき進歩を為した。日本軍の勲功勇気は暫く置き、その敵に対して慈悲であることは旅順の陥落の祭、天皇陛下の下し賜える勅旨により証明される。
英国の対清警告 4日上海経由ロンドンルータ社発
モーニングポストのワシントン電報によれば、英国は清国に警告書を送ったがこれは米国が厳正中立を維持する必要性を清国に説明した公文と同一の内容であった。
対米運動 4日上海特派員発
駐米清国公使梁誠氏が支那人上陸禁止法に調印する事を拒否している為、北京駐在の米公使は清国政府に対して調印を強く要請している。又広東では檄文を上海や香港に飛ばし大会議を開き、飽くまで調印拒否運動を行おうとしている。
東京朝日新聞明治三十八年五月六日(土)
ポーランド騒乱蔓延 ワルシャワの愛国的示威運動は一昨日コサック兵のために壊滅させられた
昨年の米穀輸出入 昨年は豊作にも拘わらず558万4千975石の輸入超過であった。
サイゴン米搭載船避難 ラングーン米を搭載した英国船2隻は、シンガポールに避難している
ウラジオ艦隊出動 本日夕方露艦(多分ウラジオ艦隊と思われる)が宗谷海峡に現れた
同上別報 我帆船1隻砲撃される
ポーランド騒乱蔓延 5日ロンドン特約通信員発
ワルシャワにてポーランド人の愛国的示威運動は一昨日コサック兵のために壊滅させられた。月曜日の死人は一昨夜秘かに葬られたがその数は不明である。
昨年の米穀輸出入>
農務省の調査によれば、昨年度の米穀の輸出入は次のとおりである。
輸出 30万8千430石、72万4千860円
輸入 589万2千714石、5千979万1千911円
以上の如く昨年は未曾有の豊作にも拘わらず558万4千975石、価格にして5千506万7千51円の輸入超過であった。
サイゴン米搭載船避難>
ラングーン米を搭載した英国船2隻は、一旦ラングーンを出港したが敵艦に出会ったためシンガポールに避難し、現在同港於いて時期を伺って再び出港しようとしている
ウラジオ艦隊出動 5日門司特派員発電
ある確かなる筋からの情報によれば本日夕方露艦(多分ウラジオ艦隊と思われる)が宗谷海峡に現れ、我商船4隻が避難した。
同上別報 5日札幌特派員発電
露艦4隻現れ、我帆船1隻砲撃される。その後露艦は北に向かったとの公報があった。
東京朝日新聞明治三十八年五月七日(日)
ウラジオ艦隊出動 持田にて国籍不明の水雷艇が4隻帆船1隻を囲み砲声を2発聞いた
我が在米財務官 金子男爵の近況 さすがに広いカーネギーホールに一つの空席も無かった
ウラジオ艦隊出動
札幌支庁長から次の電報があった。
5日午前11時半頃、持田にて国籍不明の水雷艇が4隻、帆船1隻を囲み砲声を2発聞いた。帆船は火災を起し水雷艇は沖合いに向け北進した。救助船が出港したが風浪のため救助する事ができず引き返した旨通報があった。
我が在米財務官 金子男爵の近況
金子男爵は現在ニューヨーク市に滞在しており、市のロンドン協会の招きに応じ、昨夜カーネギーホールに於いて「西洋人と東洋人との関係に及ぼすべき日露戦争の影響」と題する講演を行った。この夜男爵の演説を聞くために数千人の聴衆が集まり、さすがに広いカーネギーホールに一つの空席も無かった。
明治38年5月8日
東京朝日新聞明治三十八年五月八日(月)
金子男爵の言明 日本がフィリピン群島を奪い取ろうとしているとの説を明白に否定した
売艦説否定 アルゼンチン共和国政府は軍艦を露国に売却したとの報道を否定した
遭難船のその後(大阪) 船主への電報によれば船員10名は解放されて小谷石へ上陸した
金子男爵の言明 6日ロンドン特約通信員発
金子男爵は日本が米国の極東に於ける勢力を妬み、フィリピン群島を奪い取ろうとし、且つ米国の商業を妨害しているとの説を明白に否定した。日本は之に反してアジアの文明のために米国の支援を得る事を希望していると述べた。
売艦説否定 5日上海経由ロンドンルーター社発
アルゼンチン共和国政府は軍艦を露国に売却したとの報道を否定し、政府はこれを売却する希望を持っているが、戦争中にこれを引き渡すような事は決してしないと述べた。
遭難船のその後(大阪)
