1 当時の世界情勢

東京朝日新聞明治三十四年十月

1023

英国罷業継続 22日上海経由路透社発

英国造船業主の会議が開かれ、職工側が既報の就業条件を拒絶したので、満場一致で工場を閉鎖する事を決議した。

葡国革命続報 同上

リスボン来電=旧教徒の僧正は、皆共和政府に臣従した。

革命戦に参加した兵士には、4か月の休暇を与え、その間も給料は全額を支給される。そして地方から上京した兵士が、その間リスボン地域を守備する計画である。

墺国海軍拡張 同上

墺国提督モンテクデクリ氏は、政府が議会の協賛を経ずしてドレッドノート型戦闘艦2隻をトリイスト会社の申し込みに応じて発注を決定した事を是認し、現在の墺国海軍は全然大国の地位に相応しくないと論評した。

 

解説:当時のオーストリアの領土はアドリア海に面し、海軍を持っていた。

1022

佛国罷業と政局 21日タイムス社発

パリー来電=佛国首相ブリアン氏は、各種の公共的仕事が、再び平素通りの活動を始めつつあると言明した。なお同盟罷業が、下級社会に於いて一般に不人望となったことで、代議院に於ける社会党諸派は、非常な難局に立つことになった。その程度は、一二の高官が不謹慎な失言の為に被る面倒よりも更に大きいと言われている。

解説1016日「佛国罷業蹉跌」の続報

英国海軍運動 同上

帝国海軍協会は、トラファルガー海戦記念日に関連して、国防費に用いる1億ポンドの公債の募集を主張する運動を始めようとしている。この件は各方面より賛成が多い。

英国通牒と土紙 21日上海経由路透社発

二三のトルコ新聞は、英国の対ペルシャ通牒を論評し、英露両国を罵詈し、両国は共同して、ペルシャを無政府状態にしつつあると言明した。

 

解説:1020日「英国政府通牒内容」の続報

1021

英国の対波政策 20日タイムス社発

現在、印度政府がペルシャに於ける商隊通路の秩序回復に責任を負うと言われているが、英国外務省は、この様な問題は存在せず、又ペルシャの領土保全を侵害する様な問題も無いと宣言した。

波斯と露国 同上

露都来電=露国政府は、ペルシャ商路の安全を期する必要に関して、衷心より英国に同意した。

佛土借款協議成立 20日上海経由路透社発

パリー来電=半官的通報によれば、トルコ借款に関するフランス、トルコ両政府間の協議は、根本に於いて一致を見るに至った。佛国政府は、協議開始の際に要求した各保証項目(右金員をクルップ会社への支払い、若しくはその他獨逸を利する方面に使用しないと言う要求)中、一個の点をも放棄しなかったと言う。そして同借款は再び巴里に於いて募集する事になると思われる。

 

解説:トルコとペルシャは何れもイスラム教の大国であるが、今日の記事を見て分かる様にペルシャは非常に不安定な国柄である。

1020

佛国政府の成功 19日タイムス社発

パリー来電=鉄道罷業は終了し、人夫等は復業を急いでいる。今回、政府が断固たる措置を執り、この様な効果を収めた事により、中流社会の全部が政府の味方をするようにになった。

英国政府通牒内容 同上

テヘラン来電=英国がペルシャに送った通牒は、もしペルシャが商路の安全を回復することが出来ない場合には、英国が自らイスパハンに至るブシルシラス商路を監督する。但し英国の勢力範囲だけでは、騒乱が多い地域を包括できない為、インド政府は、中央帯の全部及び露国の勢力範囲中で、イズバハンに至る迄の区域に於いて、秩序維持を謀るであろうと述べ、更に必要な場合には活動の区域を一層拡張するであろうと付言した。

英露の対波政策 19日上海経由路透社発

本社が入手した情報によれば、英国の通牒は露国と協議した後にペルシャに送ったものである。両国政府は、相互に一致してその行動を執りつつある。但し外人の利益及び安全、秩序が維持されている限り、両国は堅く無干渉主義を執ることに決心している。