八幡丸の乗組員から船主への電報によれば、船員10名は解放されて小谷石へ上陸した。八幡丸を曳航するために現場に到達したが、既に船体の殆どが焼けつつあり、空しく引き返した。因みに同船は一昨年に建造され、2万円であった。
東京朝日新聞明治三十八年五月九日(火)
ウイッテの失脚 露帝は教育問題に関してウイッテが議長となっている調査会の解散を命じた
ウイッテの失脚
露帝は教育問題に関してウイッテが議長となっている調査会の解散を命じた。なお以前ウイッテが議長であった農民問題調査委員会はウイッテの議長職罷免の後でも引き続き活動している。これらから考えるとウイッテに対する親任は次第に薄らぎつつあるものと思われる。
東京朝日新聞明治三十八年五月十日(水)
英国とホンコエ湾 英国外務大臣は佛国政府に強硬な声明を行った
英国の世論 英国の世論はいかなる代価を払っても日英同盟の強硬な維持を希望するにある
革命時期未熟 ポーランドの社会党は同地の罷工者に再び労働に従事すべき事を命じた
英国とホンコエ湾 8日ロンドン特約通信員発
英国外務大臣ランスダウン侯はインド支那に於ける現状に関し佛国政府に強硬な声明を行った。
英国の世論 (同上)
ロンドンタイムスは、ホンコエ湾問題に関して重大な状況と認識した上で、我々は日本の各新聞の主張に対して無頓着でいることはできない。英国の世論はいかなる代価を払っても日英同盟の強硬な維持を希望するにある。
革命時期未熟 9日ロンドン特約通信員発
ポーランドの社会党は同地の罷工者に向かって、再び労働に従事すべき事を命じた。そして先に大決断して、大々的な組織的運動をする檄文を回したが、革命の時期は尚今だ熟せず、労働者は暫く忍耐して自由のために最後の闘争に対する準備をせよと。
東京朝日新聞明治三十八年五月十一日(木)
露艦退去要求 佛国政府は退去を要求するよう東洋艦隊司令長官に訓令した
日本態度賞賛 英国の新聞は国際関係に対するその大局的な見解を賞賛した
サイゴン最近状況 軍用石炭がいたる所に山積みにされ、運送船が盛んに石炭を積みいれていた
露艦退去要求 9日ロンドン特約通信員発
佛国政府は形勢が容易でないことを認識し、露国艦隊に対して退去を要求するよう東洋艦隊司令長官ジョンキエル提督に訓令した。
日本態度賞賛(同上)
佛国の処置は米国に於いて厳しい批評を受けつつあり、英国の新聞は日本に同情を表明し、国際関係に対するその大局的な見解を賞賛し、且つ佛国政府の困難な立場を認めて慎重堅忍の態度を維持している事に感服した。
サイゴン最近状況 10日長崎特派員発電
本月1日までは佛国艦隊が依然として錨泊し、喫水の浅い砲艦は河上にあるものもあり、駆逐艦は昼夜煩雑に出入していた。
軍用石炭がいたる所に山積みにされ、運送船4隻が盛んに石炭を積みいれていた。
東京朝日新聞明治三十八年五月十二日(金)
露国民とその国会 普通選挙並びに独立の立法機関として上下両院を創設する事を採択した
佛国と中立問題 日本が精力的に働きかけたため佛国政府は遂に屈したものと思われる
露帝とダライラマ 露国陸軍大尉はダライラマに進物を届けるためにウルガに出発した
敵艦又北海に出る 帆船永徳丸は臨検を受けたけれども解放された
露国民とその国会 11日ロンドン特約通信員発
モスコーの地方議会代表者の会議は閉会した。同議会にて普通選挙並びに独立の立法機関として上下両院を創設する事を採択した。
佛国と中立問題 10日ベルリン特約通信員発
パリーよりの報道によれば日本が精力的に働きかけたため佛国政府は中立問題に関して遂に屈したものと思われる。
露帝とダライラマ (同上)
露国陸軍大尉コスロフ氏はダライラマに露帝の進物を届けるためにウルガに出発した。
敵艦又北海に出る 11日函館特派員発電
帆船永徳丸は青森県深浦から西北20海里沖にて函館方面に向け航行中の露艦2隻に出会い、停船を命じられて臨検を受けたけれども解放された。
東京朝日新聞明治三十八年五月十三日(土)
ワシントンの評判 米国に於いて伯が露国の利益を損なった事を露廷も気が付いた
露国外務省の恨み言 佛国が日英同盟の圧迫の為にその中立態度を変更した
校長排斥同盟(前橋) 前橋中学校4年生が発起して、岡校長排斥同盟を組織した
ワシントンの評判
ワシンポスト紙は、駐米露国大使カシニイ伯が最近マドリードへ転任を命じられた事を評して、米国に於いて、伯が露国の利益を損なった事を露廷も気が付いたためであると解説している。又日本に長く駐在していたローゼン伯をその後任としたのは、米国当局者のある人は露国が講和会議の下ごしらえの意向が感じられると報道した。
露国外務省の恨み言 12日上海経由ロンドンルーター社発
露国外務省は、ルーター通信員に対して、佛国が日英同盟の圧迫の為にその中立態度を変更したのであれば、一般の露人はこれを非友好的な態度と認めるであろうと言明した。
校長排斥同盟(前橋)
前橋中学校4年生の20余名が発起して、岡校長排斥同盟を組織して本日檄文を配布した。生徒の行動が不穏であるので学校は授業を中止し、警察署も警戒を行いつつある。
東京朝日新聞明治三十八年五月十四日(日)
広東人の対米決議 米国の支那人排斥条例に抗議して決議を行った
ユダヤ人の虐殺 一情報によれば死傷者は約120名である
露国戦闘艦の進水 新戦闘艦が昨日ピータースブルグに於いて進水した
広東人の対米決議 13日上海特派員発
昨日当地に於いて広東人が集会を開き、米国の支那人排斥条例に抗議して次の決議を行った。
第1 支那商人は米国からの輸入品を中止する事
第2 米国に使用されている番頭等は全員辞職する事
第3 米国の貨物の揚げ卸を拒否する事
第4 駐米清国公使に調印拒否を勧告すること
第5 これらを在米支那人に伝法する事
ユダヤ人の虐殺 13日ロンドン特約通信員発
南部ロシアの中心ジトミールに於けるユダヤ人虐殺に関しては、未だに詳しい情報がないが、露都からの一情報によれば死傷者は約120名である。歩兵3個連隊、砲兵1大隊と支援する龍騎兵がいたが、3日間にわたって乱れた秩序は回復せず、露国官憲が乱暴し多数の家屋がそのため略奪された。
露国戦闘艦の進水 13日上海経由ルーター社発
新戦闘艦「アンドレー、ベルウオズワンヌ」(1万6千6百30トン、速力18ノット)が昨日ピータースブルグに於いて進水した。
解説;日本の戦艦はイギリス等からの輸入であるがロシアは既に戦艦を建造する技術力を持っていた。
東京朝日新聞明治三十八年五月十五日(月)
海戦勝敗いかが 米国の「マハン」大佐は現在の情勢について次のように述べた
敵艦隊の消息 支那海に入った後の任務は本国司令部との通信交換にある
海戦勝敗いかが 13日ロンドン特約通信員発電
ピータースブルグの海軍社会では、「ロジェストウェンスキー」の成功は全く疑う余地が無いと噂をしている。
米国の「マハン」大佐は現在の情勢について次のように述べた。東郷大将がどの様な戦略を取ろうとも、彼は大きな被害を与える事無く、敵艦隊を安々とウラジオストックに入港させる事はあり得ないであろう。東郷大将の現在の立場は、1805年フランスとスペインの両国艦隊を追跡したネルソン提督の立場と比べる事が出来る。ただ彼我に違いがあるとすれば東郷大将が大敗した暁には、有力な日本艦隊の予備が無い事のみである。
解説:「マハン」大佐とは、秋山中佐が師事したことのある米海軍の戦略家で有名な「海軍力の歴史」を著わしている。
敵艦隊の消息 14日長崎特派員発電
露国艦隊司令官が支那海に入った後の任務は本国司令部との通信交換にあり、司令官が発信するよりもむしろ、軍令部から日本艦隊の動静にかんする情報を受け取るのを主としている様である。安南海岸は通信が不便な所で露艦は巧みに無線電信を利用して陸上に送信し、全ての通信はサイゴンを根拠としている。
東京朝日新聞明治三十八年五月十六日(火)
獨帝の演説 皇帝は極東に於ける戦争について力を極めて日本将軍の勇敢な事を賞した
露国将官の内信 兵士らは次第に社会主義に感染しつつあり
獨帝の演説(日露両軍の批評)14日ベルリン特約通信社発
独逸皇帝はアルサスのストラスブルヒにおいて、閲兵式を行った後将校に対し演説を行った。