解説:ペルシャの北半分は露国の、南半分は英国の勢力範囲である。当時の新聞を見ていると、中東のペルシャと南米のベネズエラには、紛争が絶えず起こり、問題の多い国であった。これは民族に起因している問題かも知れず、この傾向は現代でも見られる様に思う。

日本人殺害陰謀 19日桑港特派員発

 

去る15日夜、15名の日本人を殺害しようとして爆裂弾を以ってその家屋を破壊した犯罪者2名が捕縛された。両人とも18歳と21歳の青年であるが、自白に基づき5名の教唆者に対し捕縛命令を発した。

1019

獨紙の波斯観 18日タイムス社発

伯林来電=英国はペルシャに対し通牒を送り、直ちに南部ペルシャに於ける商路の安全を回復する様に要求し、さもなければ重大な結果となるだろうと警告した。獨紙ツアイツングは、これを評し、英国は露国をペルシャから撤退させようと努力し、遂に成功せず、今や両国は将にペルシャ分割を断行しようとしていると公言した。

佛国罷業者暴行 同上

パリー来電=鉄道罷業の失敗は益々確実となると共に、暴行を敢えてするものが頻繁に発生している。国内の各地に於いて、鉄道財産に無法の損害を加える報道が続々と発生している。警察は、犯罪嫌疑者の逮捕に努めている。。

波斯問題評論 同上 

タイムス紙は、ペルシャ問題に関し、次の社説を掲げている。ペルシャに於ける英国の商業的利益を保護し、その安全を図る事は、現在極めて必要となっている。しかし英国政府はペルシャの領土を求める意思を有せず、むしろペルシャ自身が南部諸州の無政府状態を一掃するべきと信じると言明した。

1018

土希関係危機 17日タイムス社発

コンスタンティノープル来電= ギリシャはクリートの政治家ヴェニゼロス氏を首相にしようとしている。但しヴ氏がギリシャ首相となることを諸諾する場合には、トルコはギリシャとの外交関係を断つであろうと一般に信じられている。

解説:ギリシャは列強の介入により、1830年ロンドン議定書が締結され、トルコからの独立が決定されたが、オスマン帝国の領土であったクレタ島の帰属についてはトルコとの間で紛争となっている。190810この新聞に登場するクレタ島の「ヴェニゼロス」が、列強の反対を押し切り、ギリシャとの統合を宣言している。ギリシャ政府は1909年に軍の離反によって倒れ、事態打開のためにクレタ島からヴェニゼロスが召喚されてギリシャ首相に就任している。

英国政府の警告 17日上海経由路透社発

テヘラン来電=英国は、貿易上に受けた損害に鑑み、ペルシャ南部地方の秩序回復があまりにも遅れる場合には、容易ならぬ結果を来す旨を警告する手厳しい公文をペルシャ政府に送った。

解説:ペルシャの南半分は英国の勢力範囲となっている。北半分は露国の勢力範囲

爆裂団を投げ込む 白人労働者の暴挙 16日桑港特派員発

ワシントン州ガット市の材木会社に雇われている十余名の日本人の家に、15日夜半、白人労働者が爆裂弾を投げ込み、就寝中の者を殺害しようとしたが、幸いに寝室より投げ出されて軽傷を負ったことと家屋の一部家具を破壊されただけに留まった。これより先に、同人達は日本人を会社から解雇するよう要求したが会社はこれに応じなかった為にこの暴挙に出た様である。

1017

佛国罷業落着 16日上海経由路透社発

パリー来電=同盟罷業者の計画及び目的は全て水泡に帰し、交通機関は本日より平常となるものと期待されている。電灯その他皆復旧した。

太平洋防備論 15日桑港特派員発

14日夜、商業会議所の主催する海軍卿メイヤー氏歓迎会を当地で開催したが、氏は、現在太平洋岸の問題である戦闘艦隊の派遣について、次の様に語った。艦隊の分離は、策を得たるものではない。もし露国が日露戦争に於いて、艦隊を分離しなかったならば、その結果は、露国が敗れることにはならなかったであろう。余は太平洋岸の防備が必要であると認める故に、真珠湾(ハワイ)の防備を厳として、太平洋のジブラルタルとする計画である。又上院議員パーキン氏は、歓迎の挨拶の中で、日本は常に海軍を拡張しているので、若し日米戦争が起こるならば、日本はハワイを占領するであろうと論じた。 