皇帝は極東に於ける戦争について、力を極めて日本将軍の勇敢な事を賞して、また露国の将校は未だ範とするに足るだけの技量を示していない。但しその士卒は勇敢と思われる。クロパトキンが奉天の戦いに於いて自ら前線に立って軍隊を指揮したのは彼の一大失策であり、大山将軍が後方から指令を出すに止めた事ははるかにクロパトキンに勝っている。
露国将官の内信(スタンダード紙3月18日キエフ通信)
露国将官から当地に達した私信
兵士らは次第に社会主義に感染しつつあり、そして戦争中に拘わらず将校に対する尊敬心を失ったために、各所の戦闘に際して将校が前線に出ない者が居る。若し早期に講和が成立し、軍隊が露国に帰還すれば直ちに革命的思想を伝播すると思われ、この様に社会主義に染まった多数の者が露国で解隊される日は一大危険をもたらす恐れがある。
東京朝日新聞明治三十八年五月十七日(水)
沿岸自由航行 韓帝陛下から速決を促された勅旨が参政沈相薫に下された
台湾の戒厳令(台北) 戒厳令の施行に伴って島内の45箇所に検問所を設置した
日佛交渉 昨夜既にロジェストウェンスキーに対して佛国の中立を尊重すべしとの訓令を発した
沿岸自由航行 16日京城特派員発
韓国沿岸に於ける自由航行の件に関して、韓帝陛下から速決を促された勅旨が参政沈相薫(さんせいちんしゃくん)に下されたため、昨日の議政府会議には大官が悉く出席し、この契約条項を悉く我が要求のとおりに可決した。契約調印は一両日中に行われる予定である。
台湾の戒厳令(台北)
戒厳令の施行に伴って、島内の45箇所に検問所を設置した。しかし土人は何らの頓着なくその戒厳令の施行さえ知らない様である。
日佛交渉(カムラン湾問題に関する)
22日ピータースブルグ発電によれば、海軍省は、ロジェストウェンスキーがカムラン湾に於いて、佛国の領海内に居る事で佛国に迷惑を掛ける事を望まない故に、昨夜既にロジェストウェンスキーに対して佛国の中立を尊重すべしとの訓令を発した。
東京朝日新聞明治三十八年五月十八日(木)
露国の真意 露国は日本との戦争に佛国を引き入れようとしている
佛国の中立的態度 佛国官憲はその中立を明確にしようとしている
多少の内乱 数千人の職工が反逆的喚声を上げながら市中を練り歩いていた
露国の真意 16日ロンドン特約通信員発
露国は日本との戦争に佛国を引き入れようとしているとの説が次第に盛んになっている。
佛国の中立的態度 (同上)
タイムスのパリー通信員は、「佛国官憲はその中立を明確にするため一般世人が想像する以上の事を行った」と報じた。
多少の内乱 17日ロンドン特約通信員発
露都に於ける示威運動は一昨日から再び始まり、数千人の職工が反逆的喚声を上げながら市中を練り歩いていたがコサック兵のために追い散らされた。欧露東方のウバ並びにコーカサス地方のイカテリアに於いては5月祭の激しい騒動が発生し、これまたコサック兵に追い散らされた。
東京朝日新聞明治三十八年五月十九日(金)
ユダヤ人懐柔 ユダヤ人の工芸家が露国内の何処にでも居住する事を許可した
爆弾騒動 警察署長は重傷を負い1人の警官は即死した
第4艦隊の準備 各艦長に対して6月14日までに極東に向け出発の準備を整えるよう命じた
ユダヤ人懐柔 18日ロンドン特約通信員発
露都からの報道によれば、大臣委員会は国会の召集までユダヤ人問題を延期する条件で、ユダヤ人の工芸家が露国内の何処にでも居住する事を許可した。
爆弾騒動 18日上海経由ロンドンルーター社発
露国リガに於いて爆裂談を投げた者が居り、警察署長は重傷を負い1人の警官は即死し、同行する他の警官は、犯人を追跡中にこれまた射殺された。
第4艦隊の準備
露京電報通信社の報道は次のとおり。
クロンシュタットの新聞報道によれば、バルチック艦隊(現在露国に残留する艦隊)司令官は第4艦隊に属する各艦長に対して、6月14日までに是非とも極東に向け出発の準備を整えるよう命じた。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十日(土)
独逸特使とモロッコ サルタンは独逸の好意は心強い限りであると述べた
敵提督神経症 ロジェストウェンスキー提督は激しい神経過敏症に罹り帰国の許可を申請した
独逸特使とモロッコ 19日ロンドン特約通信員発
サルタンはタッテンバハ男爵が到着した翌日会見した。男爵は自由な独立した帝王としてサルタンに挨拶する為に派遣されたと宣言し、サルタンは独逸の好意は心強い限りであると述べた。
敵提督神経症
露京発ウオルフ通信社の電報は以下のとおり。
ブールス、ガゼット新聞の記事によれば、ロジェストウェンスキー提督は激しい神経過敏症に罹り、帰国の許可を申請し、ビリレフ海軍中将がその後任に命じられるであろうとの噂が、露京及びクロンシュタットに於いて盛んに行われている。(外務省着電)
解説:露日海戦史3月4日「ロジェストウェンスキー」中将の私信によれば海軍大臣に交代を要請している。但し後任には体の頑丈な「チフニン」少将を指名していた。
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東京朝日新聞明治三十八年五月二十一日(日)
敵の新提督 極東に於ける露国艦隊司令長官としてウラジオに出発する
清人渡米問題 米国は支那人の上陸を禁止する条約を結ぼうとしている
佛シャム国境問題 シャム国は佛国が要求した国境を承諾した
敵の新提督 20日上海経由ロンドンルーター社発電
セントピータースブルグ通信員の報道によれば、ビリレフ海軍中将は、極東に於ける露国艦隊司令長官としてウラジオに出発するに先立ち、昨日(18日)露帝に謁見を行った。
同中将が即刻バルチック艦隊の司令官の任に当たるとの昨日の報道は事実無根であり、同中将来着までの間はロジェストウェンスキーが引き続きその任に当たると思われる。
清人渡米問題 20日北京特派員発
米国は支那人の上陸を禁止する条約を結ぼうとしているが、在米清国公使がこの調印を拒否している。多数の在米支那人がこの条約が締結される事を恐れ、新条約を調印しないよう政府に電請した。今回の条約は労働者のみならず学生まで上陸を禁止されている。
佛シャム国境問題 20日上海経由ロンドンルーター社発
佛国外相デルカッセ氏の報告によれば、シャム国は佛国が要求した国境を承諾した。その結果シャムの境界はレムリン岬からバクナモエン河に引き下げられた。
解説:シャムとは現在のタイであり、この当時西側国境はイギリスと東側国境はこの記事にあるようにフランスと接し、それぞれ圧力を受け国境線を変更している。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十二日(月)
爆裂弾事件続報 この爆裂弾の責任者である労働者は社会党の実行部員であった
ビリレフ中将 故マカロフ中将の後任としてクロンシュタットの鎮守府長官となった人
爆裂弾事件続報 21日上海経由ロンドンルーター社発
ワルシャワの爆裂弾事件の為負傷した者は21名であり、その内3名は重傷である。
この爆裂弾の責任者である労働者は社会党の実行部員であった。警官は戸毎に捜索中であり多数の容疑者が検挙されている。
ビリレフ中将 ロジェストウェンスキーの後任予定と噂されているビリレフ海軍中将は、露国海軍で名声を博し、且つ実践家としてこれまで多く海上に勤務し、故マカロフ中将が旅順艦隊司令長官として極東に派遣され、その後任としてクロンシュタットの鎮守府長官となった人で今年62歳の老将軍である。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十三日(火)
佛シャム境界問題 シャム王は佛国の要求を入れてパグナム河を境界とする事に同意した
敵艦らしきもの 隠岐の国五日村沖合いに敵艦らしきものが西方に向かって航走している
中旬の外国貿易 今月中旬は生糸、羽二重、製茶等の輸出が前旬よりやや増加した
佛シャム境界問題 21日ベルリン特約通信社発
シャム王は佛国の要求を入れてパグナム河を境界とする事に同意した。
敵艦らしきもの 22日門司特派員発電
今朝6時頃隠岐の国五日村沖合いに、敵艦らしきもの2本煙突3隻、3本煙突駆逐艦らしきもの1隻、艦体不明のもの2隻が西方に向かって航走しているとの電報が当地のある筋に達したが、一般の航海者はこれを否定した。