1016

佛国罷業蹉跌(政府強圧手段の成功) 15日タイムス社発

巴里来電=同盟罷業運動は、政府が鉄道人夫を予備兵としての資格で招集し、且この愛国心に訴える所があった結果、其の蔓延に失敗することになった。運転列車は、少しづつ増加するようになり、又復帰した人夫も多くなってきた。罷業者の首領等は引き続き、労働者を誘惑する檄文を発しているけれども、多分この難局から救われる方策は、会社との協議を再開する方法のみである事を認めざるを得ないと思われる。

僧尼と西班牙 15日上海経由路透社発

マドリード来電=スペイン首相カナレヤス氏は、代議院に於いて演説し、ポルトガルの僧尼は、一切スペインに留まる事を許さない。我が国は、我が僧尼を以って既に充分であると言明した。

河内進水式 横須賀湾頭の壮観 内国電報(15日発)

伊号戦艦河内(かわち)の進水式は予定通り15日午後2時、横須賀軍港内に於いて挙行された。

▲進水式開始

時は正に午後2時、伊号戦艦河内の進水式は、予定通り15日午後2時、横須賀軍港内に於いて行われた。高く式場を仰げば、斎藤海相は、最上段の皇族殿下の次席、瓜生司令長官の上位、そして斜めに玉座の右方に下がって、進水命名書を持し、坂本工廠長は、小幡造船部長と相並んで第二段目の截鋼台(せつこうだい)の壇上に直立し、野中進水主任は第三段目の壇上に立って号笛命令を発する構えよろしく、式場の光景全て厳然として威儀冒すべからざるものがある。かくして式場の整頓を見た坂本工廠長は、これを瓜生司令長官に告げ、長官これを斎藤海相に告げると、同海相は恭しく陛下に敬礼して、次の進水命名書を朗読した。以下略 

解説:戦艦河内は、日本海軍が最初に建造した弩級戦艦である。瓜生司令長官は、米国のアナポリス海軍兵学校を卒業しており、その奥さんは、津田梅子と一緒にアメリカに留学した永井茂子である。二人ともクリスチャンであった。

1015

佛国罷業首領捕縛 14日タイムス社発

巴里来電=鉄道同盟罷業運動の首領株5名が捕縛された件は、大いに社会党員及び無政府的扇動家等を驚かせた。これは、彼らが官憲は決して社会党機関新聞の事務所に侵入する様な事はしないであろうと想像していた事に依る。

罷業に対する輿論 同上

佛国の輿論は、今回の鉄道同盟罷業を以って、危険で且頗る恥ずべき性質とする首相ブリアン氏の意見に同意し、一般に政府が扇動家に対し、厳重な処分をする事を希望している。

太平洋沿岸大会 13日桑港特派員発 

戦闘艦の太平洋派遣と海運業拡張問題について、13日午後2時、加州知事と商業団体代表者、商船拡張協会役員等が会合した。そして来月17日より、3日間、サンフランシスコに於いて沿岸大会を開く事を決定し、14日、加州知事の名前で、ワシントン、オレゴン、アイダオ、ネバダ、ユタ、ニューメキシコ、アリアナ、ハワイ、アラスカ諸州の知事、上院下院の議員等に招待状を発する予定である。

1014

佛国鉄道罷業と陸相 13日タイムス社発

巴里来電=佛国有鉄道の同盟罷業者に対する国民の反感は益々増長しつつある。北部及び西部の国有鉄道は運航を中止した。陸軍大臣ブルウン将軍は、賞賛に値する迅速さで、北部鉄道の職員及び人夫3万名を、3週間、軍隊に入らせるとの命令を発した。これは、同鉄道線を平常どおりに運転させる為である。又更に一つの命令を発し、鉄道人夫を全員、陸軍大臣の直接支配下に置く事とした。