中旬の外国貿易
今月中旬の海外貿易は生糸、羽二重(はぶたい)、製茶等の輸出が前旬よりやや増加したが米、羊毛、鉄、綿花その他の輸入が増加したため結局1千52万余円の輸入超過となっている。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十四日(水)
南ア清人の暴挙 千人余りの清国労働者が土人の屋敷地を攻撃した
モロッコの主権 主権を佛国に移そうとするような企てには抵抗するつもりであると公言し。
按針塚発掘(横須賀) 英国公使夫妻等の立会いの下に人夫16にて6尺有余を発掘した
南ア清人の暴挙 23日上海経由ロンドンルータ社発
ロンドンクロニクルの報道によれば、南ア、ヨハネスブルグに於いて、5月13日千人余りの清国労働者が土人の屋敷地を攻撃して、2名のカフイル人と1名のインド人を殺害した。
解説:当時の新聞の解説によれば、清国の貿易収支は大幅な赤字であるが、それを補っているのが海外に出稼ぎに行っている大量の清国人のようである。先日もドイツ領南西アフリカで清国人が鉱山から逃げ出したとの記事があったが、清国人労働者はアフリカに於いて相当ひどい労働条件の下で働かされていたものと推測される。
モロッコの主権 22日ベルリン特約通信社発
モロッコ王は、如何なる計画があろうともいやしくもその主権を佛国に移そうとするような企てには抵抗するつもりであると公言した。
按針塚発掘(横須賀)
予てから計画中の、英人アダムス氏の墳墓がある横須賀町逸見13峠にある塚の発掘が、英国公使夫妻等の立会いの下に、人夫16名にて6尺有余を発掘したが、午後3時に至るも未だに何らの証拠を見つけることが出来なかった。古老の談によれば発掘の場所が違うとのことで場所を変えて発掘に取り掛かっている。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十五日(木)
正直な告白 今や到底勝利を獲得することができない事を悟ったと正直に報道している
ビリレフ中将 独立の指揮権を有する露国太平洋艦隊司令官に補された
正直な告白 23日ロンドン特約通信員発
露国に於いて講和を望む感情が次第に高まりつつあり、一度戦勝を得た後でなければ和を請うべきでないという議論に対してブウルス、ガゼット紙は、今や露国の思慮ある社会は到底勝利を獲得することができない事を悟ったと正直に報道している。
ビリレフ中将 24日上海経由ロンドンルーター社発電
ビリレフ中将は独立の指揮権を有する露国太平洋艦隊司令官に補された。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十六日(金)
米国と露艦隊 米国政府は厳重にその中立を維持するための準備中である
降将と軍法会議 ステッセル以下旅順の投降将校が軍法会議にかけられた
米国と露艦隊 24日ベルリン特約通信員発
米国政府は露国艦隊がフィリピン群島に寄港する際、厳重にその中立を維持するための準備中である。同地においてはウラジオまで航海を継続するに足るだけの石炭を蓄えておく予定である。
降将と軍法会議
ステッセル以下旅順の投降将校が軍法会議にかけられた。その様子は既に西欧の電報が報道するとおりであるが、近着の露国新聞によれば、旅順開城の原因と事情を調査するため4月13日露京に特別委員会を開いた。これは投降将校を処罰する目的ではなく単に開城当時の事情を正確に調査する為である。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十七日(土)
米国と極東問題 合衆国は今後数世紀の間フィリピン群島を維持する必要があると思われる
露艦上海に入る 25日午後露国義勇艦隊の3隻及び運送船3隻が上海に入港した
米国と極東問題 26日上海経由ロンドンルータ社発
米国陸軍卿タフト氏は、共和党のオハイオ州大会で次の演説を行った。
合衆国は東洋における貿易が次第に発展していく事とフィリピン群島の領有によって、極東における新しい問題に関与すべき権利があることを主張する。合衆国は今後30~40年の間、或いは今後数世紀の間フィリピン群島を維持する必要があると思われる。
露艦上海に入る
25日午後露国義勇艦隊の3隻及び運送船3隻が上海に入港した旨、府下の某所に電報があった。
東京朝日新聞明治三十八年五月二十八日(日)
東海航行警報(門司) 東支那海に向かって航行する船舶は当分警戒すべしとの通達があった
海戦機迫る 昨朝6時対馬海峡に於いて我が艦隊は敵艦を発見した
東海航行警報(門司)
露艦出現につき東支那海に向かって航行する船舶は当分警戒すべしとの通達があった。
海戦機迫る
昨朝6時対馬海峡に於いて、我が艦隊は敵艦を発見したとの報告が府下の某所に到達した。彼我が衝突する時期が刻々迫りつつあるものと思われる。(昨日第2号外再録)
東京朝日新聞明治三十八年五月二十九日(月)
砲声轟く 砲声が聞こえるとの情報が届いた
27日の敵艦隊 敵の艦隊は対馬南端を東北に向かい進行中である
砲声轟く
一昨朝、敵艦隊が対馬付近に現れ、わが艦隊がこれを発見したとの報告があったがやがて引き続き砲声が聞こえるとの情報が届いた。
27日の敵艦隊 27日門司特派員発電
午前10時40分敵の艦隊は対馬南端、東南約20マイルの所を東北に向かい進行中である。
東京朝日新聞明治三十八年五月三十日(火)</b>
大海戦 大勝利、敵殲滅 大本営公報 敵艦見ゆとの警報に接し連合艦隊は直ちに出動
大海戦 大勝利、敵殲滅 大本営公報
5月28日以来継続中である日本海海戦に関する連合艦隊司令長官東郷平八郎の報告は次のとおり。
(5月27日午前着電)
敵艦見ゆとの警報に接し連合艦隊は直ちに出動、これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し。
其の二(5月27日夜着電)
連合艦隊は本日沖の島付近に於いて敵艦隊を激撃し、大いにこれを破り、敵艦少なくとも4隻を撃沈し、その他には多大の損害を与えたり。我艦隊には損害少なし。駆逐隊、水雷艇隊は日没から襲撃を強行した。
其の三(5月29日午前着電)
連合艦隊の主力は27日以来残敵に対して追撃を続行し、28日敵艦ニコライ一世(戦艦)、アリヨール(戦艦)、セニヤーウイン(装甲海防艦)、アブラキシン(装甲海防艦)及びイズムルード(巡洋艦)よりなる一群に会して、これを攻撃し、イズムルードは分離して逃走したが他の4艦は降伏した。我艦隊には損害なし。
捕虜は海軍少将ネボガトフ以下約2千
東京朝日新聞明治三十八年五月三十一(水)
旗艦撃沈 敵帥捕虜:ロジェストウェンスキー提督は石見沖に漂流中我に収容された。
東郷大将戦闘報告
其の四:日本海の海戦と呼称する。
其の五:アドミラル、ウシャーコフを午前6時過ぎやむを得ずこれを撃沈した。
其の六:オスラビア((戦艦)ナワリン(戦艦)の沈没は確実であると認める。
旗艦撃沈 敵帥捕虜
敵の旗艦クニヤージ スーロフ(戦艦1万3千5百16トン)は海戦中撃沈されロジェストウェンスキー提督は他の軍艦に将旗を移したが、同艦もまた撃沈されて石見沖に漂流中我に収容された。提督は腕部に重症を受けているとの電報があった。
東郷大将戦闘報告 日本海海戦に関する連合艦隊司令長官報告
其の四(5月30日午後着電)
5月27日午後より翌28日にわたり沖ノ島付近から鬱稜島付近までの海戦を日本海の海戦と呼称する。
其の五(5月30日午後着電)
連合艦隊の大部分は前に電報した様に、一昨28日午後リアンコルド岩付近に於いて、敗残艦隊の主力を包囲攻撃してその降伏を受け、追撃を中止したが、午後3時ごろ更に南西方向に敵艦アドミラル、ウシャーコフの逃走するのを発見し、磐手、八雲は直ちにこれを追撃し、先ず降伏を勧告したが敵が応じないため午前6時過ぎやむを得ずこれを撃沈し、生存者3百余名を救助、収容した。以下略
其の六(5月30日午後着電)
オスラビア((戦艦)ナワリン(戦艦)の沈没は確実であると認める。
敵の損害を艦種別に区別すれば
撃沈 捕獲
戦艦 6隻 2隻
巡洋艦 5隻
海防艦 1隻 2隻
特務艦 2隻
駆逐艦 3隻 1隻
(長文のため抜粋)