清人使役不可 13日上海経由ロイター社発

大幹線太平洋鉄道会社は、英領コロンビア政府に対し、西武線敷設工事に、清人を使役することを許可されたいとの出願をしたが、同政府はこれを却下した。

葡国植民地分割論 同上 

伯林来電=獨紙テグリツヘ、ブンドシヤウは、若し英国が真に獨逸との慇懃な関係を重んじるのであれば、同国は英獨協約を実行し、衰退したポルトガルの植民地を分配する件に同意して、これを証明する事を得ると言明した。

1013

其後のリスボン 12日タイムス社発

リスボン来電=新共和政府は、内政改革及び各階級に徴兵制度を施行する件等に関する布告を起草中であり、又現在財政整理についても評議中である。

広報によれば、最近の革命戦に於ける死傷者数は、死者65名、負傷者728名である。

英国の対清政策論評 12日上海経由ロイター社発

ロンドンタイムスの北京通信員ドクター、モリソンは、著作家クラブの饗宴に臨み、その席で演説を行った。氏は、支那には驚くべき活動力がある事及び無限に開発の余地があり、遼河(りょうが)以西に清国の鉄道を延長する事に英国が反対する理由はない。英国は日本の誤った政策を援けた結果、これまで通り清国の主権と満州の門戸開放主義を支持することにより、英国人の利益を保護してきたが、これができないのではとの疑問を招くのは、実に遺憾である。

清国行政の裏には、元より大きな欠点があるが、同国の将来は、要するに有望である。又英国は清国の権力がチベットに及ぶことを憤る理由は無いが、しかし法律上の権利を持たないネパールに対する清国の干渉は、強硬に防衛しなければならないと述べ、最後に清国に於ける宣教師の功績を称賛し、且満州鉄道に関する問題以外については、英国政府の政策を推奨した。

解説:ドクター、モリソンは、オーストラリア出身の医師、旅行家で、1895年、『タイムズ』通信員となり、1897年以降、北京に駐在している。『タイムズ』代表としてポーツマス会議に出張した。1912年『タイムズ』を辞め、中華民国総統府政治顧問となっている。1900年北清事変では、北京籠城中の日本人の立派な働きについてタイムズ祇を通して全世界に伝えている。

太平洋艦隊派遣期 11日桑港特派員発

海軍卿メーア氏は、10日シャトルより当地に到着したが戦闘艦隊の太平洋派遣に関し次の様に語った。 

予は太平洋岸の国防状態を研究すると共に、適当な沿岸防備をする為に来たのである。沿岸の市民は、戦闘艦隊の派遣を希望しているが、2年後でなければ、戦闘艦を入れるに足るドックが無いので、大西洋から分派する事はできない。

1012

葡国僧侶放逐 11日タイムス社発

リスボン来電=ポルトガル人民は、一般に新境遇を承認し、共和制に従おうとしている様である。政府は、巧みに民衆の注意を僧侶排斥に向けさせ始めており、今回ジニスイト派僧侶を放逐し、各寺院の財産を没収する為、厳格な手段を執る旨を宣言した。なお数名の尼はその家族に返還された。

解説1905年、佛国も政教分離で、教会の財産を没収している。

朝鮮問題論評 同上

ロンドンタイムスの京城通信員は、寺内統監が、日韓合併を遂行した手際を極力称賛し、同時に突然外国人の治外法権を撤廃した事を非難し、合併の結果日本の国際的地位が果たして強固になったかどうか疑い、日韓合併は清国に対し、更に紛争の原因となるであろうと説き、最後に人為的手段を以って、奨励、補助している日本の工業的企画の為、朝鮮を外国人に対し閉鎖しようと試みない事を希望した。

葡国協会財産没収 11日上海経由ロイター社発

ジエスウト教派の所有財産は、国家の財産となり、又他の宗教団体は、国家との関係に照らし、近々処理されるべき旨の布告が発布された。これについてローマ法王はポルトガルに於けるジエスウト派信徒の多数はブラジルに、他の一部は英国に渡るという通知を受けた。

英国綿糸紡績工場再開 同上 

ランカシャーに於ける殆ど全ての綿糸紡績は、協議が落着の結果、その工場を開いた。